2017年8月25日金曜日

良い意味で日経らしくない中村結記者の「日銀ウオッチ」

「日本経済新聞のコラムで最も評価しているのは?」と問われたら夕刊の「日銀ウオッチ」を挙げたい。筆者はかなりの人数になるが、誰が書いても外れの記事は少ない。批判精神も随所に感じられる。ほとんどが読む価値のある記事に仕上がっている。
九州北部豪雨後のJR日田彦山線の陸橋(福岡県東峰村)
            ※写真と本文は無関係です

24日のマーケット・投資2面に中村結記者が書いた「ETF大量買いの功罪」という記事も好感が持てた。日経のマーケット関連記事は株価に関して「上げ賛成」の内容が目立つ。そんな中で日銀のETF買いに批判的な視点から記事を書いているのは良い意味で意外だった。中村記者はおそらく経済部の記者で、株式市場を担当する証券部の記者とはポジションが異なるのだろうが、それでも評価に値する。

とは言え、若干の注文はある。まずは記事の前半を見ていこう。

【日経の記事】

「あんなに大量になってしまって、どうやって売るんだろうか」。為替ディーラー歴40年超の男性がこうつぶやいた。「大量」とは日銀の上場投資信託(ETF)買いだ。日銀が購入をやめるか売却に動けば円相場への影響も必至だ。円高、円安のどちらに動いても取引機会にはなるが、株式市場の「官製相場」には強い違和感を覚えるという。

日銀がETFの保有残高増加ペースを年間3兆3千億円から6兆円へと引き上げてから1年。表だった批判が目立ってきた。8月は北朝鮮リスクやトランプ政権のつまずきで米株に続いて日本株も下落する日が続いた。「午前に値下がりすると買う法則」と認識されている日銀の月間買い入れ額は今年最大だ。日銀の存在感は高まっている。

日銀のETF買いは「リスクプレミアムを下げるため」とされる。ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏は「投資家を楽観的にさせて株価を上げ、消費などを促して物価上昇率を高める」と解きほぐす。確かに日経平均株価の上昇を促して市場の雰囲気を明るくし、2万円への道筋を作った。だが井出氏は「6兆円に増やしてから異論が増えた。やめるなら今」と主張する。

日本株ヘッジファンドの運用担当者も「百害あって一利なし」の立場。市場の価格決定機能は薄れ、上がりも下がりもしづらい相場が続く。日経平均株価の値幅は7月、31年ぶりの小ささだった。


◎ETF買い、やめた時の影響は?

まず細かい話から。「表だった」は「表立った」と表記した方が好ましい。「表だった」だと「(裏ではなく)表だった」とも取れるので、「表立った」の方が読者を迷わせる余地がない。
九州北部豪雨で被害を受けた「三連水車の里あさくら」
   (福岡県朝倉市)※写真と本文は無関係です

本題に戻ると、「ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏」の「やめるなら今」はもう少し詳しく解説してほしかった。「やめる」とは新たなETF買いを「やめる」との意味だと思うが、「ETFの保有をやめる(ETFを売却する)」とも解釈できる。この辺りは明確にしたい。

なぜ「」なのかの説明も欲しい。文脈から判断すれば「6兆円に増やしてから異論が増えた」からだろう。そして「6兆円に増やしてから」は1年だ。「異論が増えてから1年経つので、やめるならば今」だと、まともな説明にはなっていない。井出氏もこんな理由で「やめるなら今」と訴えている訳ではないだろう。

別の機会でも構わないので、中村記者には「日銀が今ETF買いをやめたらどうなるのか」を論じてほしい。個人的には「株価が暴落してもいいから、ETF買いはやめて、保有分も急いで売却すべきだ」と思っている。記事の内容から判断すると、中村記者も日銀のETF買いには懐疑的なはずだ。その立場から鋭い分析記事を書ける日経の記者は多くないはずだ。ぜひ中村記者に頑張ってほしい。


※今回取り上げた記事「日銀ウオッチETF大量買いの功罪
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170824&ng=DGKKASDF23H13_T20C17A8ENK000

※記事の評価はB(優れている)。中村結記者への評価も暫定でBとする。

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