2017年8月18日金曜日

セゾン投信の解約しにくさを「顧客本位」と日経は言うが…

契約は簡単にできても解約手続きはやたらに面倒という企業は珍しくない。利益を出すのが企業の目的なので仕方ない面もあるが、少なくとも「顧客本位」ではない。しかし18日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「迫真~動かぬ個人資産1800兆円(5)草食投資家、増殖中」という記事では、そんなやり方を採用しているセゾン投信を「顧客本位」の代表例のように紹介している。
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」(大分市)
           ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

セゾン投信社長の中野晴啓(53)の異名は「積み立て王子」。コツコツ投資の意義を年150回超開くセミナーで訴え続けてきた。同社は長期投資をやめさせないように手続きを面倒な書類申請にしている。顧客から苦情もきたほどだが、中野は「短期の売買を好んだり元本を分配する投信を買ったり。顧客のニーズは往々にして間違っている」と顧客本位を強調する

成功体験を積んだ人が増えれば貯蓄から資産形成に進む人が増えると中野は信じている。米国では40年近くかけて成功体験を蓄積した。日本はまだ動き始めたばかりだ。


◎「顧客本位」を本気で信じてる?

セゾン投信の中野晴啓社長が「顧客本位を強調する」のは分かる。解約を面倒にする方が自社にとっては好ましいし、そうしたやり方が「顧客本位」だと思ってもらえる方が好都合だ。だが、取材する側が相手の言い分をそのまま受け入れるのは問題だ。
九州北部豪雨後の朝倉光陽高校(福岡県朝倉市)
         ※写真と本文は無関係です

短期の売買を好んだり元本を分配する投信を買ったり。顧客のニーズは往々にして間違っている」という中野社長の主張が間違っているとは言わない。だが、それは顧客にきちんと訴えればいいだけの話だ。「長期投資をやめさせないように」しっかり情報提供しても、それでも解約したいと顧客が望めば、受け入れるのが「顧客本位」だ。

それを「手続きを面倒な書類申請にして」解約を阻止しようとするセゾン投信のどこが「顧客本位」なのか。そもそも、解約を望む人は「短期の売買」や「元本を分配する投信」に切り替えるとは限らない。手数料が低い別の会社で長期投資をするのかもしれないし、マイホームの購入資金に充てるのかもしれない。なのに一律で「手続きを面倒な書類申請にしている」のならば、「顧客本位」とは程遠い。

記事の最後には「川上穣、堀大介、嶋田有、野村優子、宮川克也が担当しました」と出ている。取材班で筆頭の川上穣記者は金融業界寄りの記事を以前にも書いている。今回もそうした流れに沿っており、ブレてはいないが…。

ついでに言うと「貯蓄から資産形成」という言い方は引っかかる。金融庁が唱えているのに倣ったのだろうが、これだと「貯蓄は資産形成に当たらない」とのニュアンスが出てしまう。しかし、「貯蓄」でも「資産形成」できるのは自明だ。安易に使うのは避けてほしい。


※今回取り上げた記事「迫真~動かぬ個人資産1800兆円(5)草食投資家、増殖中
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170818&ng=DGKKZO20109830Y7A810C1EA1000

※記事の評価はD(問題あり)。川上穣記者への評価はDに引き下げ、他の担当者への評価は見送る。川上記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

読む価値を感じない日経 川上穣記者の「スクランブル」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_8.html

積み立て型NISAで業界側に立つ日経 川上穣記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_26.html

相変わらず金融業界に優しすぎる日経 川上穣記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_13.html

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