2016年5月9日月曜日

セブン&アイ 反鈴木敏文派を「虫」と呼ぶ週刊ダイヤモンド

週刊ダイヤモンドは5月14日号の特集「カリスマ退場 流通帝国はどこへ向かうのか」でセブン&アイホールディングスの鈴木敏文会長を巡る問題を取り上げている。鈴木氏ヨイショの急先鋒とも言える田島靖久副編集長が担当者として名を連ねていることもあり、興味深く読んだ(残りの担当は新井美江子記者、泉 秀一記者、大矢博之記者)。Part3「カリスマが築いた帝国の軌跡」を中心に、相変わらずのヨイショ路線も残ってはいる。一方でPart2「カリスマの躓き」では鈴木氏を「絶大な権力を持ち続けた末に“裸の王様”になった」と評するなど、バランスを取ろうとする意図も感じる。
筑後平野に沈む夕陽(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

世襲問題に触れずじまいだった4月23日号の「DIAMOND REPORT~セブン 鈴木会長引退 後継人事 まさかの否決 カリスマ経営者の誤算」という記事とは異なり、今回はきちんとこの問題を論じていた。そうは言っても、特集全体を見渡すと指摘すべき点は多い。まずはPart1「クーデターの全貌」から見ていこう。

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PART1で最も問題があるのは「鈴木を退任に追い込んだ『獅子身中の虫』たち」という最初の記事だ。説明に矛盾がある。この記事では今回の騒動について「これは長きにわたって用意周到に仕組まれた事実上のクーデターだった」「鈴木を追い込んだのは、『獅子身中の虫』たちが周到に準備していた、事実上の『クーデター』だった」と断言している。しかし、読み進めると話が変わってくる。記事の最後の2段落は以下のようになっている。

◎偶然起きた「用意周到なクーデター」?

【ダイヤモンドの記事】

一連のクーデターには首謀者がいなかった。ただ、次男の康弘を取締役に据えたことを「次男を優遇し、世襲させようとしている」と捉え、それをもって「鈴木を許せない」と感じた「獅子身中の虫」たちが多くいたのだ。

彼らが偶然にも集まり、行動を起こし始めた途端、歯車がうまくかみ合い、大きなうねりとなって鈴木を追い込んでいったというわけだ

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最後の説明が正しいのならば、反鈴木派の動きは統率の取れたものではない。「用意周到に仕組まれた事実上のクーデター」との説明は誤りだろう。

この記事には他にも気になる点がある。「用意周到に仕組まれた」ものでないとしても「事実上のクーデター」とは言えるだろうか。「クーデター」とは「既存の政治体制を構成する一部の勢力が、権力の全面的掌握または権力の拡大のために、非合法的に武力を行使すること」(大辞林)だ。

つまり「事実上のクーデター」と呼ぶためには、単なる権力闘争ではなく「非合法的」な要素が必要となる。しかし、取締役会で鈴木氏の出した人事案が否決され、それを受けて同氏が自らの意思で退任したのであれば、クーデター的要素は取りあえず見当たらない。見えない所で何かあった可能性は残るが、記事では「」たちの「非合法的」な動きには触れていない。これを「事実上のクーデター」と書くのは正確さに欠ける。

さらに引っかかるのが、セブン&アイ内の反鈴木派の人々を筆者らが「」と呼んでいる点だ。これは鈴木氏が記者会見で述べた「獅子身中の虫」から来ている。「獅子身中の虫」とは「組織などの内部にいながら害をなす者や、恩をあだで返す者」(デジタル大辞泉)を指す。つまり、「鈴木氏の提案する人事案を否決に持ち込もうと行動を起こしたのは、セブン&アイという組織に害を与えたりする問題ある人物」と筆者らは判断したのだろう。

実際にそうならば問題はない。ただ、記事からはそうは読み取れない。記事では「」について以下のように書いている。

◎反鈴木派は害をなす「虫」?

【ダイヤモンドの記事】

関係者の話を総合すると、それは、伊藤が講師を務めるセミナーや研究会などで以前から伊藤を知る人、そして鈴木に恨みを抱く人たちだ。

「鈴木が次男の康弘を取締役に引き上げた際などに、大きな失策などなかったにもかかわらず、退任させられた幹部が複数いる。彼らは至る所で不満を漏らしていた」(セブン&アイ関係者)

社内には、"天皇"と呼ばれていた鈴木敏文に不満を持っていた社員が少なくなかった。こうした人たちは、伊藤に社内の状況、とりわけ「次男を重用するなど、ガバナンスが効いていないことを伝えていた」(同)といわれている

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これならば、「鈴木氏の暴走に待ったをかけようと動いた有志の者」と捉える方がしっくり来る。記事の内容からすると、筆者らは「」に会ったわけではなく、鈴木氏に近い人から「」の動向を聞いただけだと思える。その動向にも明確に組織へ害を与えた形跡は見当たらないようだ。だとしたら「」呼ばわりするのは問題がある。

社内では、『虫』たちの言葉を聞いた長女が、鈴木にノーを突き付けたとみられている」「そんなサード・ポイントの登場に、チャンスとばかりに目を付けた『虫』が「複数いた」(関係者)」といった書き方からは、「」に対する筆者らの敵意すら感じる。もっと中立的な呼称にすべきだ。

筆者らは「」に会っていないのではないかと指摘したが、記事には「鈴木を退任させるという目的を達成できたにもかかわらず、彼らの表情は浮かない」との「」に関する記述があることを付け加えておく。記事からは「」が誰か特定できていないと解釈できるものの、なぜか「表情」は観察できたようだ。「彼らの表情は浮かない」などと見てきたような書き方をするだけの材料があるのか疑問が残った。

創業家である伊藤家に関する説明も腑に落ちない。

◎名誉会長は鈴木氏の人事案に反対せず?

【ダイヤモンドの記事】

クーデターの中で、まず重要な位置付けとなったのが、創業家である「伊藤家」だった。創業者でセブン&アイ名誉会長の伊藤雅俊は、人情味溢れる人格者として有名。「資本と経営の分離」を明確にし、鈴木の経営には一切口を挟まなかった。

そんな伊藤家に、昨年あたりから頻繁に出入りし、社内の実態について吹き込んでいた社員たちがいる。“天皇”のように振る舞う鈴木に対し、普段から不信感を募らせていた「虫」たちだ。

とはいえ、伊藤は人格者。たしなめることはあっても、行動はしなかったはずだ。ところが伊藤家にも変化が起きていた。セブン&アイの幹部は、「伊藤も92歳と高齢。実際には伊藤の長女が権力を握っていた」と明かす。

これは、鈴木が会見で述べていた「これまで良好な関係にあった。けれどここにきて、急に変わった。世代が変わった。抽象的な言い方だが、それで判断してもらいたい」との言葉と符合する。

詳細は後述するが、社外取締役の助言に従い、会社側が人事案についての承諾を求めに行ったもののはんこをついてもらえなかった。社内では、「虫」たちの言葉を聞いた長女が、鈴木にノーを突き付けたとみられている。

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上記の説明だけ読むと「伊藤雅俊名誉会長は鈴木氏の経営方針に異を唱えないが、その長女は違う」と受け取れる。しかし、セブン&アイの村田紀敏社長が鈴木氏の提案した人事案への承認を求めたところ、伊藤名誉会長は拒否したと言われている。どうも話が合わない。

そもそも記事の「会社側が人事案についての承諾を求めに行ったもののはんこをついてもらえなかった」という部分は誰の承認を求めに行ったのか明示していない。名誉会長の承認をもらいに行ったら代理の長女に拒否されたのか。伊藤家の承認を求めに行ったら代表として長女が出てきて拒否したのか。長女に説得された名誉会長が拒否したのか。きちんと説明すべきだ。

詳細は後述する」と書いているが、記事を最後まで読んでもそこは分からない、というより詳述している部分が見当たらない。

最後に以下のくだりに注文を付けておく。

◎鈴木氏は「流通最後のカリスマ」?

【ダイヤモンドの記事】

4月7日。セブン&アイ・ホールディングス会長の鈴木敏文は、どこかをにらみ付けるような厳しい表情を浮かべながらこう語った。

この日、鈴木は、決算会見に急きょ参加、「全ての役職から身を引く」と、退任の意思を明らかにした。セブン&アイの“天皇”と呼ばれた「流通最後のカリスマ」の退任に、業界は騒然となった。

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ここでの問題点は週刊ダイヤモンド2015年6月6日号の特集「流通最後のカリスマ 鈴木敏文の破壊と創造」と共通する。鈴木氏が「最後のカリスマ」ならば、ファーストリテイリングの柳井正氏はどうなるのか。ダイヤモンド編集部では「柳井氏は流通業界のカリスマとは言えない」と判断しているのだろうが、常識との乖離が甚だしい。

今回の特集には「絶大な権力を持ち続けたことで、いつしか裸の王様になってしまった鈴木会長。それに気付けなかったことが、大きなつまずきの要因だったのかもしれない」との記述がある。昨年の特集を含め徹底的に鈴木氏を持ち上げて、「裸の王様」に「王様は裸だ」と忠告しなかったのはダイヤモンド自身だ。

「王様は裸だ」と気付けなかったのか。気付いていたのにヨイショ記事を垂れ流し続けたのか。いずれにしても、しっかり反省してほしい。


※今回の特集に関しては、さらに指摘を続ける。昨年の特集に関しては「ダイヤモンド『鈴木敏文』礼賛記事への忠告」を参照してほしい。

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