2016年5月5日木曜日

企業面 近鉄エクスプレスの記事に見える日経の課題

ゴールデンウイーク中の日本経済新聞に載る企業関連記事はあまり中身がないのが普通だ。5日の朝刊企業面のトップ記事「近鉄エクスプレス、日本製品を中国で翌日配達  現地保管で早く ネット通販向け」もその例に漏れない。いつからサービスを始めるのか触れていないし、そもそも中国で配達するのは近鉄エクスプレスではないようだ。これをトップに据えるしかないなら、企業報道部の部長・デスクは紙面の作り方を根本的に見直した方がいい。
千鳥ヶ淵の桜(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です

企業ニュースで構成する紙面を3連休の中日に作るのが、そもそも間違いだ。ニュースがあふれているならいい。しかし、実際は記者に捻り出させているのだろう。だから中身の乏しい記事をずらりと並べる破目になる。ニュース記事で紙面を埋めるという考え方をもう止めたらどうか。面白いインタビュー記事などをトップに据えた方が、記者にとっても読者にとっても有益だ。

話を戻して、記事の問題点を具体的に指摘していこう。

【日経の記事】

航空貨物大手の近鉄エクスプレスは中国のインターネット通販の利用者向けに現地で配送サービスを始める。日本製品など中国で人気の高い商品を近鉄エクスプレスの現地倉庫で保管し、注文を受けた翌日から配達できるようにする。日本から発送すると消費者の手元に届くまでに2週間ほどかかっていた。日本製品を早く送り届けることで競合と差異化して、海外商品に対する旺盛な需要を取り込む。

 中国の貿易会社、重慶縦深線網絡科技が3月に開設した外国製品の輸入サイト「洋貨舗」の通関業務や配送管理を近鉄エクスプレスが請け負う中国国内での宅配は中国郵政集団(チャイナポスト)が担う。同サイトは日本やオーストラリアの食品、日用品を中心に約6000品目を販売している。

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中国のインターネット通販の利用者向けに現地で配送サービスを始める」と書いているが、記事を最後まで読んでもいつからサービスを始めるのか分からない。ここからは推測だが、既にサービスは始まっているのではないか。そう思うのは「中国の貿易会社、重慶縦深線網絡科技が3月に開設した外国製品の輸入サイト『洋貨舗』の通関業務や配送管理を近鉄エクスプレスが請け負う」との記述があるからだ。3月のサイト開設に合わせてサービスを始めるのが普通だろう。

日経の企業ニュースでは、将来の話であっても頻繁に「When」が抜ける。それらは大きくウッカリ型と確信型に分けられる。確信型では、Whenに触れるとニュース性が落ちるので、わざとWhenを隠してしまう。今回の記事も「サービスは3月から始めているのだが、それだとアタマ記事としては弱い。だったらWhenを省いてしまえ」という判断が働いても不思議ではない。連休中に使う記事として無理に捻り出したのであれば、なおさらだ。ウッカリ型の可能性ももちろんあるが、今回は確信型だと考える方がしっくり来る。

さらに気になるのが「中国国内での宅配は中国郵政集団(チャイナポスト)が担う」という記述だ。これが正しいとすれば「現地で配送サービスを始める」のは、近鉄エクスプレスではなくチャイナポストだ。記事中の「通関業務や配送管理を近鉄エクスプレスが請け負う」との説明も「近鉄エクスプレスは配送サービスを請け負わない」との見方を裏付ける(「配送管理」が何を指すのかが微妙だが…)。この解釈が正しければ、記事の冒頭で「航空貨物大手の近鉄エクスプレスは中国のインターネット通販の利用者向けに現地で配送サービスを始める」と書いたのは誤りとなる。

近鉄エクスプレスがチャイナポストに配送業務を委託しているのならば、弁明の余地はある。しかし、記事中にそうした記述はない。記事に付けた写真には「近鉄エクスプレスは通関手続きや配送業務を請け負う(中国・重慶市の倉庫)」という説明を付けている。「配送業務」を担うのがチャイナポストならば、この説明も誤りだろう。

ついでに、記事中の冗長な表現に注文を付けておく。

【日経の記事】

重慶市にある近鉄エクスプレスの保税倉庫を活用する。保税倉庫では外国商品を関税を支払わずに輸入して保管することができる。注文を受けてから通関手続きをして商品を発送する仕組み。人気商品をあらかじめ在庫として抱え込むことで、最短で翌日に購入者に送り届けることが可能だ。

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保管することができる」は「保管できる」で十分だ。記事を簡潔に書く上で「することが」は完全に無駄だ。この段落は「こと」を3回も使っている。しかも2回は同一文中だ。改善例を以下に示す。

【改善例】

重慶市にある近鉄エクスプレスの保税倉庫を活用する。保税倉庫では関税を支払わずに外国商品を輸入して保管できる。注文を受けてから通関手続きをして商品を発送する仕組みだ。人気商品をあらかじめ在庫として抱え込むため、最短で翌日に購入者へ送り届けられる。

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文字数は減ったが、情報量は変わっていないはずだ。記事はできるだけ簡潔に書くように心がけてほしい。こうしたことをデスクが教えてくれる可能性は、日経ではほぼゼロだ。記者本人がしっかりした自覚を持って「簡潔に書く技術」を身に付けるほかない。


※記事の評価はD(問題あり)。

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