2016年1月12日火曜日

日経「経営の視点」に関する関口和一編集委員への助言

日本経済新聞の関口和一編集委員は、お世辞にもしっかりした記事が書けるタイプではない。今後も編集委員として記事を書かせたいのならば、周囲の支援は欠かせない。特に担当デスクの役割が重要だ。先輩に当たる編集委員の記事にはデスクもほとんど手を入れないのが日経の悪しき伝統ではある。しかし、それではいつまで経っても質の高い新聞にはならない。幸いにも関口編集委員は聞く耳を持っているのだから、積極的に助言してあげてほしい。
水天宮の真木和泉像(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

そんなことを思ったのは11日の日経朝刊企業面に関口編集委員の書いた「経営の視点~クルマとITの融合 迫られる自前主義の転換」という記事が載っていたからだ。この記事の何が問題なのか。関口編集委員への助言という形で示してみよう。

◆関口和一編集委員への助言◆

◎「米の車大手」はどこへ?

実際、会場では独アウディと米クアルコム、独フォルクスワーゲンと韓国LG電子が提携を発表。トヨタ自動車も米シリコンバレーに今月設けた人工知能(AI)研究所の概要を公表するなど、話題は家電を超えたところにあった。

トヨタさんの展示が大きく変わった」。米テスラ・モーターズに蓄電池を供給するパナソニックの津賀一宏社長もトヨタの変身ぶりを指摘する。昨年は燃料電池車「ミライ」を発表し水素社会の未来をうたったが、今年は自動運転などを全面に掲げたからだ。

フォルクスワーゲンも電気自動車の新しい試作車を公開。乗用車部門の最高経営責任者、ハーバート・ディエス氏は「クルマは究極のモバイル端末だ」と強調し、ベンチャー企業などと組んでIT化に力を注ぐ戦略を発表した。

欧米の車大手が自動運転に傾斜した背景には、この分野でのグーグルやアップルの台頭が見逃せない。それぞれが「アンドロイド・オート」といった車載用のソフトを投入し、車市場を侵食し始めている。

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欧米の車大手が自動運転に傾斜した」と関口編集委員は書いていますが、「米国の車大手」が自動運転に傾斜している様子が記事には出てきません。「米テスラ・モーターズ」は大手ではないでしょうし、自動運転絡みの言及もありません。記事の内容をそのまま映すならば「日独の車大手が自動運転に傾斜した」とした方がよいでしょう。「欧米」と入れたいのならば、「米国の車大手」にも触れるべきです。

ついでに言うと「自動運転などを全面に掲げた」は「自動運転などを前面に掲げた」の方がよいでしょう。「全面に掲げた」で成り立たないとは言いませんが…。


◎ボッシュは何の会社?

【日経の記事】

一方、車側からIT化に力を注ぐのが独ボッシュだ。同社は家電やITにも強く、フォルクマル・デナー会長は「5万5千人いる技術者の3分の1は実はソフト開発者だ」と言う。ドイツの業界横断的な産業革新策「インダストリー4.0」でも旗振り役を担う。

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この書き方だとボッシュが何の会社なのか分かりません。「車側からIT化に力を注ぐ」と書いているので、ボッシュを知らない読者は自動車メーカーだと思ってしまうかもしれません。そこそこ有名な会社ではありますが、「読者はボッシュが何の会社か知っている」との前提で記事を書くのは不親切すぎます。


◎「通行可能なデジタル道路地図」?

では日本の車メーカーはどうか。アナログ時代の切磋琢磨(せっさたくま)型の競争を勝ち抜いてきた各社は今も縦割り意識や自前主義が強い。東日本大震災の際、被災地支援のためにカーナビ情報を持ち寄り通行可能なデジタル道路地図を作ったが、1カ月で終わってしまった。電気自動車の充電方式でも足並みがそろわなかった。

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通行可能なデジタル道路地図」は不自然な日本語です。これだと「通行可能」なのは「道路」ではなく「地図」になってしまいます。「通行可能な道路が分かるデジタル地図」などとすべきです。この辺りは関口編集委員の苦手な分野でしょう。積極的に周囲の協力を仰いでください。

さらに言えば「アナログ時代」にも問題を感じました。これは後で述べます。


◎「車の制御技術」を車外で使う?

【日経の記事】

車の制御技術やカーナビソフトなどは確かに企業の重要戦略だ。しかし各社の装置がバラバラなままではスマホ世代には使いにくく車内でしか使えなければ興味も持たれないだろう

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今回の記事で最も問題を感じたのが上記のくだりです。「車の制御技術」に関して関口編集委員は「車内でしか使えなければ興味も持たれないだろう」と解説しています。しかし、車外で車の制御技術を使うと言われてもイメージが湧きません。車の制御技術を他の分野に応用することは可能かもしれませんが、「それができなければ車のユーザーが興味を持ってくれない」というのは荒唐無稽な話に聞こえます。

また、車の制御技術で「各社の装置がバラバラなまま」では使いにくいのでしょうか。私も車に乗りますが、例えば車両安定制御や燃料噴射制御に関して「各社の装置がバラバラで使いにくい」と感じたことがありません。そもそも、制御技術に関する装置が同じかどうか一般のドライバーが気付けるものでしょうか。

最後に「アナログ時代」「スマホ世代」に触れておきます。結論から言うと、こういう言葉の使い方はお薦めしません。筆者と読者の間に共通認識が乏しいからです。「アナログ時代」と言われても私にはイメージが湧きません。「1970年代はデジタル時代ではないだろうな」ぐらいの認識です。「スマホ世代」も同様です。「40代とか50代まで入るのかなぁ…」と迷いが生じます。

どうしても使いたいならば「50代以下のスマホ世代」などと明示すべきです。この辺りの配慮のなさにも「自分が分かっていることは読者も分かっているはずだ」との前提が見え隠れします。記事を書くときは「読者に誤解なく伝わるだろうか。説明不足の面はないだろうか」と怖がり過ぎるぐらいに怖がってください。


※記事と関口和一編集委員に対する評価はいずれもD(問題あり)とする。

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