2018年8月31日金曜日

最終回も間違い目立つ日経「モネータ 女神の警告」

日本経済新聞朝刊1面で連載した「モネータ 女神の警告~それぞれのジレンマ」は散々な出来だった。最終回の(4)は特に厳しい。記事の最後には「川崎健、清水桂子、松崎雄典、嶋田有、須永太一朗、後藤達也、八木悠介、丸山大介、野毛洋子が担当しました」と出ていた。専門知識を持った書き手が9人もいて「この記事はおかしい」と誰も思わなかったのか。あるいは、思ったのに言わなかったのか。それとも、言ったのに相手にされなかったのか。いずれにしても、取材班が大きな問題を抱えていたのは間違いない。
大江天主堂(熊本県天草市)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 川崎健様 清水桂子様 松崎雄典様 嶋田有様 須永太一朗様 後藤達也様 八木悠介様 丸山大介様 野毛洋子様

31日朝刊1面の「モネータ 女神の警告~それぞれのジレンマ(4)IT巨人に危機感 デジタルの富、どう配分」という記事についてお尋ねします。記事には「IT企業は従業員が少なく、一部のエリートに富が集中する。米フェイスブックの給与は平均2600万円、米グーグルは2200万円」との記述があります。

米フェイスブック」の従業員について同社のホームページは「2018年7月30日時点で30,275名」と記しています。グーグルもグループ全体で7万人を超える従業員がいるようです。従業員数が多いか少ないかに明確な基準はないとしても、従業員1万人以上の企業を指して「従業員が少なく」とは言わないはずです。記事の説明は誤りではありませんか。

付け加えると「給与は平均2600万円」だと「期間」が分かりません。注釈を付けずに「給与は○○円」と言えば、一般的には「月給」です。しかし、記事に出ている金額は「年収」だと思えます。

次の質問です。

記事では「重厚な設備を抱える製造業と違い、データという『見えない資産』を武器に莫大な富を稼ぐITの巨人たちは大きな投資を必要としない。今は一人勝ちゆえに社会の批判も集中するが、経済のデジタル化はあらゆる産業で進んでいく」とも書いています。

しかし、記事で「米IT4社(GAFA)」の一角とした「米アップル」は「過去5年」で「6兆円」の設備投資をしたことになっています。年間1兆2000億円はかなり「大きな投資」ではありませんか。

日経電子版の「IT大手 巨額投資に動き出す(The Economist)」(8月10日付)という記事では、以下のように説明しています。

アマゾンの17年の設備投資は250億ドルに達した(リースを含む)。この投資額は世界第4位に当たり、17万2000kmのパイプラインを抱えるロシアの巨大エネルギー企業、ガスプロムさえもやや上回る

米国の経済統計は企業会計よりも投資を幅広く捉え、研究開発費やコンテンツ制作費も投資と見なす。この定義に従えば、米国と中国のIT大手上位10社の総投資額は過去5年で3倍に増え、1600億ドル(約17兆8000億円)に達する

これでも「ITの巨人たちは大きな投資を必要としない」と断言できますか。今回の記事の説明は間違いではありませんか。
芥屋の大門(福岡県糸島市)※写真と本文は無関係です

さらに言えば、「ITの巨人たち」を「一人勝ち」と表現するのも誤りではありませんか。「一人勝ち」とは「他の人はみな負けて、ひとりだけ勝つこと」(大辞林)です。「ITの巨人たち」がいずれも勝っているのならば「一人勝ち」ではありません。

似たような問題は他にもあります。

記事ではフェイスブックに関して「データを独占しても、社会と折り合わなければ成長は続かない」と書いています。フェイスブックが「データを独占」していると取れる書き方ですが、あり得ません。「独占」に近いとも言えませんし「寡占」でもないでしょう。

もしフェイスブックが「データを独占」しているのならば「データという『見えない資産』を武器に莫大な富を稼ぐITの巨人たち」のうち、フェイスブック以外の「巨人」はデータを持っていないはずです。「データを独占」という説明は誤りではありませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。今回の連載では(2)(3)についても記事中の誤りに関する問い合わせをしていますが、回答が届いていません。お問い合わせ番号は「333183」と「333482」です。

今回の連載はお世辞にも成功とは言えません。間違いと説明不足の連続です。それでもきちんと反省して次に進むのならば希望が持てます。「IT巨人に高まる責任論は、この社会の未来図でもある」と連載を締めた皆さんは、間違い指摘を握り潰し続ける日経への「責任論」をどう考えますか。「間違いをなかったことにしたいから、あくまで無視」で正解ですか。そして、自分たちが手掛けた連載への問い合わせにはどう対応しますか。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~それぞれのジレンマ(4)IT巨人に危機感 デジタルの富、どう配分
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180831&ng=DGKKZO34806830Q8A830C1MM8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)、連載全体の評価はD(問題あり)とする。川崎健氏を連載の責任者だと推定し、同氏への評価をDで据え置く。同氏に関しては以下の投稿を参照してほしい。

川崎健次長の重き罪 日経「会計問題、身構える市場」http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_62.html

なぜ下落のみ分析? 日経 川崎健次長「スクランブル」の欠陥http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_30.html

「明らかな誤り」とも言える日経 川崎健次長の下手な説明http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_27.html

信越化学株を「安全・確実」と日経 川崎健次長は言うが…http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_86.html

「悩める空売り投資家」日経 川崎健次長の不可解な解説
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_27.html


※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

強引に「運用難」を描き出す日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_72.html

製薬会社の従業員が「空港封鎖」? 日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_81.html


※「モネータ 女神の警告」の過去の連載に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_59.html

間違った説明が目立つ日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_14.html

株主・銀行は「力失った」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_7.html

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