2018年8月3日金曜日

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる

日本経済新聞の中村直文編集委員が相変わらず苦しい。3日の朝刊企業1面に載った「ヒットのクスリ~『ダウンタウン』発掘の極意 成功体験にツッコミを」という記事でも、その傾向は変わらない。中身を見ながら「ツッコミを」入れてみたい。
有明海(佐賀県太良町)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

4月に沖縄で吉本興業の大崎洋・共同代表取締役社長CEOにインタビューする機会があった。お笑いの最前線に立ってきた大崎氏の話にはマーケティングの極意が数多くちりばめられていた。



◎今は8月だが…

4月に沖縄で吉本興業の大崎洋・共同代表取締役社長CEOにインタビューする機会があった」と言うが、今は8月だ。「なぜ4カ月も前の話を?」とは思う。

この後は以下のように続く。

【日経の記事】

代表的なのが今もお笑いのトップに君臨するダウンタウンの成功エピソードだ。1980年代初め、大阪へ“左遷”されてきた大崎氏はタレントの養成学校でダウンタウンを初めて見たとき、衝撃を受けた。「もう島田紳助や明石家さんまのようなレベルの芸人は出てこないと思っていたが、いるとこにはいるもんだ」(よしもと血風録



◎どこが“左遷”?

吉本興業が「制作部東京事務所」を開設したのは1980年。「制作部東京事務所」を「東京支社」としたのが1992年なので、「1980年代初め」の吉本は疑う余地のない「大阪企業」だった。なのになぜ「大阪へ“左遷”」となるのか。「左遷」ではなく「“左遷”」となっている理由も含めて、記事では全く説明がない。

しかも「大崎氏」のコメントを「よしもと血風録」から持ってきている。だったら、何のために「インタビューする機会があった」と冒頭で打ち出したのか。「よしもと血風録」に詳しい経緯が出ているのならば、「インタビュー」するまでもない。

さらに記事を見ていこう。

【日経の記事】

ところが当初は思うように売れない。当時のお笑いの中心地はなんば花月(大阪市)のような大型の劇場で、しかも年配の客が多い。「ぼそぼそしゃべるようなダウンタウンの漫才はなかなか面白さはピンとこない。しかも大劇場では大きな身ぶり手ぶりで驚きを見せないと伝わらない」と大崎氏は振り返る。

そこで新しい才能に応じた規模の小さい「心斎橋筋2丁目劇場」を作った。これだとダウンタウンのようなきめ細かいしぐさやしゃべりの面白さが伝わる。テレビの感覚にも近く、ブレークしていく。「新しきぶどう酒には新しき革袋」というわけだ。



◎左遷された若手社員が「劇場」を作る?

1980年代初め」の大崎氏はまだ20代。しかも「“左遷”」されている。なのに「ダウンタウン」を売り出すために「『心斎橋筋2丁目劇場』を作った」という。常識的に考えれば、左遷された若手社員が「新しい劇場を作る」と言っても受け入れてもらえそうもない。

それがなぜ可能だったのかは説明すべきだ。そもそも「“左遷”」ではなかった可能性が高そうな気はする。

次のくだりでは記事の書き方に注文を付けたい。

【日経の記事】

こうした経験から大崎氏は新しい才能を発信する場作りに仕事の軸足を置いた。「お笑いも時代の空気を吸わなければ生きていけない」(大崎氏)。沖縄での学校設立、アジアでのコンテンツ配信や日本全国やアジアで生活しながらお笑いの仕事をする「住みます芸人」を派遣するなど、アンテナを張り巡らせる



◎文が拙すぎる…

沖縄での学校設立、アジアでのコンテンツ配信や日本全国やアジアで生活しながらお笑いの仕事をする『住みます芸人』を派遣するなど、アンテナを張り巡らせる」という文には読みにくさを感じる。この文は何と何が並立関係なのか非常に分かりにくい。

中村編集委員としては「沖縄での学校設立」「アジアでのコンテンツ配信」「日本全国やアジアで生活しながらお笑いの仕事をする『住みます芸人』を派遣する」の3つを並べたつもりだろう。だが、「コンテンツ配信日本全国アジア」の部分はどこで区切っているのか判別しにくい。また「派遣する」だけ動詞になっているので「コンテンツ配信」を「派遣する」ようにも読めてしまう。

改善例を示しておく。

【改善例】

沖縄での学校設立、アジアでのコンテンツ配信、さらには日本全国やアジアで生活しながらお笑いの仕事をする「住みます芸人」の派遣など、アンテナを張り巡らせる。

◇   ◇   ◇

並立助詞「」を1つの文で2回以上使うと管理がかなり難しくなる。だが、中村編集委員にそれを教えても、改善は見込めないだろう。企業報道部のデスクや記事審査部の担当者などが支えてあげないと、今回のような拙い文を読者にそのまま届けてしまうことになる。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

もちろん年配の顧客を時代遅れと笑ってはいけない。既存客を大事にしつつ、将来のヒットをどう育てるか。メジャーな伝統企業ほど過去の成功体験から抜けきれない。



◎話のつながりが…

新しい才能を発信する場作りに仕事の軸足を置いた」という話の後で「もちろん年配の顧客を時代遅れと笑ってはいけない」と出てくると「えっ!何の話? どういう展開?」と思ってしまう。
大雨で増水した筑後川(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

当時のお笑いの中心地はなんば花月(大阪市)のような大型の劇場で、しかも年配の客が多い」という部分を受けて「もちろん年配の顧客を時代遅れと笑ってはいけない」と書いたのだろう。だが、間が空き過ぎているし、「若者の支持を得るのが重要」と論じてきたわけでもない。この辺りにも中村編集委員の書き手としての限界を感じる。

さらに、記事の終盤にもツッコミを入れたい。

【日経の記事】

例えば資生堂。カウンセリングを中心に専門店、百貨店で成長してきた同社だが、ネットやドラッグストアなど新しい「発信の場」での対応は出遅れた。とりわけ10代後半から20代の若者層は苦手だった。

このため、魚谷雅彦社長は発想の転換を求めた。新商品の提案時、「市場背景を説明するな」と。消費者が求める新しい価値が何かを示せというわけだ。難しい注文だが、17年末に発売した新ブランド「レシピスト」は一定の成果を出した。同社が考えてきた若者像の間違いを認め、ネットでの発信を優先した。ダウンタウンのようになるかどうかは不明だが。

外された大崎氏、外から来た魚谷氏。よそ者の視点が成功体験に“突っ込み”を入れた。思い込みで企画を立てても売れない商品は笑われない漫才師のように悲しい。



◎ここでも説明不足が…

最後の段落で「外された大崎氏、外から来た魚谷氏」と書いている。資生堂の「魚谷雅彦社長」については「外から来た」ことに触れずに話を進めて、いきなり「外から来た魚谷氏」と出てくる。「魚谷氏」が「外から来た」社長だと読者は知っているとの前提で中村編集委員は書いているのか。だとしたら説明不足が過ぎるし、書き手としての基礎的な資質を疑いたくなる。

消費者が求める新しい価値が何かを示せというわけだ。難しい注文だが、17年末に発売した新ブランド『レシピスト』は一定の成果を出した」というくだりも問題がある。

まず「消費者が求める新しい価値」とは何かが結局分からない。「レシピスト」に関しては「同社が考えてきた若者像の間違いを認め、ネットでの発信を優先した」と書いているだけだ。「消費者が求める新しい価値」を資生堂がどう理解したのかは欲しい。

一定の成果」という書き方も感心しない。具体的な数値を入れるべきだ。

しかも結びの「思い込みで企画を立てても売れない商品は笑われない漫才師のように悲しい」というくだりが何を言いたいのか不明だ。「思い込みで企画を立てて」失敗した商品の話を記事ではしていない。なのになぜ、この結論を導き出したのか。

個人的には、今回の記事の方が「笑われない漫才師」以上に辛いと思えた。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~『ダウンタウン』発掘の極意 成功体験にツッコミを
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180803&ng=DGKKZO33608790R30C18A7TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

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