2018年8月25日土曜日

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?

24日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『くず債』避ける日本の弱さ」という記事は、あまり意味のない中身だった。「日本ではジャンク債が出ていない」ことを問題にしているが、実質的に「ジャンク債」は出ているのではないか。
旧高田回漕店(熊本県宇土市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

日本は米国よりベンチャーキャピタルの資金力が見劣りする上、銀行は取引実績のない企業への融資に慎重だ。「日本株式会社」で若い会社の存在感が薄いのは、信用力の乏しい企業へのマネーの出し手がいないからでもある。

日本にも市場の芽はある。孫正義氏率いるソフトバンクグループは昨年以来、海外でジャンク債を何度も発行した。海外のジャンク債を投資対象とする国内投信の残高は3兆円を超す。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は今年4月、国内ジャンク債に投資できるよう運用基準を見直した。企業も投資家も抵抗感は薄れ、ないのは今や国内市場だけだ


◎海外のソフトバンク債が「ジャンク債」ならば…

ソフトバンクグループ(SBG)は国内外で社債を発行している。5月26日付の日経の記事によると「SBGの長期債格付けは、日本格付研究所が投資適格のシングルAマイナス。S&Pグローバルとムーディーズの米系2社は投機的水準のダブルB格となっている」。

国内発行では、日系から格付けを得ているのでジャンク債にならないだけだ。米系の格付けに基づいて考えれば、国内発行のソフトバンク債も「ジャンク債」と言える。なのに「ないのは今や国内市場だけだ」と訴えて意味があるのか。日系と米系の格付けの差を問題にするのならまだ分かるが…。

ついでに言うと「『日本株式会社』で若い会社の存在感が薄いのは、信用力の乏しい企業へのマネーの出し手がいないからでもある」という説明も引っかかる。

この記事で筆者の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)は「持て余すほどの預金を受け入れた銀行は低利で融資を競う。信用度が不十分な企業も銀行から安くお金を借りられ、高コストの社債を出さずに済む」とも書いていた。「信用力の乏しい企業へのマネーの出し手がいない」という話と矛盾している。

信用度が不十分」と「信用力の乏しい」は違うといった弁明はできるかもしれないが、かなり苦しい。

さらに記事にツッコミを入れたい。

【日経の記事】

今年3月時点で家計の金融資産のうち現預金の比率は53%と過半を占める。持て余すほどの預金を受け入れた銀行は低利で融資を競う。信用度が不十分な企業も銀行から安くお金を借りられ、高コストの社債を出さずに済む。

借り入れも社債も同じ負債だが、内訳は日米で大きく異なる。日本企業は借入金の残高が社債の5倍と融資に依存する。対照的に、米企業は社債が借入金の4倍強を占め、市場調達が柱をなす。これこそ「貯蓄の国」である日本と「投資の国」の米国との違いだ。企業が投資家向けにリスクのある社債を発行しないため、投資家の資産が一段と預金に滞留する悪循環の構図さえちらつく



◎「リスクのある社債を発行しない」?

日本ではジャンク債が出ていない」としよう。その場合、「企業が投資家向けにリスクのある社債を発行しない」と言えるだろうか。格付けが高くても「リスク」はある。筆が滑ったのだとは思うが、「投資適格級の社債にはリスクがない」と梶原氏が認識しているのであれば、社債に関する記事を書く資格はない。
福岡タワーから見た福岡市街 ※写真と本文は無関係です

また「悪循環の構図」がよく分からない。「企業が投資家向けにリスクのある社債を発行しない」のであれば、そこで「循環」が止まってしまう気がする。例えば「社債発行が減る→それが預金増を招く→預金増が社債発行のさらなる減少につながる」という関係ならば「悪循環」と書くのも分かる。

だが「企業が投資家向けにリスクのある社債を発行しない」のならば、預金がどれだけ増えても社債発行額に跳ね返ってこない。

さらに言えば「資産が一段と預金に滞留する=悪いこと」との前提も引っかかる。これは考え方や状況次第だ。例えば「金融資産のうち現預金の比率は53%」だったのが10%へ一気に低下して、43%分はジャンク債に向かうとしよう。その後に景気が悪化してジャンク債の債務不履行が相次いだ場合、「預金からジャンク債への資金シフト」は日本国民にとっての「良いこと」として語られるだろうか。

最後にもう1つ。

【日経の記事】

ジャンク債の市場が日本にできて社債市場全体が厚みを増せば、投資家は株式と並ぶ投資先として注目するだろう。家計資産の預金への滞留は減り、銀行の甘い融資条件も是正され、企業が社債の発行を検討する好循環が生まれる



◎そんな「好循環」あり得る?

この「好循環」も謎だ。例えば、ダブルB格の企業が社債ならば金利3%、銀行融資ならば2%で資金を調達できる状況だとすると、わざわざ社債を発行する意味がない。そこで「ジャンク債の市場が日本にできて社債市場全体が厚み」を増すために、社債ならば1%で資金を得られると仮定しよう。

その場合、企業が相次いで社債発行に踏み切るかもしれない。連れて銀行融資の金利も1%に近付いていくはずだ。でないと競争できない。ただ、梶原氏の見立てとは逆に「社債市場全体が厚み」を増したことで銀行の貸出金利が下がってしまった。

家計資産」が社債に流れれば「預金への滞留」が減って、銀行融資の元手が減ると梶原氏は言いたいのかもしれない。だが、同時に社債発行の増加によって銀行融資への需要も減る。このルートで「銀行の甘い融資条件も是正」されるとは考えにくい。

梶原氏に関しては「書きたいことがないのに無理して捻り出している書き手」と見ている。今回の記事も「無理して捻り出したのでツッコミどころが多くなった」と考えれば腑に落ちる。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『くず債』避ける日本の弱さ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180824&ng=DGKKZO34513850T20C18A8TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はDを維持する。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

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