2018年8月30日木曜日

製薬会社の従業員が「空港封鎖」? 日経「モネータ 女神の警告」

リストラに反発する製薬会社の従業員が「ストライキを起こし、空港を封鎖」と聞いたらどう感じるだろうか。個人的には「航空会社の従業員ならともかく製薬会社の従業員がなぜ?」「ストというより犯罪では?」などと疑問が浮かぶ。
芥屋の大門(福岡県糸島市)※写真と本文は無関係です

30日の日本経済新聞朝刊1面に載った「モネータ 女神の警告~それぞれのジレンマ(3)ファンド化する企業 投資資金、成長生まず」という記事では、イスラエルでそういう事態になったと書いている。しかし、製薬会社のストが空港封鎖にまで発展した理由は教えてくれない。さらに言えば、製薬会社の従業員が「空港を封鎖」したというのが事実かどうか怪しい。

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

30日朝刊1面に載った「モネータ 女神の警告~それぞれのジレンマ(3)ファンド化する企業 投資資金、成長生まず」という記事についてお尋ねします。記事では「後発薬世界大手、イスラエルのテバ・ファーマシューティカル・インダストリーズ」について以下のように記しています。

「(テバのCEOの)シュルツ氏は世界の従業員の4分の1にあたる1万4千人の削減方針を打ち出した。イスラエル国内で3割を減らす計画に反発した従業員は昨年末にストライキを起こし、空港や道路を封鎖

まず「イスラエル国内で3割を減らす」をどう解釈すべきか迷います。「1万4千人」のうちの「3割」とも取れますし、「イスラエル国内で現状より3割を減らす」との解釈も可能です。どう理解すればよいのでしょうか。

計画に反発した従業員は昨年末にストライキを起こし、空港や道路を封鎖」という説明にも疑問を感じました。製薬会社の従業員がストライキで「空港を封鎖」するとは常識的には考えられません。実際に「テバ」の従業員が「空港を封鎖」したのならば、なぜそうなったのか追加で説明が必要でしょう。

実際には、「テバ」の従業員は「空港を封鎖」していないと思えます。2017年12月17日付のロイターの記事では以下のように書いています。

Israel’s main public-sector labor union staged a half-day strike on Sunday, closing the airport, stock exchange, banks and all government ministries to protest at mass layoffs planned by Teva Pharmaceutical Industries.

空港の「閉鎖」はあったようですが、公共部門の労働組合がテバのリストラに抗議して半日ストに踏み切ったためだと読み取れます。他の報道を見ても「テバ」の従業員が「道路を封鎖」した話は出てくるものの、空港についてはロイターの報道と同様の内容になっています。

テバ」の従業員が「空港を封鎖」したとする今回の記事の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、他の気になった点を記しておきます。まず以下のくだりです。

だがM&Aはいばらの道だ。成功率は『日本企業の海外買収で1~2割、海外企業で5割』(早稲田大学の服部暢達客員教授)。競争で価格が上がると成功のハードルはさらに上がる。米21世紀フォックスのコンテンツ資産買収を決めた米ウォルト・ディズニー。対抗馬コムキャストの登場で買収額は当初想定の6兆円から8兆円に膨らんだ

成功率」について「1~2割」「5割」と書いているものの、「成功」の基準を示していません。これでは情報としての価値があまりありません。仮に「服部暢達客員教授」の漠然とした印象ならば、そう書くべきです。
肥前山口駅にある「内側てお待ち下さい」の看板
(佐賀県江北町)※写真と本文は無関係です

また「海外企業で5割」については「海外企業の外国企業買収で5割」なのか「海外企業による買収全体(国内買収含む)のうち5割」なのか判断に迷いました。

今回の記事では「主要企業」という表現も引っかかりました。

世界の主要企業が抱える現預金は17年末で10.3兆ドル(1150兆円)。10年間で2.5倍に膨らんだ」と書いているのに「主要企業」の基準は示していません。社数も対象国も不明ですし、どこが算出した金額なのかも分かりません。これではデータとしての信頼性に欠けます。正しい数字かどうか検証もできません。

記事に付けた「設備投資からM&Aや株主還元にシフト(世界主要企業の資金使途)」というグラフでも、「主要企業」の範囲は分からないままです(算出主体は「QUICK・ファクトセット」となっています)。

最後に以下の結論部分です。

企業の設備投資は13年をピークに頭打ちだ。一方、M&Aと自社株買いは増え続け、設備投資と肩を並べた。M&Aや株主還元に投じたお金は株主に渡り、実体経済には直接回らない。カネ余りが招く『企業の総ファンド化』(みずほ総合研究所の高田創調査本部長)は経済の低成長を長引かせるリスクをはらむ

M&Aと自社株買いは増え続け、設備投資と肩を並べた」というくだりは「M&Aと株主還元は増え続け、設備投資と肩を並べた」とすべきではありませんか。グラフを見る限りでは「設備投資と肩を並べた」のは「M&A・株主還元」です。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

ロイターなどの報道を総合すると、“空港閉鎖”の事実関係は以下のようなものだと思える。

・イスラエルの空港はストで「閉鎖」されたが「封鎖」ではない。

・空港閉鎖は公共部門の労働組合のストによるもので、テバの従業員が実力行使に出たのではない。

・公共部門の労働組合のストはテバの従業員を支援するためのものだった。


この認識が正しければ、日経の記事は間違っているし、説明があまりに足りない。


追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「モネータ 女神の警告~それぞれのジレンマ(3)ファンド化する企業 投資資金、成長生まず
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180830&ng=DGKKZO34754280Z20C18A8MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

強引に「運用難」を描き出す日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_72.html

最終回も間違い目立つ日経「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_31.html


※「モネータ 女神の警告」の過去の連載に関しては以下の投稿を参照してほしい。

色々と分かりにくい日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_59.html

間違った説明が目立つ日経1面「モネータ 女神の警告」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_14.html

株主・銀行は「力失った」? 日経「モネータ 女神の警告」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_7.html

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