2018年8月20日月曜日

日経 原田亮介論説委員長「核心~復活する呪術的経済」の問題点

日本経済新聞の原田亮介論説委員長については「ツッコミどころの多い書き手」と言い切ってよさそうだ。20日の朝刊オピニオン面に載った「核心~復活する呪術的経済」という記事にも、書き切れないぐらいの問題点があった。具体的な内容は、日経に送った問い合わせを見てほしい。
地行中央公園の「大きな愛の鳥」(福岡市中央区)
            ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 論説委員長 原田亮介様

20日朝刊オピニオン面の「核心~復活する呪術的経済」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは以下のくだりです。

18年5月に亡くなった元日本経済研究センター理事長の香西泰氏は、リーマン・ショックの10年前にこうつづっていた。『来るかもしれない嵐を避けるためになすべきことを急がなければならない』。当時、ニューエコノミーといわれた米国の状況を『どこかで見た風景』と述べ、好況に沸いた1920年代に例えた。『物価が安定していればこそFRBは引き締めの機をつかむことができなかった』。結果は世界同時デフレだ

原田様の説明を信じれば、「リーマン・ショック」の前に「FRBは引き締めの機をつかむことができなかった」ために「世界同時デフレ」に陥ったはずです。しかし、違うのではありませんか。

米国の政策金利は2004年5月に1%でしたが、06年6月には5.25%まで引き上げられています。サブプライムローン問題を受けて07年9月に利下げへ転じましたが、それまでは「引き締めの機」を何度も作っています。

引き締めの機をつかむことができなかった」のは「リーマン・ショックの10年前」(1998年)の話だという可能性も考えました。確かに98年には利上げがありませんが、99年から2000年にかけては段階的な利上げがありました。つまり、「リーマン・ショック」に至る10年間に2度の利上げ局面があったのです。

なのに原田様はFRBが「引き締めの機をつかむことができなかった」ために「世界同時デフレ」に陥ったと説明しています。これは誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

次は以下のくだりに関する質問です。

2国間貿易の収支の責任を相手国に押しつけるのは、付加価値の低い製品の生産は労賃の安い国へ移る『比較優位』を否定するものだ。減税規模が大きいほど増収になるという主張も現実的でない。トランプ政権にも共通する政策は、まさに呪術的といえる

まず「2国間貿易の収支の責任を相手国に押しつけるのは『比較優位』を否定するものだ」という説明が違うと思います。例えば、米国が貿易障壁ゼロで中国が輸入禁止だとしましょう。ここで「中国が輸入禁止措置を取っているから対中貿易赤字が膨れ上がる」と米国が主張した場合、「『比較優位』を否定する」ことになりますか。

記事にあるように、実際に米国が「貿易赤字の原因を相手国の輸入障壁に求める」のであれば、「比較優位」の考え方(輸入障壁をなくして自由に貿易した方が双方にメリットがある)を肯定しているとも取れます。

付け加えると、「減税規模が大きいほど増収になるという主張も現実的でない」という説明も引っかかりました。「トランプ政権」(あるいはレーガン元大統領)は本当にそんな「主張」をしたのでしょうか。調べた範囲では見当たりませんでした。「減税規模」を最大化すると税率はゼロになるので「増収になる」可能性はありません。さすがに、記事で言うような「主張」はしない気がします。
久光製薬鳥栖工場(佐賀県鳥栖市)※写真と本文は無関係です

質問を続けます。次は以下の記述を取り上げます。

経済が低迷から抜け出せないと呪術的経済はよみがえりやすい。ニクソン、レーガン、トランプ、それ以外の大統領も含め『自分なら経済を再建できる』と言わずして当選したリーダーはいないだろう

『自分なら経済を再建できる』と言わずして当選したリーダー」はいるでしょう。米国大統領で言えばトルーマンです。彼は前任のフランクリン・ルーズベルトの死去を受けて副大統領から昇格したので、1948年に「当選」した段階では既に大統領でした。なので「自分なら経済を再建できる」と訴えると、自らの経済政策の失敗を認めることになります。

実際の選挙戦でも、ルーズベルトの「ニューディール政策」の継続を掲げたようです。記事の中で原田様も「エコノミストで歴史家のマルク・レヴィンソン氏の書で17年11月に翻訳された『例外時代』(みすず書房)は、戦後から70年代初めまでの四半世紀を『例外的な好景気、繁栄の時代』と表現した」と書いています。であれば、なおさらトルーマンが「自分なら経済を再建できる」と訴えて「当選した」可能性は低くなります。

さらに言えば「経済が低迷から抜け出せないと呪術的経済はよみがえりやすい」という説明にも疑問が残ります。御紙では7月28日の記事で「米経済は主要国で『一人勝ち』に近い状態だ」と書いていました。だとすれば「呪術的経済」はよみがえりにくい状況です。「復活する呪術的経済」という記事の趣旨と合っていない感じはあります。

他にも気になる点があるのですが、長くなったので終わります。上記の質問に関しては回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の論説委員長として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「核心~復活する呪術的経済
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180820&ng=DGKKZO34278060X10C18A8TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説委員長への評価はDを維持する。原田論説委員長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_77.html

財政再建へ具体論語らぬ日経 原田亮介論説委員長「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_33.html

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