2018年8月17日金曜日

悪い意味で日経らしい1面連載「パンゲアの扉~混沌を超えて」

17日に連載を終えた日本経済新聞朝刊1面の「パンゲアの扉 つながる世界~混沌を超えて」は、悪い意味で伝統的な日経の1面企画だ。15日の「(上)無の強み 最先端へ 発展モデルに新風、ドローンで血液輸送」では冒頭で以下のように記している。
大分医療センター(大分市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

デジタルで結び付きを強めて進むグローバリゼーションが21世紀の新たな枠組みを探り始めている。発展モデルのパラダイムは変わり、私たちの基本的な価値観である資本主義や民主主義は直面する試練の克服に動く。一つにつながる世界は混沌を乗りこえた先に過去とは違う姿を現す


パラダイムは変わり」「世界は混沌を乗りこえた先に過去とは違う姿を現す」と宣言して連載を始めている。素直に信じれば、世界はここに来て大きく変わり始めたのだろう。しかし、日経の1面連載の中では昔からパラダイムシフトの連続だ。

そもそも世の中の「パラダイム」はそんなに頻繁に変わるものではない。なので、どうしても「世界が変わる」系の日経1面連載は話が苦しくなってしまう。今回もそうだ。

最初の事例を見てみよう。

【日経の記事】

「血液が必要な患者がいる」。アフリカ、ルワンダの中西部ムハンガ。草原の中から輸血袋を積んだドローン(小型無人機)が勢いよく飛び立った。時速100キロメートル近いスピードで最長80キロ離れた病院へ向かい、敷地内に投下する。近く2カ所目の輸送拠点が東部にも設けられる。

2018年1月、ルワンダは世界に先駆けてドローンに特化した商業飛行の規制を整備した。「ゲームチェンジャーになる技術を採用する国のモデル」(世界経済フォーラムのムラート第4次産業革命センター長)と注目を浴びる。

「情報通信技術が経済の国際競争力を高める」。デジタル立国の旗を振るカガメ大統領は貧困脱出を狙う。1人当たり国内総生産(GDP)は770ドルとアフリカ内でも下位。内陸の高地という不利な物流環境で製造業が育たず、20世紀の発展の波に取り残された。

18世紀半ばの産業革命以降、グローバリゼーションは先進国による工業化社会の世界展開とともに進んだ。多くの途上国は安い労働力で工場を誘致。蓄えた富で軽工業を重工業に変え、産業構造の高度化で成長を目指すのが基本モデルだった。

21世紀はパラダイムが様変わりする。瞬く間に世界に広まるデジタルの斬新な製品やサービスをテコに一足飛びの成長の道が開ける。ヒト・モノ・カネを集約し、規模がものをいった20世紀モデルは輝きを失う。


◎ドローンで物を運んで「貧困脱出」?

ルワンダで「ドローン(小型無人機)」を使って血液などを運べるようにしたのは分かった。医療面では良い話だろう。だが、「デジタル立国の旗を振るカガメ大統領は貧困脱出を狙う」という話とどう結び付くのか謎だ。

瞬く間に世界に広まるデジタルの斬新な製品やサービスをテコに一足飛びの成長の道が開ける」というが、ルワンダのドローンの事例から「確かに成長の道が開けるな」と納得できるだろうか。「開ける」と取材班が確信しているのならば、そう納得できる材料を記事に盛り込んでほしかった。ドローンで物を運べるようにするだけで、他国を差し置いて「成長の道が開ける」とは考えにくい。

次の事例にもツッコミを入れたい。

【日経の記事】

「世界の工場」をテコに米国に次ぐ第2位の経済大国に駆けあがった中国は、デジタルの世紀でもなお国家資本主義で覇権をめざす。「開発独裁」モデルは民主主義の西側先進国より高い成長を実現。今後の発展持続には新鮮なアイデアや斬新なイノベーションが必要になるが、ゆりかごになる市民社会の多様な価値観や常識に挑む風土は共産党一党独裁のもとで抑え込まれたままだ。

グローバルに開かれたネットワークで一つにつながる「パンゲア」の世界が対抗軸になる。企業や個人の自由な競い合いで鍛えられたアイデアとイノベーションが新市場を開き、成長の礎になる。


◎中国は「パンゲア」に含まない?

記事には「▼Pangea かつて地球上の主な大陸は一つにつながっていたとする学説の超大陸の名称で『すべての陸地』の意味」という説明が付いている。普通に考えれば、中国も連載で言う「パンゲア」の一部だ。

しかし「グローバルに開かれたネットワークで一つにつながる『パンゲア』の世界」は中国への「対抗軸になる」らしい。だとすると「パンゲア」は少なくとも中国を除く「陸地」となる。中国抜きの世界は「パンゲア」と呼ぶべきものなのか。

苦しい展開は(中)(下)でも続く。それらは別の投稿で触れたい。


※今回取り上げた記事「パンゲアの扉 つながる世界~混沌を超えて(上)無の強み 最先端へ 発展モデルに新風、ドローンで血液輸送
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180815&ng=DGKKZO34145420U8A810C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。


※「パンゲアの扉 つながる世界」の以前の連載については以下の投稿も参照してほしい。

冒頭から不安を感じた日経 正月1面企画「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_2.html

アルガンオイルも1次産品では? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_4.html

スリランカは東南アジア? 日経「パンゲアの扉」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_28.html

根拠なしに結論を導く日経「パンゲアの扉」のキーワード解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_8.html

「小が大を制す」が見当たらない日経1面「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/1_24.html

今度は「少数言語の逆襲」が苦しい日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/1_24.html

「覆る常識」を強引に描き出す日経1面「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_95.html

華僑の始まりは19世紀? 日経1面「パンゲアの扉」の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/19.html

「覆る常識」というテーマを放棄? 日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_27.html

「崩れ始めた中央集権」に無理がある日経「パンゲアの扉」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_82.html

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