2017年4月14日金曜日

「収穫逓増」の説明が奇妙な週刊ダイヤモンド「速習!日本経済」

週刊ダイヤモンド4月15日号の特集「思わず誰かに話したくなる 速習! 日本経済」の中に出てくる「ミクロ経済~ ビジネスに効く八つの思考法」という記事の問題点をさらに指摘ていく。今回は「2 収穫逓減・逓増~打ち出の小づちは本当にあったんです」という「思考法」について述べる。
三池炭鉱宮原坑(福岡県大牟田市)
       ※写真と本文は無関係です

まず「収穫逓減の法則」を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

大半の生産活動で起こり得る経済現象が、売り上げが増えると利幅が小さくなる「収穫逓減の法則」だ。

新型車の生産を例に考えてみると、大ヒットした場合、労働者(人件費)と資本の追加投入が必要になる。資本を借り入れていれば金利負担が増え、ライバル社が競合車を市場に投入してくれば販売コストや宣伝費もどんどん上がる。つまり全体の売り上げは増えても、生産要素追加1単位当たりの収益の増え方は減少していく。これが収穫逓減の法則だ。


◎「利幅」で見る?

収穫逓減の法則」とは「所与の状況のもとで、ある生産要素を増加させると生産量は全体として増加するが、その増加分は次第に小さくなるという法則」(ブリタニカ国際大百科事典 )ではないのか。だとすると「生産要素追加1単位当たりの収益の増え方」ではなく「生産要素追加1単位当たりの生産量の増え方」で測るのが適切だと思える。

次は「収穫逓増の法則」だ。こちらの方が問題が多い。

【ダイヤモンドの記事】

一方、全体の売り上げが増えて、さらに生産要素追加1単位当たりの収益の増え方も増加する“打ち出の小づち”のような法則がある。「収穫逓増の法則」だ。

からくりは1990年代半ば以降に普及し始めたインターネット。ネットでデジタル商品(スマートフォンのアプリなど)を売れば、増産に対するコストはほとんど増えない


◎「収益の増え方も増加」?

ここでは「生産要素追加1単位当たりの収益の増え方も増加する」のが「収穫逓増の法則」だという記事の説明をまず受け入れてみる(「収益=利益」と仮定する)。しかし、なぜ「ネットでデジタル商品(スマートフォンのアプリなど)を売れば」この法則が成り立つのか謎だ。
流川桜並木(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

デジタル商品」の「生産要素追加1単位」に掛かる費用が10円で、売値は1000円としてみる。確かに利益率は高いが、どんなに売れても「生産要素追加1単位」から得られる利益は990円のままだ。「収穫逓増の法則」が成り立つのならば、利益が1500円、2000円と増えていくはずだ。売値を段階的に上げていくのならば別だが、そうは書いていない。また「デジタル商品」であれば値上げが顧客から無制限に受け入れられるわけでもない。

減らす余地が少ないとはいえ、費用を少なくする手もある。ただ、記事では「増産に対するコストはほとんど増えない」と説明している。つまり、コストが減るわけではない。だとすると、どうやって「収益(利益)の増え方も増加する」のか。

ちなみに、記事に付けたグラフでは「デジタル商品」に関して、「生産量」が増えるに従って「増産コスト」が減ることになっている。これは記事中の「増産に対するコストはほとんど増えない」という説明とズレがある。それに「デジタル商品」は生産量を増やすに従って「増産コスト」が減るようなものとも思えない。疑問ばかりが残る解説だった。

さらに次の説明も苦しい。

【ダイヤモンドの記事】

例えばSNSなどで知られるミクシィ。2014年3月期は売上高122億円、営業利益5億円だったが、スマホゲーム「モンスターストライク」の大ヒットで翌15年3月期は売上高1129億円、営業利益527億円と、絵に描いたような収穫逓増となった


◎どこが「絵に描いたような収穫逓増」?

『モンスターストライク』の大ヒット」で大幅な増収増益になったからと言って、「絵に描いたような収穫逓増」とは限らない。売り上げが大きく伸びたから大幅増益になっただけで、「生産要素追加1単位」当たりの利益は15年3月期中に落ち始めている可能性もある。「絵に描いたような収穫逓増」だと言い切るのならば、「生産要素追加1単位」当たりの利益がどんどん増えている根拠を示すべきだ。

話が「15年3月期」と少し古いのも気になる。次の16年3月期決算の結果は既に出ているが、そこでは「収穫逓増」とはならなかったのだろうか。


※今回取り上げた記事「ミクロ経済~ ビジネスに効く八つの思考法
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/19845

※特集全体の評価はD(問題あり)。特集の担当者への評価は以下の通り。

大坪稚子記者(Dを維持)
竹田孝洋(Dを維持)
土本匡孝(暫定C→暫定D)
山口圭介(Fを維持)


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

誤り目立つ 週刊ダイヤモンド特集「速習! 日本経済」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_12.html

黒田投手に「限定合理性」? 週刊ダイヤモンドの不適切な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_25.html

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