2017年4月18日火曜日

女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問

ライフネット生命保険会長の出口治明氏は人格者で立派な経営者でもあるのだろう。だが17日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~『割り当て制』議論本気で 『お手本』輩出し続けるために」という記事は説得力がなかった。「世界一高齢化が進み、女性の登用が遅れている日本は、本来どこよりも厳しいクオータ制を導入し、ロールモデルをどんどんつくり出し女性の活躍を促さなくてはならない」という主張のどこに問題があるのか論じてみたい。
福岡県うきは市の白壁通り ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

歴史上の優れた女性リーダーの多くは、ロールモデルを持つ。中国史上唯一の女帝・武則天は、性別を問わない実力主義で馮大后など多くの女性が活躍した拓跋国家の風土の中に生まれた。ロシア帝国全盛期の女帝エカチェリーナ二世は、先に皇位に就いたピョートル大帝の娘・エリザヴェータに多くを学んだ。いつの時代も人が成長するには、ロールモデルが必要だ

翻って今の日本。管理職に占める女性の割合はまだ1割程度で、ロールモデルが少なすぎる。世界経済フォーラムが算出する男女平等ランキングでは144カ国中111位。世界にかなり後れをとっている。


◎「1割」では「ロールモデルが少なすぎる」?

武則天」や「エカチェリーナ二世」を単純に「歴史上の優れた女性リーダー」としてよいのか議論が分かれそうだし、「いつの時代も人が成長するには、ロールモデルが必要」かどうかも微妙だが、取りあえず受け入れてみる。ただ、「管理職に占める女性の割合はまだ1割程度で、ロールモデルが少なすぎる」というのは無理がある。
筑後川(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

成長するには、ロールモデルが必要」だとしても、それは身近にいなければダメなのか。例えば、メディアで知った有名な女性経営者をロールモデルとして、その後を追う形で成長することもできるはずだ。そもそもロールモデルが「1割」いるのであれば、身近にいる確率はかなり高い。そう考えると「1割」では少なすぎるという根拠は乏しい。

出口氏は経済成長のためにも「クオータ制」を導入すべきとの立場だ。これも主張としては説得力に欠ける。

【日経の記事】

産業構造の面からも女性活躍は重要だ。わが国の産業構造は製造業からサービス業へと比重が大きくシフトしている。サービスの主たる消費者は女性。成長には、女性の力が不可欠だ。

そのために何をすべきか。ヒントは高齢化が世界で最初に進んだ欧州にある。高齢化や経済危機を乗り越えるには人口の半分を占める女性の活躍が不可欠だと気づいた欧州の国々は、企業の役員の一定割合を女性とするなどのクオータ(割り当て)制を導入した。ロールモデルの輩出を「仕組み化」したのだ。

クオータ制の普及について、日本のある財界幹部が「欧州の政治家は女性に弱いなあ」と言ったと聞き、僕はあぜんとした。世界一高齢化が進み、女性の登用が遅れている日本は、本来どこよりも厳しいクオータ制を導入し、ロールモデルをどんどんつくり出し女性の活躍を促さなくてはならない。その現実を前に、日本の政財界のリーダーの感覚はあまりにも鈍い。



◎「クオータ制」導入で経済成長?

主張が情緒的なのが引っかかる。欧州を見習って「クオータ制を導入」すべきとの考えならば、その制度にどんな効果があるのかは示してほしい。
矢部川沿いの桜(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

原因と結果の経済学」(著者は中室牧子氏と津川友介氏)という本では以下のように書いている。

【「原因と結果の経済学」から】

ノルウェーでは、女性取締役比率が2008年までに40%に満たない企業を解散させるという衝撃的な法律が議会を通過した。南カリフォルニア大学のケネス・アハーンらは、この状況を利用して、女性取締役比率と企業価値のあいだに因果関係があるかを検証しようとした。

(中略)アハーンらが示した結果は驚くべきものだ。女性取締役比率の上昇は企業価値を低下させることが示唆されたのだ。具体的には、女性取締役を10%増加させた場合、企業価値は12.4%低下することが明らかになった。

◇   ◇   ◇

クオータ制」の導入が企業価値を低下させる可能性が高いのならば、導入に反対する人がいたとしても驚くに値しない。そういう人と話をして「僕はあぜんとした」という出口氏の方に問題がある。「クオータ制」導入によるプラス面が明確ではないのに、「どこよりも厳しいクオータ制を導入」すべきだと考える方が不思議だ。

原因と結果の経済学」という本ではこうも書いている。「政府によって、女性取締役の数値目標が課されたことで、ノルウェーの企業の多くは、経験が浅く、経営者の資質に欠ける女性を無理やり取締役にして急場をしのいだ。このことが企業価値を低下させることにつながったと考えられる

日本で「どこよりも厳しいクオータ制を導入」した場合、同じような問題が起きても不思議ではない。そうやって粗製乱造されたロールモデルを目の当たりにすることが、女性の成長を促すために不可欠なのだろうか。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~『割り当て制』議論本気で 『お手本』輩出し続けるために
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170417&ng=DGKKZO15316340U7A410C1TY5001

※記事の評価はC(平均的)。出口治明氏への評価は暫定でCとする。

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