2017年4月15日土曜日

「松屋フーズはラーメン店に本格参入」に見える日経の騙し

日本経済新聞の記事で「本格」の文字を見つけたら要注意だ。多くの場合、中身を実態よりも大きく見せようとしている。14日の朝刊企業面に載った「松屋フーズ、ラーメン店 郊外SC、家族客に照準」という記事はその典型だ。
旧三井港倶楽部(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】 

松屋フーズはラーメン店に本格参入する。郊外のショッピングセンター(SC)内を中心に出店し、家族客を取り込む。主力の牛丼店は都心部の店舗賃料が高騰し、人手不足で従業員の確保も難しくなっている。一定の集客が見込めるSC内で収益が確保できる業態の店舗を増やし、牛丼やとんかつに続く新たな柱に育てる。

18日にイオンモール日の出店(東京都日の出町)内のフードコートに「トマトの花」1号店を出店する。主力商品のトマトスープ麺はトマトを丸ごと1個入れた。うま味調味料や甘味料なども使っておらず、健康意識の高い女性や家族層を開拓する。

商業施設のフードコートにはかつて牛丼店「松屋」を2店舗出店していたが、24時間営業ができず女性や家族の需要にも合わなかったことから、2013年に撤退していた。

ただ、都心の店舗は賃料や人件費が高騰している。日本不動産研究所などによると、東京・渋谷地区の1階店舗の平均賃料は16年下期に1坪あたり3万5200円と同年上期に比べ11%上昇した。一方で郊外のSCは賃料が割安でパート従業員も比較的確保しやすいとみて、収益が確保できるようにして再出店する。

松屋フーズは国内約1070店舗のうち約9割を牛丼業態が占める。第2の柱としてとんかつ店を100店規模まで増やしてきた。出店余地のあるフードコートなどでラーメン店を増やし、第3の柱に育てたい考えだ

◇   ◇   ◇

松屋フーズに詳しくない人がこの記事を読んだら「これまでは牛丼店やとんかつ店しかやってなかったが、今月からラーメン店も始めたんだな」と理解するのが普通だ。
福岡大学(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です

しかし、記事の冒頭で「松屋フーズはラーメン店に本格参入する」と書いている。「トマトの花」1号店を出す前はラーメン店がなかったのならば「本格」を抜いて「松屋フーズはラーメン店に参入する」と書けばいいのではないか。そうしなかったのには、ちゃんと理由があるようだ。

同社のホームページによると、ラーメン業態の店は「トマトの花」1号店で3店目となる。「麺ダイニング セロリの花」という店が東京都内に2店舗あるらしい。

本格参入」という書き方をするなとは言わない。しかし、そう書くならば、既に2店舗あることは記事中で明示すべきだ。「既に2店あり、今回出す店は3店目」と正直に綴れば「本当に『本格参入』なの?」との疑問を持たれてしまう。だから既存の2店舗の存在は伏せたのだろう。

これは読者を欺く行為だ。記事を大きく見せる小手先の技術は身に付いているのかもしれないが、書き手として良い方向に成長しているとは思えない。

今回の件では2つの選択肢がありそうだ。

(1)「本格参入」を使う場合

本格参入」を使いたいならば、既存の2店舗に触れた上で、今後の出店計画を示して「本格参入」であることに説得力を持たせてほしい。例えば、「これまでは実験的に2店舗を運営してきたが、今後はSCを中心にラーメン業態で年間20店以上を出店する」と書いてあれば、「本格参入」だと納得できる。

ところが記事では、既存2店舗に触れていないだけでなく、具体的な出店計画にも言及していない。「出店余地のあるフードコートなどでラーメン店を増やし、第3の柱に育てたい考えだ」などと書いているだけだ。これでは苦しい。


(2)「本格参入」を諦める場合

松屋フーズはラーメン店に本格参入する」ではなく、「松屋フーズはショッピングセンターでラーメン店の展開を始める」「松屋フーズはショッピングセンターへの出店を再開する」などとする手もある。「本格参入」の方がインパクトがあるのは分かる。だが、実態と乖離しているのに「本格参入」と書くのはダメだ。「本格参入」と呼ぶに値しないものに、その言葉を使うべきではない。

まともな記事の書き手を目指すのならば、そこは妥協しないでほしい。


※今回取り上げた記事「松屋フーズ、ラーメン店 郊外SC、家族客に照準
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170414&ng=DGKKZO15297200T10C17A4TJC000

※記事の評価はD(問題あり)。

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