2017年4月27日木曜日

色々と疑問浮かぶ日経1面「高齢者のがん治療に指針」

27日の日本経済新聞朝刊1面に載った「高齢者のがん治療に指針 厚労省、抗がん剤に頼らぬ選択肢」という記事には色々と疑問を感じた。まず記事の最初の段落を見てみよう。
福岡大学病院(福岡市城南区)

【日経の記事】 

 厚生労働省は高齢のがん患者を治療するときの指針(ガイドライン)を新たに作成する。患者が少しでも希望する暮らしを送れるように、抗がん剤を過度に使わず、痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す方向だ。厚労省が世代を限った治療方針を検討するのは初めて。膨らむ医療費の配分を巡る議論にも影響を及ぼしそうだ。(関連記事を社会1面に)


◎これまでは「抗がん剤を過度に」使用?

記事によると、厚労省は「抗がん剤を過度に使わず、痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す方向」らしい。裏返せば、現状では「抗がん剤を過度に使う治療」しか選択肢がないことになる。だが、本当にそうなのか。医師も患者も「抗がん剤を過度に使わず、痛みや苦しみを和らげる治療を優先する」選択はできるはずだが…。これは書き方が上手くないのだろう。

記事の続きは以下のようになっている。

【日経の記事】

同省は今後6年間のがん対策を示す「第3期がん対策推進基本計画」を今夏にもまとめる。新指針の検討が柱の一つだ。

厚労省は指針を作るため、国立がん研究センターが27日に公表する調査結果を参考にする。同センターは70歳以上で進行がんの患者約1500人を調べ、抗がん剤を投与した患者としなかった患者で数年後の生存率を比べた。

調査の結果、一部のケースでは生存率に違いはないとの結果が出ている。ただ、信頼できるデータを得るには調査を広げる必要もある

抗がん剤の治療を続けるのか、生活の質(QOL)を優先した治療をするのかは難しい判断となる。これとは別に、厚労省は認知症を発症したがん患者の意思決定を支える仕組みも検討する。


◎信頼できない「調査結果」を参考にする?

厚労省は指針を作るため、国立がん研究センターが27日に公表する調査結果を参考にする」という。一方で「信頼できるデータを得るには調査を広げる必要もある」とも書いている。つまり、信頼できるデータが得られていない「調査結果を参考に」して、「指針を作る」わけだ。国民の命に関わる「指針」を作るのに、信頼できないデータに基づいて方針を決めてよいのか。記事はそこを問題にしていない。
今川(福岡県行橋市)※写真と本文は無関係です

社会面の関連記事では以下のように解説している。

【日経の記事】

国立がん研究センターによる抗がん剤の延命効果の研究は「統計的に意味のある結果を得ることができなかった」と結論づけたが、厚生労働省は高齢のがん患者の治療方針策定に向け動き出した。今後の高齢者のがん治療のあり方に一石を投じそうだ。(1面参照)

研究はがんが進行した高齢の患者の適正な治療を検証するため、経済産業省などが参加するAMED(日本医療研究開発機構)が依頼した。

同センターは2007~08年に同センター中央病院を受診した約7千人のうち、70歳以上の高齢患者約1500人の登録データを抽出。抗がん剤を投与した場合と、投与せず緩和治療に重点を置いたケースで比べた。

肺がんや胃がん、大腸がんなどに分けて調べ、「抗がん剤に延命効果がない」とみられる結果も一部で出たが、人数が少ないなど統計的な差があるとは言えない結果となった。同センターは大規模な調査や、情報を集める仕組みが必要とした。


◎色々と気になる点が…

1面と社会面の記事を併せて読むと、さらに疑問が浮かんでくる。列挙してみたい。

(1)やはりあった「抗がん剤に頼らぬ選択肢」

記事によると、国立がん研究センターの研究は「抗がん剤を投与した場合と、投与せず緩和治療に重点を置いたケースで比べた」ものだ。つまり「同センター中央病院を受診した」がん患者の中に「投与せず緩和治療に重点を置いたケース」が既にある。なのに厚労省が「痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す」必要はあるのか。必要だと言うのならば、その理由を解説してほしかった。


(2)「統計的な差があるとは言えない結果」ならば…

個人的には、免疫チェックポイント阻害薬など一部を除くと抗がん剤を使う意味はほとんどなく、害の方が多いと感じている。記事によると「『抗がん剤に延命効果がない』とみられる結果も一部で出たが、人数が少ないなど統計的な差があるとは言えない結果となった」という。つまり、抗がん剤の有効性も確認できなかったことになる。重篤な副作用が出るリスクと引き換えに、有効性が疑わしい抗がん剤での治療を受けているのが現状だと思うと怖い。


(3)「70歳未満」も同じことでは?

抗がん剤の延命効果が疑わしいから「痛みや苦しみを和らげる治療を優先することを選択肢として示す」場合、「70歳以上」に限定する意味があるのか。70歳未満ならば抗がん剤治療は高い効果が見込めるというならば分かる。だが、そうは書いていない。70歳以上に効果がないなら70歳未満でも似たような結果が出そうな気がするが…。


※今回取り上げた記事

高齢者のがん治療に指針 厚労省、抗がん剤に頼らぬ選択肢」(1面)
 http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170427&ng=DGKKZO15800570X20C17A4MM8000

がん治療のあり方に一石 厚労省、指針策定へ 高齢者の延命、検証必要」(社会面)
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170427&ng=DGKKZO15795700W7A420C1CR8000


※記事の評価はC(平均的)。

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