2017年4月6日木曜日

歌番組は消滅? 日経ビジネス「アイドル産業」特集の誤り

日経ビジネス4月3日号の特集「アイドル産業に学ぶ日本企業再生術」では、アイドル産業の手法を他の産業でも見習うべきだと提案している。だが、「なるほど」と思える中身ではない。ここでは「PART1 見よ! この変化対応力~家電業界が学ぶべき3教訓」と「PART2 これが本当の顧客管理~金融業界が知るべき3戦術」について問題点を指摘していく。
鎮西身延山 本佛寺の桜(福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です

まず「PART1」では現状認識が間違っている。齊藤美保記者はアイドル業界にとっての危機を3つ挙げており、その1つが「危機2 歌番組の消滅」だ。しかし、歌番組は地上波に限っても消滅していない。BSまで含めれば「アイドルが出演する歌番組はたくさんある」と言ってもいい状況だ。メジャーなアイドルに関しては地上波で冠番組もいくつもある。

ネットでの露出に力を入れる動きは当然にあるが「アイドル産業が見舞われた環境変化」として「商品をプロモーションする最大の機会、テレビの歌番組の消滅もその1つだ」言い切るのは誤りだ。

危機3 技術革新」では「レコード→CD→デジタル音源」という変化を取り上げているが、「CD→デジタル音源」という説明はおかしい。CDも「デジタル音源」のはずだ。そしてアイドル産業の「デジタル化への適応」について齊藤記者は以下のように記している。

【日経ビジネスの記事】

だが、音楽産業はこの個人化・デジタル化の流れにも対応しつつある。その武器が、定額制の音楽サービスだ。

何もせず個人化・デジタル化を受け入れてしまえば「1曲当たりの聴かれる回数」は減る一方。だが、月額一定の価格で何曲でも音楽を聴けるようにすれば、好みの音楽以外でも「一度聞いてみるか」と考えるようになる。つまり業界全体として「聴かれる回数」は増える。

もちろん定額制である以上、ダイレクトに収益が上がるわけではない。だが人々の耳に触れる機会が増えれば、おのずとファンは増える。その結果、CDやコンサートの収益が増えれば、これはもうヒット曲を出すのと同じこと。これが音楽産業の基本的なスタンスだ。

実際、現在国内では「Apple Music」「LINE MUSIC」や「AWA」など、多くの音楽配信サービスが存在しており、国内外のアーティストが楽曲提供している。アイドルたちもその中核にいて、積極的に曲を配信している。

◇   ◇   ◇

これは音楽産業の「デジタル化への適応」であって、アイドル産業に限った話ではない。「アイドル産業に学ぶ」と打ち出しているのだから、そこはアイドル産業独自の「デジタル化への適応」を取り上げるべきだ。
菜の花(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

同じことは「PART2 」で取り上げた「顧客管理能力1 真の双方向コミュニケーション」にも当てはまる。

【日経ビジネスの記事】

「今日のイベントどうだった?」
あるアイドルが生配信でこう呼びかけると、閲覧中のファンから一斉にコメントが届く。「かわいかったよ!」「新曲よかった!」「早くまた会いたい」。アイドルは、うれしそうな顔でそのコメントを一つひとつ読み上げていく。

これは、東京都渋谷区に本社を置くIT企業、ショールームが運営するライブ動画ストリーミングプラットフォーム「SHOWROOM」でのやり取りだ。

動画を通じてアイドルと双方向のコミュニケーションをとることができるサービスで、13年から事業を開始。登録者は既に120万人を超える。AKBグループから地下アイドルまで多くのアイドルがSHOWROOMを利用しており、アイドルにとって欠かせないファンとの交流手段になっている。

自社のファンを作るため、顧客との対話を重視する--。そんなモットーを掲げる一般企業は多いが、実際にはお客様相談センターへの電話すらつながりにくいのが実情だ。

◇   ◇   ◇

齊藤記者はSHOWROOMに関して「顧客心理を理解した、他産業には見られない『本当の双方向コミュニケーション』であるのも紛れもない事実だ」と書いている。そうだろうか。例えばキャバクラはどうか。キャバクラ嬢は客と「本当の双方向コミュニケーション」を取っていないのだろうか。キャバクラ嬢にはまるのも「双方向コミュニケーション」を介しているという意味で、基本的な構図はアイドルと同じだ。「他産業には見られない」アイドル産業独自のやり方とは考えにくい。
福岡県立朝倉東高校(朝倉市)※写真と本文は無関係です

アイドルやキャバクラ嬢が「商品」そのものであるのに対し、記事で比較対象としている金融業界では顧客に対応する従業員は「商品」ではない。それを同列に論じて意味があるとは思えないが、「双方向コミュニケーション」が大事と言うならば、多くの金融機関では既にできている。

齊藤記者は試しに銀行で投資信託について尋ねたり、保険ショップで保険の相談を持ち掛けたりしてみるといい。アイドルの握手会などの比ではない時間をかけて「双方向コミュニケーション」を取ってくれるはずだ。もちろん、それが顧客の利益につながるわけではないが…。

今回の特集は様々な意味で無理があった。あまりに問題が多くて、一部しか言及できなかった。だが、挑戦的な内容の記事を届けようとしたことは評価したい。齊藤記者はこれに懲りずに、十分な準備をして次の挑戦的な特集に挑んでほしい。


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

熱意は買うが分析に難あり日経ビジネス「アイドル産業」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_31.html

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