2017年4月10日月曜日

庶民感覚ゼロの日経「社外取締役報酬、米の4分の1」

会社の経営内容をチェックする社外取締役を任され、会議のために年間に30~40回は出社する必要があるとしよう。この仕事で年700万円近くもらえたら「少なすぎる」と感じるだろうか。個人的には「非常においしい」と思える。しかし9日の日本経済新聞朝刊総合5面に載った「社外取締役報酬、米の4分の1  年669万円 不十分との指摘も 待遇改善、検討そろり」という記事の筆者の考えは逆のようだ。「日本の社外取締役は報酬が低すぎるかも。何とかしてあげた方がよくないか」と訴えかけるような内容になっている。

鎮西身延山 本佛寺の桜(福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

日本の企業統治改革の中で中心的な役割を期待されている社外取締役。その報酬は米欧企業に比べて低く、平均水準は米国の約4分の1にとどまることが分かった。経営参画の度合いや責任が高まる中で十分な報酬を受け取っていないとの声も出ている。J・フロントリテイリングのように株式報酬の導入によって社外取締役の待遇改善を検討する企業も出てきた。

労務行政研究所の調査(119社の228人が対象)によると、2016年度の社外取締役の年間報酬は平均で669万円。最多は100万~499万円(38%)で、次に多いのが500万~999万円(36%)だった。企業規模が小さくなるほど報酬が低くなる傾向が強く、100万円未満の企業も5%あった。

米欧の社外取締役の平均報酬は日本よりも高い。「米国の相場は平均20万~30万ドル(2200万~3300万円)で、欧州も15万ユーロ(1770万円)程度をもらう例が多い」(経営者報酬コンサルタントの米タワーズワトソン)という。

報酬格差は社外取締役の時間的な負担の違いによる面があるようだ。

企業統治に詳しいコンサルティング会社、エゴンゼンダー(東京・千代田)の調査では、日本企業の取締役会の年間開催時間は約24時間と米国のおよそ半分だった。米欧企業では2カ月に1回の頻度で丸1日の時間をかけて議論する場合も多いが、日本企業では1回2時間弱の会議を年15回近く開く例が多いという

ただ日本でも負担が増えつつあるのが現状だ。社外取締役が中心となってトップの人事や報酬を議論する指名・報酬委員会の設置が広がるなど一段の経営参画を求められるようになっているからだ。ある大手銀行の社外取締役は「(業務執行が適正かどうかチェックする)監査委員会が年20回近く開かれ、報酬に比べて負担が重い」と話す。

◇   ◇   ◇

欧米との比較でよく見られる傾向だが、「欧米=あるべき姿」と捉えて、日本は欧米に近付くように努力すべきだと考えやすい。この記事にもその雰囲気がある。「社外取締役報酬、米の4分の1」「待遇改善、検討そろり」という見出しからも、その傾向がうかがえる。
平尾台(北九州市)※写真と本文は無関係です

だが、「米の4分の1」だからと言って「日本は低すぎる」と決め付けるのは短絡的だ。「米国が高すぎる」という見方もできる。そもそも「適正水準があって、そこに両国が収まるべき」との前提を置く必要があるのかも疑わしい。

さらに言えば、社内取締役の報酬はどうなのか。社内取締役の報酬も米国より大幅に低いのであれば、社外取締役の報酬だけ取り出して「待遇改善」を論じる意味は乏しくなる。

さらに気になるのが筆者の「庶民感覚」のなさだ。記事では「ある大手銀行の社外取締役は『(業務執行が適正かどうかチェックする)監査委員会が年20回近く開かれ、報酬に比べて負担が重い』と話す」と書いている。この社外取締役の報酬は不明だが、仮に平均的な700万円だとしよう。それで「監査委員会が年20回近く開かれ」ると聞いたら、「報酬に比べて負担が重い」と同情してあげたくなるだろうか。

ごく普通の会社員ならば「贅沢な悩みだな」と思う人が多いのではないか。自分が株主だったら「700万円も払ってるんだから、年20回程度の会議は文句を言わずに出てくれ」と注文を付けたくなる。しかし、記事の筆者の考えは全く逆だ。

【日経の記事】

日本でも大手企業の社外取締役の報酬は米欧企業と比べてもあまり遜色がない水準に設定されており、トヨタ自動車や三菱商事などでは平均2000万円を超えている。中堅以下の企業の報酬が低めに設定され、全体の平均を押し下げている面が大きい。


流川桜並木(福岡県うきは市)
     ※写真と本文は無関係です
日本取締役協会の松本茂執務室長は「報酬が低すぎると、執行部の監督という果たすべき役割がおろそかになる恐れが出てくる社外取締役の働きと、それに見合った報酬の双方の水準を高めなければならない」と指摘する。「適正な報酬は会社規模や業界によって異なるが、全体の平均は1000万円程度が妥当だろう」(松本氏)とみる。

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「700万円は低すぎるから1000万円ぐらい出してあげようよ」と言いたいのだろう。しかし、報酬700万円だと「執行部の監督という果たすべき役割がおろそかになる」社外取締役が、報酬1000万円になったら急に真面目に仕事をしてくれるようになるだろうか。700万円だと役割を果たせない社外取締役がいるならば、別の候補を検討すべきだろう。

記事では「全体の平均は1000万円程度が妥当だろう」というコメントを紹介しているが、なぜ「1000万円程度が妥当」なのか根拠は示していない。筆者には社外取締役の利益を擁護する特別なインセンティブがあるのだろうかと疑いたくなる。

記事に説得力を持たせたいならば、「社外取締役の報酬を引き上げると企業業績を上向かせる効果がある」といった研究結果でも紹介してほしかった。


※今回取り上げた記事「社外取締役報酬、米の4分の1  年669万円 不十分との指摘も 待遇改善、検討そろり

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170409&ng=DGKKZO15087260Y7A400C1EA5000

※記事の評価はC(平均的)。

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