2017年4月25日火曜日

木皮透庸記者は貿易赤字を誤解? 東洋経済「トヨタの焦燥」

週刊東洋経済4月29日・5月6日合併号の第1特集「トヨタの焦燥」は、全体として見れば完成度が高かった。ただ「『米国に工場をつくれ!』 予測不能のトランプリスク」という記事では、貿易赤字に関する説明が引っかかった。筆者の木皮透庸記者は貿易赤字(あるいは貿易収支)について誤解があるのかもしれない。
鎮西身延山 本佛寺の桜(福岡県うきは市)
           ※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

日系自動車メーカーは80年代に起きた日米貿易摩擦を受けて、積極的に現地生産を拡大してきた。この20年で現地生産量は2倍近くに拡大しており、16年に米国で販売された日本車の6割が現地生産だ。結果、米国の貿易赤字に占める日本の割合は、91年に65%だったものが、16年には10%を切るまでになった。だが、足元の米国の対日赤字の約8割は自動車関連。トランプ大統領もかねて「日米の自動車貿易は不公平」と主張してきた。


◎「足元の米国の対日赤字の約8割は自動車関連」?

足元の米国の対日赤字の約8割は自動車関連」という書き方は読者の誤解を招きやすい。素直に解釈すれば「自動車関連以外での赤字は約2割しかない」と思ってしまうはずだ。しかし、そうとは限らない。

話を簡単にするために、日米の貿易が自動車、電機、農産物の3項目だけだとしよう。「米国の対日赤字」は1000億ドルで、自動車関連の赤字が800億ドルだとする。この場合、「米国の対日赤字の約8割は自動車関連」と言ってよいだろうか。

例えば、自動車は800億ドルの赤字、電機も800億ドルの赤字、農産物が600億ドルの黒字だとする。この場合も対日赤字は合計で1000億ドルだが、「約8割は自動車関連」とすると妙な感じがするはずだ。「約8割は電機関連」とも「自動車・電機関連で160%」とも言えるからだ。
三池港(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

同じ理由で「米国の貿易赤字に占める日本の割合は、91年に65%だったものが、16年には10%を切るまでになった」との記述も不適切だ。「米国の貿易赤字に占める日本の割合」としてしまうと、日本が「65%」ならば、日本以外の国の赤字額が35%のような印象を与えてしまう。

米国全体の貿易赤字と比べた対日赤字の比率」などとすれば問題は減るが、誤解を与えるリスクはまだ大きい。この手の対比はなるべくしない方が望ましい。

ついでに、記事の書き方で木皮記者に1つ助言したい。

【東洋経済の記事】

トヨタはメキシコ政府に「決して逆戻りしない」と工場建設を確約している。米国での増産のために競争力や雇用維持の観点から死守してきた、日本での生産300万台の旗を降ろすことはありえない。かといって欧州やアジアの拠点で減産すれば、当該国からの反発は必至だ。

◎語順が…

上記の書き方だと「米国での増産のために」が「競争力や雇用維持の観点から死守してきた」にかかって見えてしまう。しかし、文脈から判断すると、そう言いたいのではないはずだ。改善例を示してみる。

【改善例】

競争力や雇用維持の観点から死守してきた日本での生産300万台の旗を、米国での増産のために降ろすことはありえない。

◇   ◇   ◇

これで「米国での増産のために」が何にかかっているのか明確になったはずだ。基本的には語順を変えただけだ。記事の書き手としてプロと呼べるレベルを目指すのならば、こうした細かい配慮もできるようになってほしい。


※特集全体の評価はB(優れている)。冨岡耕記者、宮本夏実記者の手掛けた記事には特段の注文はない。木皮透庸記者が担当した当該記事の評価はC(平均的)。木皮記者への評価は暫定Bから暫定Cへ引き下げる。

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