2017年4月24日月曜日

理解に迷う日経「AIと世界~ロボットと競えますか」

23日の日本経済新聞朝刊1面に載った「AIと世界~ロボットと競えますか 日本の仕事、5割代替 主要国トップ」という記事は、どう理解すべきかかなり迷った。記事では「人が携わる約2千種類の仕事(業務)のうち3割はロボットへの置き換えが可能なことが分かった」というが、これは現時点の技術で可能なのか、それとも将来の話なのか。将来だとすれば、どの程度の期間なのか。そうした点は全くの謎だ。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

まずは記事の最初の方を見てみよう。

【日経の記事】

人工知能(AI)の登場でロボットの存在感が世界で増している。日本経済新聞と英フィナンシャル・タイムズ(FT)が実施した共同の調査研究では、人が携わる約2千種類の仕事(業務)のうち3割はロボットへの置き換えが可能なことが分かった焦点を日本に絞ると主要国で最大となる5割強の業務を自動化できることも明らかになった。人とロボットが仕事を競い合う時代はすでに始まっている。

日経とFTは、読者が自分の職業を選択・入力するとロボットに仕事を奪われる確率をはじき出す分析ツールを共同開発し、22日に日経電子版で公開した。米マッキンゼー・アンド・カンパニーが820種の職業に含まれる計2069業務の自動化動向をまとめた膨大なデータを日経・FTが再集計し、ツールの開発と共同調査に活用した。

調査の結果、全業務の34%に当たる710の業務がロボットに置き換え可能と分かった。一部の眼科技師や食品加工、石こうの塗装工などの職業では、すべての業務が丸ごとロボットに置き換わる可能性があることも判明した。ただ、明日は我が身と過度に心配する必要はない。大半の職業はロボットでは代替できない複雑な業務が残るため、完全自動化できる職業は全体の5%未満にとどまる


◎「置き換え可能」はいつの話?

太宰府病院(福岡県太宰府市)※写真と本文は無関係です
まず「置き換えが可能」なのは「現時点の技術で」という前提で考えてみる。しかし、記事では「完全自動化できる職業は全体の5%未満にとどまる」とも書いている。現時点で5%近い職業を「完全自動化」できる技術があるとは考えにくい。

では「長期的に見れば置き換え可能」と理解すべきだろうか。だが、非常に長い期間で見ればあらゆる職業で「置き換えが可能」だ。将来の技術を前提にするならば、期間を設定する必要がある。


◎「ロボットに仕事を奪われる確率をはじき出す」?

記事では「日経とFTは、読者が自分の職業を選択・入力するとロボットに仕事を奪われる確率をはじき出す分析ツールを共同開発し、22日に日経電子版で公開した」と記している。だが、関連記事も含めて、今回の記事で紹介しているのは「ロボットが代替できる業務の割合」だ。例えば、カウンセラーは「10.5%」となっている。これは「ロボットに仕事を奪われる確率」ではないはずだ。カウンセラーの業務の1割しかロボットで代替できないのならば、カウンセラーが「ロボットに仕事を奪われる確率」はゼロに近いだろう。

日本に関する説明もどう理解すべきか迷った。

【日経の記事】

今ある業務が自動化される割合を国別に比較すると、日本はロボットの導入余地が主要国の中で最も大きいことが明らかになった。マッキンゼーの試算では自動化が可能な業務の割合は日本が55%で、米国の46%、欧州の47%を上回る。農業や製造業など人手に頼る職業の比重が大きい中国(51%)やインド(52%)をも上回る結果となった。

日本は金融・保険、官公庁の事務職や製造業で、他国よりもロボットに適した資料作成など単純業務の割合が高いという。米国などに比べ弁護士や官公庁事務職などで業務の自動化が遅れている面もある。米国の大手法律事務所では膨大な資料の山から証拠を見つけ出す作業にAIを使う動きが急速に広がっているが、日本はこれからだ。



◎分子と分母は何?

米マッキンゼー・アンド・カンパニーが820種の職業に含まれる計2069業務の自動化動向をまとめた膨大なデータを日経・FTが再集計し、ツールの開発と共同調査に活用した」結果として「自動化が可能な業務の割合は日本が55%」となったはずだ。
三池工業高校(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

この場合、分子と分母は何だろうか。全体では「2069業務」のうち「34%に当たる710の業務がロボットに置き換え可能」で、日本ではこの比率が55%だという。日本に関しても分子は710を超えないはずだ。ならば分母が小さくなるのか。分子が710だとすると日本の場合、分母は約1300になる。世界にある「2069業務」のうち日本に存在するのは「1300業務」だけなのか。あり得ないとは言わないが、ちょっと考えにくい。

それぞれの業務に就く人の数も考慮に入れた比率ならば「55%」でも違和感はない。だが、そう明示しているくだりはない。「他国よりもロボットに適した資料作成など単純業務の割合が高いという」との説明がヒントになる気もするが、これだけでは計算方法を断定できない。


◎「主要国」とは?

主要国」というぼんやりした括りで日本を「トップ」としているのも気になった。記事の書き方からすると中国やインドも「主要国」に入っているような感じもする。だが、「どの国の中でトップなのか」を断定できる材料が記事中にはない。そもそも、何カ国に関して数値があるのかも不明だ。これは困る。「欧州の47%」という書き方からすると、欧州で「国別」に数字を出しているかどうかも怪しい。

さらに言うと、数字が出てくる日米欧中印で最も低い米国でも46%とかなり高い。「34%に当たる710の業務がロボットに置き換え可能」なだけなのに、なぜ「主要国」はそろいもそろって10ポイント以上も数値が高くなるのか。疑問として残った。

結局、この記事は分からないことだらけだ。これだけ理解に迷う材料が多いと、有用な調査結果として受け止める気にはなれない。


※今回取り上げた記事「AIと世界~ロボットと競えますか 日本の仕事、5割代替 主要国トップ
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170423&ng=DGKKZO15581470R20C17A4MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。中西豊紀記者の評価はDを維持する。今回の記事にはFTの記者も参加しているが、日本語の記事に責任を負えるとは考えにくいので評価を見送る。

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