2017年4月5日水曜日

金利ゼロ=おカネに価値なし? 東洋経済「親子で学ぶ経済入門」

週刊東洋経済4月8日号の特集「親子で学ぶ経済入門」は色々と問題が多い。ここでは平松さわみ記者が担当した「2%物価上昇はなぜ必要?」という記事を取り上げる。東洋経済に問い合わせを送ったので、その内容を見てほしい。
流川桜並木(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

【東洋経済への問い合わせ】

週刊東洋経済 平松さわみ様

4月8日号の特集「親子で学ぶ経済入門」の中の「2%物価上昇はなぜ必要?」という記事についてお尋ねします。

(1)記事には「金利がゼロ近傍にあるのは、おカネが潤沢にあり、その価値がゼロという意味だ」という立正大学の吉川洋教授のコメントが出てきます。しかし、「金利ゼロ=おカネの価値ゼロ」とは考えられません。例えば1億円を「ゼロ近傍」の金利で借りられるとしましょう。この時に1億円という「おカネ」の価値はゼロでしょうか、それとも1億円でしょうか。答えは明らかです。「金利ゼロ=借り入れでカネを調達する価値ゼロ」とは言えるかもしれませんが、「おカネの価値がゼロ」ではないはずです。

(2)記事では「日本では1990年代以降、20年以上にわたって物価が緩やかに下落する『デフレ』(デフレーション)が続いてきた。消費者がモノやサービスを買うときの総合的な価格水準を示す消費者物価指数は、消費増税やエネルギー価格の高騰といった特殊要因のある年を除いて低迷している」と書いています。グラフには「バブル崩壊後、デフレが続く日本」とのタイトルも付いています。

しかし「20年以上にわたって」デフレが続いているとは思えません。記事ではデフレを「物価水準が年々下落すること」と定義しています。90年代以降で消費者物価指数が初めて前年比2年連続のマイナスとなったのは2000年です。となると、デフレの起点は1999年になります。現在もデフレが続いていると仮定しても「20年」には届きません。99年からデフレに陥ったと考えると、「バブル崩壊後、デフレが続く日本」というタイトルも正確さに欠けます。

(3)記事の中で立正大学の吉川洋教授は「(石油や穀物など加工されていない)1次産品を除き、モノやサービスの価格は作るときのコストで決まる」ともコメントしています。これも正確さに欠けます。「モノやサービスの価格」は基本的に需給で決まります。コストも重要な要素ではありますが、吉川教授のコメントからは、他の要素は関係なく「コストで決まる」と解釈できます。

また、価格決定において「コスト」が重要という意味では、一次産品も他の「モノ」と同様ではありませんか。石油や穀物を生産するにはコストがかかりますし、市場価格が採算割れの水準まで落ち込むと減産へのインセンティブが働いて価格が上がりやすくなります。

以上の3点に関して、記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとの判断であれば場合は、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

上記の指摘に絶対の自信があるわけではないが、東洋経済からの回答は期待できないので、記事の説明は誤りと推定するほかない。これだけ問題が多いと「親子で学ぶ経済入門」としての役割を果たすのは難しい。

福岡大学(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です

ついでにもう1つ記事の問題点を指摘したい。

記事では「デフレの何が悪いのか」というタイトルで、デフレの問題点を列挙している。その中に「名目賃金は変わらなくても、物価が下がると実質賃金は上がる→企業は雇用する労働者の数を減らそうと考えるため、失業のリスクが高まる」という説明がある。これは引っかかった。

(1)なぜ「名目賃金」は不変?

デフレになれば、名目賃金にも下落圧力が働くのが自然だ。なぜ名目賃金が不変という特殊な前提を置いて「デフレは悪い」と訴えるのか。実質賃金が上がると「企業は雇用する労働者の数を減らそうと考えるため、失業のリスクが高まる」と言うが、賃金減で対応する可能性もある。そこを無視しているのは感心しない。

(2)インフレだと「実質賃金」は上がらない?

結局、「実質賃金」が上がるから「デフレは悪い」と言いたいのだろう。だが、インフレでも実質賃金は上がり得る。物価上昇を上回る勢いで賃上げが進む場合だ。一方、デフレでも、物価下落以上に賃金の削減が進めば実質賃金は減る。

つまり、インフレでもデフレでも実質賃金は上がったり下がったりする。なのに「実質賃金が上昇する」という理由で「デフレは悪い」と決め付ける意味があるのか。


※結局、問い合わせに対する回答はなかった。記事の評価はD(問題あり)。平松さわみ記者への評価も暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「最大の貿易国」は米国? 東洋経済「親子で学ぶ経済入門」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_63.html

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