2017年4月16日日曜日

海外M&A「9割失敗」が怪しい週刊ダイヤモンドの特集

週刊ダイヤモンド4月22日号の特集2「成功する/失敗する M&A」は甘い分析が目立つ物足りない内容だった。まず「日本企業の海外企業買収は なぜ9割も失敗するのか」という記事から見ていこう。見出しを見て「『9割も失敗』というデータがあるのか」と興味を持って記事に入っていったら、肩透かしを食らってしまった。
岡山公園の桜(福岡県八女市)※写真と本文は無関係

【ダイヤモンドの記事】

ここ数年、日本企業による海外M&Aが活発化している。ところが、その9割近くが失敗に終わっているという。企業の失敗事例を検証すると、そこにはある共通点があった。

◇   ◇   ◇

これは記事の冒頭部分だ。実は「9割も失敗」に触れているのはここだけだ。つまり、どこの調査なのかも、何を以って失敗と評価するのかも不明だ。なのに「なぜ9割も失敗するのか」を分析して意味があるのか。そもそも9割が失敗しているという根拠が見当たらない。

日本企業の海外企業買収」が「9割も失敗」するとしても、日本企業だけが失敗率が高いかどうかは知りたい。仮に「海外企業の買収は世界的に9割失敗が常識」だとすると、「日本企業の海外企業買収は なぜ9割も失敗するのか」という問題提起はやはり意味がなくなる。

記事には「M&Aから5~7年が経過した企業を対象に本誌が独自に行ったM&Aの追跡調査の結果」も載せている。この調査ではM&A後の満足度を60%、80%、100%、120%、150%の5つから選ばせている。このうち60%(期待や目標にあまり届いていない)と80%(期待や目標に一部届いていない)が「失敗」に該当しそうだ。しかし、2つを合わせても27%にしかならない。

M&Aに踏み切った企業自身の自己採点なので評価が甘い面は当然あるだろう。それを割り引いても「9割も失敗」とはかなり食い違う。

ついでに「同社」の使い方にも注文を付けておく。

【ダイヤモンドの記事】

10年にサントリーホールディングスとの経営統合交渉が破談に終わり、“非連続な成長”への道筋が見通せなくなっていた同社は、成長の代名詞ともいえるBRICsというキーワードを大義名分として、約3000億円もの大型買収に踏み切ったのである。

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上記の「同社」は形式的に見れば「サントリーホールディングス」だが、筆者は「キリンホールディングス」のつもりで書いているのだろう。誤解を招く恐れは小さいとはいえ、記者としての力量を疑われるので気を付けた方がいい。
本佛寺の仏舎利塔と桜(福岡県うきは市)
           ※写真と本文は無関係です

次は「34年間百戦百勝で負けなし 日本電産に学ぶ成功の鉄則」という記事を見ていく。これも「百戦百勝で負けなし」と決め付けているが、根拠は見当たらない。

【ダイヤモンドの記事】

前節では失敗事例から教訓を学んだ。今度は成功事例を検証することで、買収で失敗しないための秘訣を解き明かす。題材となるのは、52社の買収を全て成功させてきた日本電産だ。

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これは記事の冒頭部分だ。その後に「34年間で52社というハイペースの買収全てを、日本電産はいかにして成功させたのか」と繰り返すものの、何を以って「成功」とするのか、日本電産はその基準を52社全てで満たしているのか、といったことは教えてくれない。とにかく成功したとの前提で話が進む。

そして成功の要因に話が移る。

【ダイヤモンドの記事】

何より重要なのは高値つかみしないこと。逆に言えば、最近日本企業の海外M&Aで巨額の減損が発生しているのは、買い値が高過ぎるからだ。

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異論はない。ただ、そんなことは誰でも分かっている。「高値つかみ」でもいいから買収してしまえと考える経営者は稀だろう。「高値つかみ」かどうかの判断基準を教えてくれると助かるのだが、そんな話は見当たらない。
帝京大学 福岡キャンパス(大牟田市)※写真と本文は無関係です

日本電産の永守重信代表取締役会長兼社長はインタビュー記事の中で「自分の中に適正価格の算定基準を持っているので、それを超えていたら買いません」とは語っている。だが、「適正価格の算定基準」はもちろん教えてくれない。

これでは「株式投資に失敗しない秘訣は高値つかみをしないこと」と言っているようなものだ。間違ってはいないが「それができれば苦労はないよ」と返したくなる。

見出しに釣られて読んでみたものの、結局は期待に応えてくれる中身ではなかった。


※今回取り上げた特集「成功する/失敗する M&A
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/19959

※特集の評価はC(平均的)。前田剛記者への評価は暫定B(優れている)から暫定Cへ引き下げる。

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