2017年4月2日日曜日

ツッコミどころが多い日経「雇用逼迫が成長の壁」

1日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「雇用逼迫が成長の壁 失業率22年ぶり低水準」という記事に関しては、「完全雇用」の説明に問題があると既に指摘した。ここでは、他の気になった点を列挙してみたい。
菜の花畑(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

労働市場が急速に引き締まっている理由は大きく2つだ。1つ目は人口減。15~64歳の生産年齢人口は1997年の8699万人をピークに減り続け、2月は7620万人だった。20年間で約1000万人、年平均でおよそ50万人という先進国では例をみないペースで減っており、働き手の補充が追いつかない。


◎「急速に引き締まっている理由」になってる?

労働市場が急速に引き締まっている理由」として、記事では生産年齢人口の減少を挙げている。「20年間で約1000万人、年平均でおよそ50万人という先進国では例をみないペースで減って」いると言うが、それでは「労働市場が急速に引き締まっている理由」にはならない。生産年齢人口の減少が最近になって急ピッチになったのならば分かる。だが、そうは書いていない。

ついでに言うと「労働市場が急速に引き締まっている」という部分はやや舌足らずだ。「労働市場で需給が急速に引き締まっている」などとした方がよいだろう。「市場が引き締まる」という表現には違和感がある。

さらに問題点を見ていこう。

【日経の記事】

モノやサービスの需要さえあれば企業はもっと成長できる環境なのに、肝心の働き手が足りず手厚いサービスを供給できない。典型例は外食だ。ファミレスのロイヤルホストは2月に24時間営業をとりやめ、すかいらーくも4月までに順次、24時間営業店舗の7割を原則午前2時閉店に変更する。



◎需要不足が「成長の壁」?

モノやサービスの需要さえあれば企業はもっと成長できる環境」と言われると、成長できない理由は需要不足だと思える。しかし、記事では「雇用逼迫が成長の壁」と訴えているはずだ。例えば「モノやサービスの量を拡大できれば企業はもっと成長できる環境なのに、肝心の働き手が足りず手厚いサービスを供給できない」となっていれば、あまり違和感はない(後半でサービスにしか触れていないのはやや気になる)。
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       ※写真と本文は無関係です

次に移る。

【日経の記事】

ところがいくら就業者が増えても非正規のパートなどで短時間勤務の人が多いので、経済成長にとって重要な総労働時間(いわゆる労働投入量)は横ばいのままだ。非正規を正社員に切り替えるなどして企業も労働力確保に躍起だが、激しい人材争奪で限界の壁に直面している。



◎「労働投入量は横ばいのまま」?

総労働時間(いわゆる労働投入量)は横ばいのままだ」と書いているが、記事に付けたグラフを見ると、そうは思えない。1995年以降は概ね減少傾向で、2009年の88で底を打ち、16年には90にまで戻している。近年に関しては「緩やかな増加傾向」とする方がしっくり来る。

付け加えると、「限界の壁」という表現にはダブり感がある。「激しい人材争奪で限界の壁に直面している」というくだりは、「激しい人材争奪で限界に達しつつある」などとした方が自然だ。

さらに次へ行こう。

【日経の記事】

これだけ人手が足りなくなると賃上げが加速してもおかしくないが、中小にとどまっている

中小企業が加盟するものづくり産業労働組合(JAM)がまとめた2017年春季労使交渉の中間集計では、従業員数300人未満の中小企業のベースアップ(ベア)の平均回答額は1397円と、トヨタ自動車など大企業の1300円を上回った。JAMの宮本礼一会長は「人材を引き留めておくためにも賃上げする動きが続いている」と指摘する。



◎賃上げは「中小にとどまっている」?

ベアの平均回答額が中小は「1397円」で、大手は「1300円」らしい。これを以って、賃上げは「中小にとどまっている」と言えるだろうか。似たような数字にしか見えない。「1397円」を賃上げと見るのならば「1300円」も賃上げだろう。

最後にもう1つ。

【日経の記事】

個人消費が上向かないため人件費の上昇分を販売価格に転嫁できない企業も多い。2月の消費者物価は生鮮食品を除く総合で前年同月比0.2%の上昇にすぎない。人手不足が賃金や物価上昇に波及する経済の好循環は実現していない。



◎コストプッシュインフレは「好循環」?

人手不足が賃金や物価上昇に波及する経済の好循環」という説明が引っかかった。人手不足が原因で賃金や物価が上がるのはコストプッシュインフレに当たる。これは「好循環」と呼べるほど良いことなのか。人手不足にもかかわらず、賃上げも物価上昇も緩やかな今の状況は悪くない気がする。

賃金と物価が同時に5%、10%と上昇する事態になったら、筆者は「好循環が起きているな」と思うのだろうか。コストプッシュインフレを歓迎する人ももちろんいるだろうが、個人的には勘弁してほしい。


※今回取り上げた記事「雇用逼迫が成長の壁 失業率22年ぶり低水準

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170401&ng=DGKKASDC31H3L_R30C17A3EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。今回取り上げた記事については以下の投稿も参照してほしい。

「完全雇用」の説明が雑な日経「雇用逼迫が成長の壁」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post.html

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