2017年4月17日月曜日

踏み込み不足の日経1面「株指数運用、市場を席巻」

16日の日本経済新聞朝刊1面トップに据えた「株指数運用、市場を席巻  低コスト強み、投信の8割 企業選別機能衰えも」という記事は悪い出来ではない。だが、満足できる内容とも言えない。「踏み込み不足」が気になったからだ。以下で具体的に指摘してみたい。
浅井の一本桜(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

世界の株式市場で株価指数の構成銘柄を丸ごと買うインデックス運用が急激に広がっている日本株市場では投資信託の8割、年金運用の7割に達してきた。低コストで市場平均並みの成績を狙うのが効率的との見方が強まっているからだ。インデックス運用が勢いを増せば、業績や将来の成長性で個別企業を選別する市場の大切な機能が衰えてしまいかねない。



◎「世界」の解説が足りない

世界の株式市場で株価指数の構成銘柄を丸ごと買うインデックス運用が急激に広がっている」との書き出しからすると、世界全体の動向を解説してくれるのかと期待してしまう。実際には、ほとんどが日本の話だ。「世界」については「インデックス運用へのシフトは世界的な現象。16年度は世界で6888億ドル(約75兆円)と過去最大の資金が流入した」と書いてあるだけ。これでは苦しい。

記事では「インデックス運用が多数派になるのは市場関係者の多くが想定していなかった事態」とも記しているが、「多数派」になっているかどうかも怪しい。

【日経の記事】

株式運用は有望銘柄を個別に選ぶアクティブ運用と、株価指数に組み入れられた全銘柄を機械的に買うインデックス運用の2つに大別される。アクティブ運用からインデックス運用に資金を移す投資家が後を絶たない。

先導するのは巨大な公的マネーだ。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は日本株投資に占めるインデックス運用の比率を8割と2001年度から倍増させた。他の年金も追随し、年金全体で約7割に達した

東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価などに連動する上場投信(ETF)を通じて年6兆円の日本株を買う日銀も同様。ETFを含めた日本株投信は8割をインデックス運用が占める。


◎インデックス運用は「多数派」?

「(インデックス運用が)日本株市場では投資信託の8割、年金運用の7割に達してきた」という事実から、「日本株市場ではインデックス運用が多数派」という結論を導けるだろうか。「多数派」と言い切るのであれば「投資信託」と「年金」だけでなく、他の投資主体も含めて見る必要がある。しかし、記事にはそうしたデータがない。それで「インデックス運用が多数派」と言われても困る。
三池港(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

次に「インデックス運用の弊害」について見ていく。この解説も説得力に欠ける。

【日経の記事】

インデックス運用が席巻する市場の弊害は、あちこちに出始めている。

インデックス運用の世界最大手、米ブラックロックは今なお東芝株の5%を保有する。指数に入っていれば、経営危機であろうが自動的に買わなければならないからだ。

業績がいい企業の株価が上がり、悪い企業の株価が下がるのが市場の選別機能だ。「業績情報が株価に反映されず、株価形成がゆがむ可能性がある」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の芳賀沼千里氏は懸念する。


◎インデックス運用の「弊害」出てる?

米ブラックロックは今なお東芝株の5%を保有する」ことの何がインデックス運用の「弊害」なのか。「5%を保有」しているから、東芝の経営実態が株価に反映されないと言いたいのだろうか。しかし、東芝の株価は経営危機を受けてそれなりに下がっている。「経営状況の悪化に対して株価の下げが十分ではない」と見ているのならば、その根拠を示すべきだ。

次の「弊害」も苦しい。

【日経の記事】

機関投資家の大半はTOPIXに沿って運用。指数に入る約2千社の東証1部上場企業に資金が偏重する弊害もある。マザーズやジャスダックの新興企業にはお金が回らず、約1千社が上場する2市場の時価総額は東証1部のわずか2%だ。


◎これは「インデックス運用の弊害」?

上記の話はそもそも「インデックス運用の弊害」に当たるのか。アクティブ運用が増えても、それが「東証1部」の中での動きならば「東証1部上場企業に資金が偏重する」傾向は変わらない。一方、インデックス運用が増えても、「マザーズやジャスダック」を対象とした運用にまで広がるならば、投資資金は両市場にも向かう。
九州大学伊都キャンパス(福岡市西区)
     ※写真と本文は無関係です

そもそも「偏重」と言っても、その対象が「約2千社」ならばかなり多い。「東証1部の時価総額上位10銘柄ほどに資金が集中」ならば、「偏重」でしっくり来るのだが…。

さらに言えば、「約1千社が上場する2市場の時価総額は東証1部のわずか2%だ」との解説もやや乱暴だ。利益や純資産などで見て東証1部の「2%」の水準ならば、「2市場の時価総額は東証1部のわずか2%」となるのが当然だ。「2%」が低すぎるとの判断であれば、なぜそう言えるのか根拠を示すべきだ。

「東証1部が約2000社に対し、マザーズとナズダックは合わせて約1000社。なのに時価総額は東証1部の2%。これは少なすぎる」と言いたいのだろうが、それでは素人レベルだ。そのぐらいは、筆者である松崎雄典編集委員と宮川克也記者も分かっているはずだ。


※今回取り上げた記事「株指数運用、市場を席巻 低コスト強み、投信の8割 企業選別機能衰えも
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170416&ng=DGKKASGD13H0O_T10C17A4MM8000

※記事の評価はC(平均的)。松崎雄典編集委員への評価はD(問題あり)からC(平均的)に引き上げる。宮川克也記者は暫定でCとする。

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