8日の日本経済新聞朝刊 経済・政策面に高橋哲史経済部長が書いた「Angle:長期金利は操れるのか~金融政策『手品』の限界」という記事は悪くない。問題意識は伝わってくるし、健全な批判精神も感じられる。ただ気になる点もあった。
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後半部分を見ていこう。
【日経の記事】
開始から6年近くがたち、イールドカーブ・コントロールは限界に近づきつつある。
米欧では中央銀行がインフレを抑え込もうと利上げを急ぎ、長期金利は上昇傾向を強める。日本でも国債が売られ、長期金利に上向きの圧力がかかる。
日銀は無制限に国債を買い入れ、目標の0.25%を死守しようと懸命だ。しかし、投機筋が絡んだ売りだけに、厳しい戦いを強いられる。長期金利は6月に一時0.25%を上回る場面もあった。
◎どちらの「限界」?
「イールドカーブ・コントロールは限界に近づきつつある」との認識は自分も同じだ。ただ「限界」は2つに分けて考える必要がある。能力的な「限界」と政治・社会的な「限界」だ。
能力的な「限界」はないと見ている。日銀の国債購入能力は無限だからだ。だからと言って「イールドカーブ・コントロール」を今後も続けられるとは限らない。政策的に好ましくないとの政治・社会的な圧力が強まれば修正を迫られる。この可能性は十分にある。
高橋部長がどちらの意味で「イールドカーブ・コントロールは限界に近づきつつある」と言っているのか、今回の記事ではよく分からなかった。「投機筋が絡んだ売りだけに、厳しい戦いを強いられる。長期金利は6月に一時0.25%を上回る場面もあった」との記述からは、能力的な「限界」もありと見ているとの解釈もできる。
もしその立場ならば「投機筋が絡んだ売り」を日銀が吸収できなくなる事態がどうやったら起きるのか描いてほしかった。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
副作用が深刻だ。日銀が保有する長期国債は6月下旬に発行残高の5割を超えた。政府が発行した国債の過半を日銀が買い取る異常事態だ。国の借金を日銀が刷ったお金で穴埋めしていると言われても仕方がない。
◎「日銀が刷ったお金」?
例えなので、あまりうるさく言う必要はないとは思うが「日銀が刷ったお金」という表現が引っかかった。「刷った」のは日銀ではなく国立印刷局だ。
一気に終盤を見ていく。
【日経の記事】
日本と米欧との金利差が開き、円安に歯止めがかからなくなる懸念もくすぶる。円安は輸入物価の上昇を通じて国内のインフレを後押しする。家計や中小企業の負担がさらに大きくなれば、岸田文雄首相の政権運営にも響く。
長期金利は将来の経済成長やインフレ率に関する市場参加者の予想を映すのが本来の姿だ。それをむりやり抑えこみ、市場機能を殺したツケは重い。
手品には必ずタネがある。投機筋はそこをつく。0.25%の上限をいつまで守り切れるのか。長期金利を操ろうとしてきた日銀は、追い詰められているようにみえる。
10日投開票の参院選後に、黒田日銀がどう動くかに注目したい。次の金融政策決定会合は7月20~21日である。
◎なぜ「米欧」限定?
インフレに伴う金利上昇は世界的な傾向だが「日本と米欧との金利差が開き、円安に歯止めがかからなくなる懸念もくすぶる」と高橋部長は「米欧との金利差」だけを問題視している。なぜなのか。
「手品には必ずタネがある」という例えもしっくり来ない。日銀が「長期金利」を抑え込めている理由が外部の人間には分からないのならば「手品」に例えるのも分かる。実際には、その理由を高橋部長も理解しているはずだ。
「10日投開票の参院選後に、黒田日銀がどう動くかに注目したい」と成り行き注目型の結論で済ませたのも残念。記事の内容としては日銀に政策変更を求めるのが自然。最後は「黒田日銀」への遠慮が働いたのか。
※今回取り上げた記事「Angle:長期金利は操れるのか~金融政策『手品』の限界」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220708&ng=DGKKZO62425010X00C22A7EP0000
※記事の評価はC(平均的)。高橋哲史部長への評価も暫定でCとする。
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