13日の日本経済新聞朝刊1面に江渕智弘記者が書いた「参院選勝利・岸田政権の宿題(2) 危うい先進国の座~成長源、雇用・規制改革に」という記事は説得力がなかった。中身を見ながら具体的に指摘したい。
道の駅 昆虫の里たびら |
【日経の記事】
日本が参院選さなかの6日、経済危機に陥ったアルゼンチンをめぐるパリクラブ(主要債権国会議)の会合が急きょ中止になった。返済猶予などの交渉を担ってきたグスマン経済相が2日に辞任を表明し、交渉の相手すらいなくなる混乱劇。国際金融市場でにわかに緊張感が高まった。
果たして、遠い南米の問題なのか。失われる競争力、下がる通貨、膨らむ債務、そしてインフレの影。根っこの課題は今の日本に重なり合う。「市場が債務問題に敏感になれば、日本も無縁でいられない」。通貨当局者の一人は言う。
◎脅しにはなっているが…
これだけ読むと日本もこのままだとアルゼンチンのような「債務問題」を抱えることになるように感じてしまう。アルゼンチンの場合は外貨建て債務の返済問題を抱えている。日本政府にも「膨らむ債務」はあるが、自国通貨建てでありアルゼンチンと重ねて見る必要はない。政府・日銀は無から限界なく日本円を創出できる。
さらに見ていこう。
【日経の記事】
やるべき一手は「人への投資」を通じた生産性の向上だ。日本生産性本部が経済協力開発機構(OECD)加盟国を対象に調べた就業者1人当たりの労働生産性をみると、日本は20年に28位に甘んじた。00年の20位から順位が落ちた。
反転に向けた宿題は山積みになっている。社会人のリスキリング(学び直し)、デジタルなど成長分野への労働移動、兼業・副業の促進。出し惜しみせず政策を総動員し、活力をもたらせるかが問われる。
◎「政策を総動員」する必要ある?
「デジタルなど成長分野への労働移動」のために「政策を総動員」する必要があるだろうか。「成長分野」で人手が足りないならば企業は高賃金を提示して労働者を確保しようとするはずだ。「政策」に頼らなくても「労働移動」は起きる。
市場原理に任せたままでは「労働移動」が進まないのか。例えば、市場規模は伸びているものの追加の人手を必要としていないという状況が「成長分野」にはあるのならば「労働移動」は起きないのが当然だ。
さらに見ていく。
【日経の記事】
呼応する形で、企業にこびりついた新卒一括採用や終身雇用などの旧弊も改めたらどうか。働き手のやる気と能力を重んじる会社が評価され、次の成長につなげる循環を描きたい。医療や介護に代表される岩盤規制も壊したらいい。
◎先ず隗より始めよ!
「岩盤規制も壊したらいい」と日経が求めるのならば、新聞の再販売価格維持制度も廃止でいいはずだ。この強固な「岩盤規制」の撤廃を社説で訴えてほしい。
さらに見ていく。
【日経の記事】
安倍晋三元首相の経済政策アベノミクスは雇用を増やし株価を上げた。参院選で勝利した岸田文雄政権の責務は、経済の地力を強める抜本策になる。
財政の拡張を唱える安倍氏の存在を前提に、全体のバランスをとるのが岸田政権の経済運営の基本だった。安倍氏がいなくなり、そのバランスは不安定になり、経済運営のかじ取りはむしろ難しさを増す。
◎なぜそうなる?
「財政の拡張を唱える安倍氏」がいなくなると「そのバランスは不安定になり、経済運営のかじ取りはむしろ難しさを増す」と江渕記者は言うが、よく分からない。積極財政派と財政再建派の「バランスをとるのが岸田政権の経済運営の基本」で、積極財政派が力を削がれたとすれば、財政再建派に軸足を置いて「かじ取り」をすればいい。
「膨らむ債務」を問題視する江渕記者から見ても、財政再建の好機と映るのではないか。
最後の段落にも注文を付けたい。
【日経の記事】
ノーベル賞経済学者クズネッツ氏は「世界には4種類の国がある。先進国、途上国、日本、アルゼンチンだ」という言葉を残した。途上国から先進国になった日本は特別な国。途上国に転落したアルゼンチンもまたまれだ。かつてアルゼンチンがたどったように、日本の先進国の座が危うくなってきた。
◎先進国の基準は?
「日本の先進国の座が危うくなってきた」と江渕記者は記事を締めているが「先進国」の基準を示していない。これだと、ほとんど意味がない。
色々と記事を読んでいると「ワクチン後進国」「デジタル後進国」といった表現も目にする。しかし具体的な基準も示さずに危機を煽っている場合が多い。本当に「日本の先進国の座が危うくなってきた」と江渕記者が思うのならば、その基準となるラインは示してほしかった。
※今回取り上げた記事「参院選勝利・岸田政権の宿題(2) 危うい先進国の座~成長源、雇用・規制改革に」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220713&ng=DGKKZO62557840T10C22A7MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。江渕智弘記者への評価も暫定でDとする。
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