経済評論家の藤巻健史氏が文藝春秋7月特別号で相変わらずの雑な主張を展開している。「インフレ地獄を覚悟せよ」というこの記事には矛盾する説明が目立つ。一部を見ていこう。
室見川 |
【文藝春秋の記事】
もし日銀が債務超過になったら(アメリカの金融機関とは)取引停止になるでしょう。外資銀行の審査部は「日本の国債はもう買ってはいけない」「日本銀行とはもう取引してはいけない」と判断して、日本から撤退すると思います。日銀と取引しないということは、あらゆる銀行業務から撤退することを意味します。つまり日本がドルを獲得する手段をも失うのです。
これは、経済制裁を受けたロシアの通貨ルーブルのように、世界の基軸通貨であるドルとのコネクションが断ち切られることを意味します。そうなると円の大暴落は避けられず、1ドル1兆円になってもおかしくない。つまり、日本にハイパーインフレが到来するのです。
◎ルーブルの動向は見てる?
「ロシアの通貨ルーブルのように、世界の基軸通貨であるドルとのコネクションが断ち切られる」→「円の大暴落は避けられず」→「ハイパーインフレが到来」という流れになると藤巻氏は言う。ならば「ロシア」はどうか。
「ルーブルは3月上旬に一時1ドル=160ルーブルの史上最安値を付けた後、上昇に転じた。足元では1ドル=80ルーブル前後とウクライナ侵攻前の水準を回復している」と4月23日付の日本経済新聞は伝えている。「米欧が強力な経済・金融制裁を実施する中で、ロシアの通貨ルーブルや株価が回復している」のはおかしな話だ。
「ルーブルの大暴落は避けられず」→「ロシアにハイパーインフレが到来」という流れにはなっていない。藤巻氏はルーブルの動きを見ていないのか。
さらに文藝春秋の記事を見ていこう。
【文藝春秋の記事】
インフレ、もしくはデフレは、モノやサービス、あるいはお金の需要と供給の関係で起こります。しかしハイパーインフレは中央銀行の財務の悪化で起こる。発生理由が違うのです。これまで見たように日銀の財務内容が著しく厳しく、インフレを抑える手段を失ってしまった以上、日本へハイパーインフレが到来するのは必至だと思います。
◎辻褄合ってる?
「ロシアの通貨ルーブルのように、世界の基軸通貨であるドルとのコネクションが断ち切られる」ことで「ハイパーインフレが到来」するのならば「ハイパーインフレは中央銀行の財務の悪化で起こる」とは言えない。
ルーブルが「ドルとのコネクションが断ち切られ」たのは「中央銀行の財務の悪化」が理由なのか。藤巻氏にも分かるはずだ。
今回の記事では「紙幣を大量に刷れば、お金の価値が下がり、ハイパーインフレが起きる可能性が高まる」とも書いている。これだと「お金の需要と供給の関係」が「ハイパーインフレ」の原因になってしまう。「ハイパーインフレは中央銀行の財務の悪化で起こる。発生理由が違う」という話と辻褄が合わない。
やはり藤巻氏は問題が多い。
※今回取り上げた記事「インフレ地獄を覚悟せよ」
※記事の評価はE(大いに問題あり)。藤巻健史氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
ハイパーインフレ回避の道はあえて無視? 藤巻健史氏の主張に無理がある週刊エコノミストの記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/04/blog-post_18.html
「中央銀行が信用を無くす最たるものは債務超過」と訴える藤巻健史氏の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/02/blog-post_8.html
週刊エコノミストでの「ハイパーインフレ」予測に無理がある藤巻健史氏https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/blog-post_29.html
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