医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏は新型コロナウイルスワクチンの推進派のようだ。しっかりした根拠に基づいて接種を推奨するのならば、それはそれでいい。しかし9日付の東洋経済オンラインに載った「ワクチン打つとコロナかかりやすい説が眉唾な訳~医学を身に付けた専門家の合理的な議論が必要だ」という記事には強引さを感じた。
筑後平野 |
「コロナ感染者を診断した医師が保健所に提出する『新型コロナウイルス感染症、発生届』のワクチン接種歴の欄に記入がない場合、本来、接種状況不明として処理すべきなのに、『未接種』として(厚生労働省が)扱っていた」問題に触れて上氏は以下のように述べている。
【東洋経済オンラインの記事】
今回、厚労省が提示したデータからは、医学的に有用な議論はできない。未接種者と2回接種者の比較可能性がないからだ。ワクチン接種者と非接種者は、そもそも背景が違う。このことは、複数の臨床研究で実証されている。
中略)以上の研究は、基礎疾患がある高所得層は、普段から健康に配慮するため、ワクチンを打つ傾向が強いことを示唆する。彼らは体調に変化を感じると、クリニックを受診し、検査を受ける頻度が多いだろう。この結果、ワクチン接種群で感染者数が高く評価される。これはワクチンが効かないことを意味しない。厚労省の発表は、このようなバイアスが影響していた可能性が否定できない。専門家同士の議論ならともかく、一般人に説明する際には、このあたり細心の注意を払わなければならない。
◎間違ってはいないが…
「今回、厚労省が提示したデータからは、医学的に有用な議論はできない」との説明に問題は感じない。ランダム化比較試験ではないのでエビデンスとしての信頼性に欠けるのは、その通りだ。
さらに見ていこう。
【東洋経済オンラインの記事】
問題は、これだけではない。オミクロン株が流行の主体となった現在、このような形で感染者数を比較することは、そもそも意味がない。なぜなら、オミクロン株は感染してもほとんどが無症状だからだ。全住民に対してPCR検査を実施した上海では、感染者の95%が無症状だったという。わが国での感染者数は、基本的に症状があり、医療機関を受診した人に限定される。診断されるのは、感染者の氷山の一角だ。こんな数字を比較して、ワクチン接種の効果を議論しても何も言えない。
◎ここも間違っていないが…
「こんな数字を比較して、ワクチン接種の効果を議論しても何も言えない」との主張も妥当ではある。「ワクチン打つとコロナかかりやすい説が眉唾」とも言える。ただ、ここまでの主張が正しいとしても「ワクチン」の有効性についても「何も言えない」はずだ。なのに話はおかしな方向へ進んでいく。
【東洋経済オンラインの記事】
厚労省の今回の発表から言えることは、2回接種終了から半年以上が経過した状況では、ワクチンの重症化予防効果はともかく、感染予防効果はほとんど期待できないということだ。コロナワクチンは、麻疹や天然痘に対するワクチンとは異なり、インフルエンザワクチンのように、効果は時間の経過とともに減弱することが、国内外の研究から明らかとなっている。インフルワクチンの効果の持続は約5カ月だ。今年4月の調査で、コロナワクチンの2回接種者で感染が多発していたとしてもおかしくはないだろう。
以上の事実から言えることは、追加接種の必要性だ。実は、ワクチン接種群に感染者が多いという観察結果は、イギリスなど海外でも報告されている。これは、観察研究が抱える構造的バイアスを反映しているのだろう。臨床研究の専門家にとって、このような問題の存在は常識だ。だからこそ、世界はワクチンの免疫が低下したことを踏まえて、3回目、4回目と追加接種を進めている。
◎無理のある結論
「厚労省の今回の発表から言えることは、2回接種終了から半年以上が経過した状況では、ワクチンの重症化予防効果はともかく、感染予防効果はほとんど期待できないということだ」と上氏は言う。そして「効果は時間の経過とともに減弱することが、国内外の研究から明らかとなっている」。この前提で考えよう。
まず「オミクロン株は感染してもほとんどが無症状」なので、ワクチンに「感染予防効果」があると言える状況でもワクチン接種が必要かどうか微妙だ。
また「ワクチン打つとコロナかかりやすい説が眉唾」だとしても「ワクチン打つとコロナかかりにくい説」に軍配が上がる訳ではない。「何も言えない」と見るべきだ。
つまり「追加接種」とは「感染予防」の必要性が乏しい状況で、効果があるか怪しいワクチンを打つという選択になる。
となると最後の砦は「重症化予防効果」だ。「感染してもほとんどが無症状」ならば「重症化予防」の必要性はかなり低い。記事では「重症化予防効果はともかく」と書いているだけで、どの程度の「重症化予防効果」があるのか述べていない。
なのになぜ「以上の事実から言えることは、追加接種の必要性だ」となるのか。「半年」以内なら高い「感染予防効果」があるのか。仮にあったとしても「感染してもほとんどが無症状」なのに、きつい副反応のリスクを引き受けてまでなぜ「追加接種」が「必要」なのか。
「重症化予防効果」についても少し考えてみよう。オミクロン株の重症化率は50代以下で0.03%だとしよう。「追加接種」するとこのリスクを3分の1に減らす“高い”効果があると仮定する。だとしたら50代以下でも接種すべきだろうか。
自分だったら0.03%も0.01%もほぼ同じと考える。しかも、これは新型コロナウイルス感染症と診断された人が分母だ。「診断されるのは、感染者の氷山の一角」と上氏も述べている。そこも踏まえると「重症化」リスクはさらにゼロに近づく。
なのに、なぜ「以上の事実から言えることは、追加接種の必要性だ」となってしまうのか。
記事を通して読むと、上氏はワクチンの効果のなさに気付いていると思える。しかし「追加接種」は必要ないという結論になってしまっては困る事情が何かがあるのだろう。そう考えるしかない無理のある立論だと感じた。
※今回取り上げた記事「ワクチン打つとコロナかかりやすい説が眉唾な訳~医学を身に付けた専門家の合理的な議論が必要だ」
https://toyokeizai.net/articles/-/595276
※記事の評価はD(問題あり)
0 件のコメント:
コメントを投稿