14日の日本経済新聞朝刊 経済教室面に弘前大学医学部准教授の松坂方士氏が書いた「私見卓見~日本のがん検診の問題点」という記事は注目に値する。まず最初の段落で驚かされた。
筑後平野 |
そこから見ていこう。
【日経の記事】
残念ながら、日本ではがん検診によるがん死亡率の低下は報告されていない。これに対して、欧州など諸外国では子宮頸(けい)がんと乳がんでがん検診によるがん死亡率の低下が報告されており、日本とは対照的だ。
◎がん死亡率低下の報告なし!
個人的には、がん検診は意味がなさそうだと見ている。総死亡率を下げる効果がないと聞くからだ。ただ「がん死亡率の低下」のエビデンスはあると思っていた。ところが松坂氏によると「日本ではがん検診によるがん死亡率の低下は報告されていない」らしい。
日本では、胃がん・肺がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がんに関して、がん検診を受けることを推奨しているはずだ。なのに「がん検診によるがん死亡率の低下」が確認できないのか。だとしたら怖い話だ。
「諸外国」のデータから効果ありと見ているのかもしれないが、それも「子宮頸がんと乳がんでがん検診によるがん死亡率の低下が報告されて」いるだけらしい。胃がん・肺がん・大腸がんはどんなエビデンスに基づいて推奨しているのだろう。
記事の残りの部分も見ておこう。
【日経の記事】
これは、日本では医療従事者やがん検診従事者のがん検診に関する専門知識が不足し、諸外国で検証されてきた「死亡率が低下する手法」(組織型検診)の重要性が理解されていないことが原因の一つとして挙げられる。医療従事者やがん検診従事者の専門知識の不足は一般市民への不十分な情報提供につながり、がん検診が信頼されない状況になっている。
日本では従来、受診率向上を強調するあまり、がん検診というシステムの理解を置き去りにしてきた。例えば、受診者は検診から利益を得る(がん死亡のリスク低下)だけでなく、不利益を被る可能性も避けられない。検診の結果、「要精密検査」となった人の約90%は検査してもがんは発見されない。精密検査は身体の負担が大きく、無駄な精密検査は不利益である。
「要精密検査」は外れが多くて信用できないと考える一般市民が多い一方、無症状でもがん検診ではなく精密検査を受けるように勧める医療従事者もいる。
厚生労働省は2021年度に「がん検診の利益・不利益等の適切な情報提供の方法の確立に資する研究班」を組織し、私も研究分担者として参加している。研究班が画期的なのは利益と不利益に関する情報提供を通してがん検診の知識普及に取り組んでいることだ。受診率の向上一辺倒ではない。
4月にホームページを開設し、一般向け情報提供動画と、医療従事者・がん検診従事者向けの専門書を公開した。世界保健機関(WHO)の出版物を翻訳したガイドブックは、スクリーニング(疾患疑い者の拾い上げ)に関して日本語で読めるほぼ唯一の専門書だ。
「成果が上がる手法」でがん検診を実施した諸外国はがん死亡率を低下させており、日本でもそれは可能だ。医療従事者・がん検診従事者が専門知識に基づいてがん検診を実施し、市民が不利益も理解して上手に受診することによりがん検診が「成果が上がる手法」で運用されることが期待される。
◎追加で期待したいのは…
「受診率の向上一辺倒ではない」姿勢は評価できる。受診によって「不利益を被る可能性」にもきちんと言及している。松坂氏には注目していきたい。
少し気になったのが総死亡率に触れていないことだ。「『成果が上がる手法』でがん検診を実施した諸外国はがん死亡率を低下させて」いるとしても、がんによる死亡以外も含めた総死亡率の低下が見られないのならば意味はない。
「『成果が上がる手法』でがん検診を実施」すると総死亡率も下がるのか。そこも広く国民に知らせる活動をしてほしい。
※今回取り上げた記事「私見卓見~日本のがん検診の問題点」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220614&ng=DGKKZO61657980T10C22A6KE8000
※記事の評価はB(優れている)
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