2022年5月2日月曜日

「核で抑止」日本はOKで北朝鮮はNG? 日経 芹川洋一論説フェローに問う

自らの主張を考える時には整合性の確保が大事だ。その意味で2日の日本経済新聞朝刊オピニオン1面に論説フェローの芹川洋一氏が書いた「核心~ウクライナ危機から学ぶ」という記事には引っかかる記述があった。そこを見ていこう。

三隈川(筑後川)

【日経の記事】

ウクライナでもわかったのは、同盟というかどうかは別にして、助け合う国が必要ということだ。2番目の学びである。北欧の国が北大西洋条約機構(NATO)加盟の動きを見せているのもロシア侵攻の副次的な結果だ。

そのうえでプーチン大統領の核の脅しで思い知ったのは、核兵器をもった国が周辺にある場合、核で抑止をきかせるしかないという現実だ


◎なのに北朝鮮を非難?

プーチン大統領の核の脅しで思い知ったのは、核兵器をもった国が周辺にある場合、核で抑止をきかせるしかないという現実だ」と芹川氏は言う。ならば「核兵器をもった国が周辺にある場合」の核保有は正当化されるはずだ。

例えば北朝鮮は中ソと国境を接しているし日韓には米軍基地がある。「核兵器をもった国」に取り囲まれているとも言える状況だ。「核で抑止をきかせるしかないという現実」に直面している。

なのに日経は4月18日付の「北朝鮮は『核』をもてあそぶな」という社説で「ICBMなどに積む戦略核に加え、韓国や日本、米領グアムを射程に入れ戦場での限定的な使用を想定した戦術核の開発は核の脅威を広げ、核不拡散体制の根幹も揺るがす。ロシアが戦術核兵器を使う可能性が危ぶまれるなか、それに乗じた蛮行は許されない」と訴えている。

核で抑止をきかせるしかないという現実」を北朝鮮は無視すべきなのか。理屈が合っていない。論説フェローという肩書を持つ芹川氏は社論の決定にも関与していると推測できる。

この社説は「プーチン大統領の核の脅し」を踏まえたものだ。なのに北朝鮮は「核で抑止をきかせるしかないという現実」に適応してはダメなのか。理屈が合っていない。

ついでに記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

日本は唯一の被爆国である。核廃絶をめざすのは当然だ。「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則を守りながらロシア、北朝鮮、中国にどう対峙していくかに知恵をしぼるしかない

要は有事の際の対応である。それを考えるとき、思いおこすべき国会答弁と、これを受けたやりとりがある。

▼民主党政権下の2010年3月17日、衆院外務委員会での岡田克也外相の答弁。

「核の一時的寄港を認めないと日本の安全が守れない事態が発生すれば、ときの政権が命運をかけて決断をし、国民に説明する」

▼自民党が政権復帰したあとの14年2月14日、衆院予算委員会での岡田氏と岸田文雄外相のやりとり。

岡田氏「(私の答弁は)非核三原則を守ることを原則にしつつ、緊急時において内閣の判断で例外を認めるという答弁だが、現政権もこの方針を引き継いでいるか」

岸田外相「安倍内閣としても引き継いでいる」

3月7日の参院予算委員会でも、岸田首相は自らの内閣でも継承すると言明した。

これは有事には「持ち込ませず」にこだわらない「非核2.5原則」といえる。岡田答弁で与野党合意ができているのなら、米国の核の傘が雨漏りしないのかどうかを点検、破れ傘でないのを見せることも抑止になる。核の傘の点検が3番目の学びだ。


◎「非核三原則を守りながら」?

有事には『持ち込ませず』にこだわらない『非核2.5原則』」で良しとするならば「非核三原則」は壊れる。なのになぜ「非核三原則を守りながらロシア、北朝鮮、中国にどう対峙していくかに知恵をしぼるしかない」となるのか。

非核三原則の一部を崩してでもロシア、北朝鮮、中国にどう対峙していくかに知恵をしぼるしかない」となぜ訴えないのか。

米国の核の傘が雨漏りしないのかどうかを点検、破れ傘でないのを見せることも抑止になる」という説明もよく分からない。「雨漏り」「破れ傘」とは具体的にどういう状態を指すのか。そこは明確にしてほしい。

ちなみに歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は文藝春秋5月号で以下のように記している。

『核の傘』も幻想です。使用すれば自国も核攻撃を受けるリスクのある核兵器は、原理的に他国のためには使えないからです。中国や北朝鮮に米国本土を核攻撃できる能力があれば、米国が自国の核を使って日本を守ることは絶対にあり得ません

これは納得できる。そもそも日本は「核の傘」など差していない。芹川氏はどう見る?


※今回取り上げた記事「核心~ウクライナ危機から学ぶ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220502&ng=DGKKZO60398360Y2A420C2TCS000


※記事の評価はD(問題あり)。芹川洋一氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。芹川氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

昔話の長さに芹川洋一論説フェローの限界が透ける日経「核心~令和臨調、3度目の挑戦」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/03/3.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_50.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_98.html

日経 芹川洋一論説委員長 「言論の自由」を尊重?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_51.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_15.html

日経の芹川洋一論説委員長は「裸の王様」? (2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_16.html

「株価連動政権」? 日経 芹川洋一論説委員長の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_31.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_12.html

日経 芹川洋一論説委員長 「災後」記事の苦しい中身(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_13.html

日経 芹川洋一論説主幹 「新聞礼讃」に見える驕り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_33.html

「若者ほど保守志向」と日経 芹川洋一論説主幹は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_39.html

ソ連参戦は「8月15日」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/815.html

日経1面の解説記事をいつまで芹川洋一論説主幹に…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_29.html

「回転ドアで政治家の質向上」? 日経 芹川洋一論説主幹に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_21.html

「改憲は急がば回れ」に根拠が乏しい日経 芹川洋一論説主幹
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_29.html

論説フェローになっても苦しい日経 芹川洋一氏の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_24.html

データ分析が苦手過ぎる日経 芹川洋一論説フェロー
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_77.html

「政権の求心力維持」が最重要? 日経 芹川洋一論説フェローに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_79.html

「野党侮れず」が強引な日経 芹川洋一 論説フェローの「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_18.html

「スペイン風邪」の話が生きてない日経 芹川洋一論説フェロー「核心」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_27.html

日経 芹川洋一論説フェローが森喜朗氏に甘いのは過去の「貸し借り」ゆえ?https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_11.html

日本の首相に任期あり? 菅首相は安倍政権ナンバー2? 日経 芹川洋一論説フェローに問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/09/2.html

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