16日付の東洋経済オンラインに東洋経済解説部コラムニストの野村明弘氏が書いた「『過剰な円安』で迫られるアベノミクスの後始末~『貧しい日本』という国難が現実化しつつある」という記事は苦しい内容だった。中身を見ながら具体的に指摘したい。
夕暮れ時の筑後川 |
まずグラフに問題がある。「名目実効為替レートの昨年12月以来の騰落率」とのタイトルを付けてブラジル、南アフリカ、中国、英国、米国、インド、ドイツ、フランス、日本を比べ「日本が独歩安の展開に」と説明している。
しかしドイツとフランスも日本ほどではないがマイナス。「為替相場で、単独の通貨のレートだけが下がること」(デジタル大辞泉)を「独歩安」と呼ぶのならば「日本が独歩安の展開に」はなっていない。
そもそも8カ国だけでは「独歩安」かどうか判断できないが…。
ここからは本文の問題点を見ていく。
【東洋経済オンラインの記事】
問題はシナリオ1のように、資源高による経常収支の悪化や金利差拡大が想定以上に継続した場合だ。
その際、日銀はいずれ利上げに追い込まれる。もしそうなれば、超低金利が永遠に続くかのように錯覚していびつな構造に陥った日本の経済や金融・財政が音を立てて崩れ落ちる可能性がある。
最悪の結末の話を急ぐ前に、そこへ至るまでにどんな経路や回避策があるのかについて見ていこう。
◎大きく出たが…
「超低金利が永遠に続くかのように錯覚していびつな構造に陥った日本の経済や金融・財政が音を立てて崩れ落ちる可能性がある」と野村氏は警鐘を鳴らす。「日本の経済や金融・財政が音を立てて崩れ落ちる」とはどんな状況を指すのだろうか。面白そうだが「最悪の結末の話を急ぐ前に」と話を逸らされたので、飛ばして「最悪の結末」に関する記述を見ていこう。
【東洋経済オンラインの記事】
ただし、先行きには大きな落とし穴もある。金利上昇のもたらす経済や金融財政へのショックだ。とりわけ、一段と急速な円安が現実化した場合、この最悪の事態が生じる可能性が高い。
ここでは10%や20%といった極端な金利上昇を考える必要はない。仮に金利が1~2%上がったとしても、ゼロ金利をベースに理論価格が形成されている資産(不動産や株式など)は、現在価値割引率の上昇を通じての市況悪化を免れないだろう。
金利と一緒に賃金も順調に上昇していれば影響は最小化できるが、賃金上昇が弱い場合は、資産価格下落の幅は大きくなる。
また事実上の無利子・無担保による中小・零細企業向けコロナ対策融資は40兆~50兆円規模まで膨張している。超低金利を前提に組まれた住宅ローンを含め、金利上昇がどの程度の不良債権リスクを顕在化させるのかは当の金融庁でも把握できていない。
◎どこが「最悪の事態」?
「最悪の事態」という割に大した話は出てこない。「不動産や株式」の「市況悪化」はありがちな事象だ。「賃金上昇が弱い場合は、資産価格下落の幅は大きくなる」としても、極端なケースを除けば「最悪の事態」とは言い難い。「不良債権リスク」に関しても、ある程度大きくなったからと言って「最悪の事態」と見るのは苦しい。
もっと見ていけば「最悪の結末」「最悪の事態」が何を指すのか分かるだろうか。関連がありそうなところを拾っていく。
【東洋経済オンラインの記事】
5月9日時点で日銀の当座預金は554兆円だ。今後、急速な円安進行など何らかの対応により、日銀が仮に当座預金への付利(短期金利)を1%引き上げると、年間利払いは約5.5兆円となり、たちまち債務超過となる(21年3月末の純資産は4.5兆円)。
◎日銀の「債務超過」で何が困る?
日銀の「債務超過」に触れているが、それがどう「最悪の事態」と結び付くのか論じていない。様々な議論があるが中央銀行の「債務超過」に大きな問題はないと個人的には見ている。野村氏は違う意見なのだろう。それはそれでいい。ただ、日銀の「債務超過」が「最悪の結末」「最悪の事態」と関連するのならば、そこはしっかり説明してほしい。
続きを見ていく。
【東洋経済オンラインの記事】
一方、世界最悪の公債残高を積み上げた国の財政はどうか。
財務省は金利が1%上昇すると、2年後の年利払いは3.7兆円増えると試算している。2%上昇なら7.5兆円の増加だ。現在、ウクライナ危機を受けて防衛費の倍増が与党で議論されているが、日本の防衛費は現在、ざっと年5兆円。何かと話題に上る生活保護費は同4兆円だ。
これらに匹敵する規模の利払いの追加が発生すれば、予算策定の混迷は必至だ。積極財政派は「インフレになったら歳出削減や増税で対応すればいい」と主張してきたが、現実に行われているのはそれとは正反対の対応だ。ガソリン高に対応した補助金や低所得者層への給付金などインフレ対応の経済対策の策定に政治は汲々としている。
◎やはり「最悪の事態」が見当たらない
「これらに匹敵する規模の利払いの追加が発生すれば、予算策定の混迷は必至」だとしても、それだけで「最悪の結末」「最悪の事態」と見なす気にはなれない。
そろそろ記事の終盤になってくる。最後まで一気に見ていく。
【東洋経済オンラインの記事】
岸田政権は7月の参議院議員選挙を前に補正予算策定を決めたが、インフレ傾向の経済の中で金利上昇下での国債増発という事態が広がる可能性がある。
「日銀による超低金利政策と財政赤字の垂れ流しは、欧米の低インフレ、低金利の状態が続く中では持続可能だった。それが反転したら危険なことになる」(大手証券会社エコノミスト)
コロナ禍やウクライナ危機を背景とした世界的インフレ、さらには異例のスピードでの米国の利上げは、リーマンショック後に起きた最大の構造変化だ。
円安をめぐる黒田緩和への評価の激変は、アベノミクスの終焉と総括を求めているといえる。
◎結局「最悪の結末」とは何?
最後まで読んでも「最悪の結末」「最悪の事態」が何を指すのか判然としない。推測しようにも手がかりは乏しい。
「大変なことになるかも」と訴えたくて大きく出たのだろうが、きちんと「最悪の結末」「最悪の事態」を描けないのならば、かえって逆効果だ。
※今回取り上げた記事「『過剰な円安』で迫られるアベノミクスの後始末~『貧しい日本』という国難が現実化しつつある」
https://toyokeizai.net/articles/-/588627
※記事の評価はD(問題あり)。野村明弘氏への評価もDを据え置く。野村氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
「現在世代の消費」に使うと「将来世代に残るのは借金だけ」と誤解した東洋経済の野村明弘氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/blog-post_17.html
アジア通貨危機は「98年」? 東洋経済 野村明弘記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/98.html
「プライマリーケア」巡る東洋経済 野村明弘氏の信用できない「甘言」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_28.html
0 件のコメント:
コメントを投稿