2022年9月28日水曜日

日経が朝刊1面に載せた「〈おわび〉本社報道、誤解を与える表現や誤り」に思うこと

注目すべき記事が28日の日本経済新聞朝刊1面に載っていた。見出しは「〈おわび〉本社報道、誤解を与える表現や誤り ~『ロシア石油 欧州へ裏流通』」。1面の記事の訂正でさえ1面に載せたがらない日経が、そこそこのスペースを割いて「誤解を与える表現や誤り」を「おわび」している。とりあえず好ましい変化だ。それを踏まえた上で、この件について考えてみたい。

宮島連絡船

そもそも8日の朝刊1面に載った「ロシア石油、欧州へ裏流通 船舶情報など日経分析~ギリシャ沖で移し替え1隻→41隻 制裁効果阻む恐れ」という記事に無理がある。「ロシア石油、欧州へ裏流通」と打ち出したものの、日経が「社内調査では、一連の記事の他の部分に誤りはなく」とした部分からも「裏流通」とは判断できない。

EUは来年2月までにロシア石油の海上輸入を止める」が「現時点で取引は違法ではない」と8日の記事でも書いている。言ってみれば「ロシア石油、欧州へ“表”流通」という話。しかも、その根拠を「英リフィニティブのデータ」に頼っている。これだけでは朝刊1面トップには弱いとの判断が働いたのだろう。それが「誤解を与える表現」へとつながったと考えると腑に落ちる。

8日の記事で日経が電子版から削除した部分は以下の通り。

【日経の記事(9月8日)】

8月24日、日経はギリシャ南部のラコシア湾で2隻のタンカーが横付けして石油を移し替える「瀬取り」の瞬間を写真に捉えた。1隻はギリシャ籍の「シーファルコン」で4日にロシア北西部の石油積み出し基地ウスチ・ルガ港を出港。もう1隻も4日にトルコの港を出たインド籍の「ジャグロック」だ。地域住民によるとロシアがウクライナに侵攻した2月24日以降、湾内に停泊するタンカーが急増したという。


◇   ◇   ◇


これに対して28日の朝刊社会面に載せた「編集幹部の認識・確認不十分 本社報道に誤解与える表現や誤り」という検証記事では以下のように説明している。

【日経の記事(9月28日)】

8月24日のタンカー2隻の取材は海上で行い、写真や映像を撮影しました。その後の分析で、1隻は石油基地があるロシアの港から現場海域に来たギリシャ籍タンカー、もう1隻はイラク発トルコ経由のインド籍タンカーと分かりました。

担当デスクはギリシャ沖で急増する石油取引の事例として記事で取り上げることを念頭に、積み荷の重さを示す「喫水」データの変化から、2隻の移し替えの状況を調べるよう取材班に指示。喫水の分析でこの取引はインド籍船からギリシャ籍船への移し替えで、ロシア産石油の取引だった可能性は低いと取材班の記者は判断し、デスクも共有しました

デスクは上司のグループ長と記事を巡る協議の際にこの情報にも言及しましたが、意思疎通が不十分で、グループ長はロシア産石油と誤認したままでした。一方、デスクは海上取引の一事例として記事に使うことを了承されたと受け止め、編集作業を進めました。他の編集幹部にも取材班の判断は伝わりませんでした。

一連の記事は、この2隻がロシア産石油を移し替えたとは記述していません。ただ、「ロシア石油」「裏流通」の見出しとともにタンカー2隻の写真や映像を掲載した記事は、2隻がロシア産石油を取引したという誤解を読者に与えました。

当社は今回の問題をインド籍船側の指摘で把握し、調査しました。デスクが編集幹部らとの十分な意思疎通を欠いたまま誤解を招く記事を作成したこと、編集幹部の認識や確認が明らかに不十分だったことなどを重く受け止め、再発防止を徹底します。


◎知っていたなら…

まず書いていないことに触れておこう。

8日の記事には末尾に「長尾里穂、朝田賢治、関優子」と担当記者の名前が出ており、タンカーの写真には「長尾里穂撮影」との説明が付いている。

この3人は記事をチェックする時に「誤解を与える」説明だと思わなかったのか。だとすれば記者としては致命的だ。

では「誤解を与える」と思っていたならどうだろう。「デスク」や「上司のグループ長」に「このまま記事を出すと誤解を与えてしまいます」とは訴えたのか。そこが気になる。

サラリーマンとして「デスク」や「上司のグループ長」に意見をしにくいのは分かる。しかし、ある程度の行動はしてほしい。自分だったら「このままではマズい」と訴えた上で、どうしてもそのまま行くと上が判断したら「せめて署名から自分の名前を外してほしい」とは求める。3人の記者はどう動いたのか。

デスク」が「誤解を与える表現」だと自覚していたのかどうかも引っかかる。そこは検証記事で明らかにしてほしかった。

推測はできる。

「誤解を与える説明になっているのは自覚していた。しかし『この2隻がロシア産石油を移し替えた』とは書いていない。指摘を受けたら、そう答えて逃げればいい。正直に書いたら事例として成立しないし、それだと1面トップの記事としては弱い。嘘にならない範囲で盛り上げて1面トップの記事に仕上げるのがデスクの仕事。自分はそれをしっかりやっただけだ」

こんなところだろう。サラリーマンとしては正しく実力を付けているとも言える。それが結果的に読者を欺く方向に動くのが悲しい。

再発防止策として何をしたらいいのだろう。

個人的には「1面(特に1面トップ)に記事を持っていくことが社内的なアピールになり評価につながる」という仕組みを改めるべきだと考える。

「1面に持っていける記事を出せ」「1面候補の記事を何とか1面トップ級に仕上げろ」

こうした圧力を現場にかけていくと記事は歪んでいく。

そのことを今回の件から学んでほしい。


※今回取り上げた記事

「〈おわび〉本社報道、誤解を与える表現や誤り ~『ロシア石油 欧州へ裏流通』」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220928&ng=DGKKZO64679060Y2A920C2MM8000

編集幹部の認識・確認不十分 本社報道に誤解与える表現や誤り」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220928&ng=DGKKZO64677360X20C22A9CT0000


※記事への評価は見送る

2 件のコメント:

  1. まさにサラリーマン以外の何物でもない。それも低級の。読者がどんどん離れていくわけだ。お金を払って読む価値がないので無料で読むことにしました。もう何年も無料です。因みに違法ではありませんよ。無料で提供してくれる方がいるからです。重ねて言いますが、違法ではありません。

    返信削除