2022年11月9日水曜日

週刊ダイヤモンド岡田悟記者に記事の書き方で7つの助言

週刊ダイヤモンド11月12・19日号に岡田悟記者が書いた「9000人リストラでも株価急落~クレディ・スイス“脱落”の衝撃」という記事は問題が多かった。岡田記者に助言を送る形で具体的に指摘していきたい。まずは株価に関する説明から当該部分を見ていく。

錦帯橋

【ダイヤモンドの記事】

とりわけ減収幅の大きい投資銀行部門を切り離しつつ、従業員は5万2000人から4万3000人と9000人削減する大リストラも行う。増資も行ってCET1と呼ばれる自己資本比率(銀行の自己資本のうち普通株式と内部留保)は14%に手厚くできるとの見通しを示したが、株式市場は全く評価しなかった。なぜか。

米ブルームバーグは日本時間の10月28日に配信した記事で、25年の有形自己資本比率を6%に引き上げるとの目標について、「ドイツ銀行の今年の目標を下回る」と指摘した。

ドイツ銀行も投資部門のリスク管理の甘さで損失を出し、リストラを強いられたが、足元では商業銀行部門が好調で業績が回復している。


◎助言その1~株価急落の理由をしっかり説明しよう!

今回の記事では「株価急落」の理由をきちんと説明できていない。記事からは「クレディ・スイス」の「25年の有形自己資本比率」目標が「ドイツ銀行の今年の目標」を上回るかどうかが注目されていて、それを下回ったから「株価急落」が起きたと読み取れる。ただ、常識的には考えにくい。

そこで「ブルームバーグ」の当該記事を見ると以下のように説明していた。

今後の増資に伴う株式の希薄化と2025年までの配当が『名目』にとどまる見通しを背景に、クレディSの株価は27日に19%急落して引けた。1日当たりの下落率として過去最大だった。アナリストらはクレディSが掲げた25年に有形自己資本利益率を6%に引き上げる目標についても失望を示し、シティグループのアンドルー・クームス氏はこの目標を『低い』と批判した。この数字はドイツ銀行の今年の目標を下回る

ここからは「今後の増資に伴う株式の希薄化と2025年までの配当が『名目』にとどまる見通しを背景に、クレディSの株価」は急落したと取れる。しかし岡田記者はそこに触れていない。

25年に有形自己資本利益率を6%に引き上げる目標」についても「アナリストら」が「失望」を示しているようなので下げ材料とはなったのだろうが「ドイツ銀行の今年の目標」との比較は「シティグループのアンドルー・クームス氏」が出したもので「株価急落」の主な要因とは考えにくい。

増資に伴う株式の希薄化」という容易に推測できる「株価急落」の理由を岡田記者はなぜ無視したのか。


◎助言その2~できれば同じ指標を使おう!

CET1と呼ばれる自己資本比率(銀行の自己資本のうち普通株式と内部留保)は14%に手厚くできるとの見通しを示した」と書いた後で「有形自己資本比率を6%に引き上げるとの目標」という話が出てくる。「CET1と呼ばれる自己資本比率」と「有形自己資本比率」がどう違うのかの説明もない。

25年の有形自己資本比率を6%に引き上げる」らしいので「CET1と呼ばれる自己資本比率」より数字が低くなりやすいのだろうが、その理由をきちんと説明できる人は週刊ダイヤモンドの読者でも稀だろう。

できれば同じ指標で話を進めるべきだし、「有形自己資本比率」を使う場合は一般的な「自己資本比率」とどう違うのか説明を入れてほしい。


◎助言その3~用語の説明は正確に!

CET1と呼ばれる自己資本比率(銀行の自己資本のうち普通株式と内部留保)」という説明は問題が多い。「銀行の自己資本のうち普通株式と内部留保」というのは「CET1と呼ばれる自己資本比率」の説明と取るしかないが、これだと「比率」の説明になっていない。分母が何かは入れたい(たぶんリスク資産)。

また「CET1と呼ばれる自己資本比率」と表記すると「CET1」は「比率」を指すと思ってしまうが実際は「自己資本」の構成項目。「CET1と呼ばれる自己資本(普通株式と内部留保)比率」ならまだ分かる。


◎助言その4~記事は簡潔に書こう!

従業員は5万2000人から4万3000人と9000人削減する大リストラも行う」という文は無駄が多い。「5万2000人から4万3000人」と書くなら「9000人」は要らない。また「行う」はできるだけ使わずに記事を書いてほしい。この直後にも「増資も行って」と記しているので諸々併せて改善例を示してみる。

【改善例】

とりわけ減収幅の大きい投資銀行部門を切り離しつつ、従業員は9000人減の4万3000人へと大幅削減する。増資もして、CET1と呼ばれる自己資本(普通株式と内部留保)のリスク資産に対する比率を14%にできる見通しを示したが、株式市場は全く評価しなかった


◎助言その5~具体的な数字を見せよう!

今回の記事では「クレディ・スイス」に関して「デフォルト懸念が高まると上昇するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率(スプレッド)が10月に入って、他の欧州系に比べて大きく上昇した」「もともと強固な財務基盤を有するのに反して、CDSのスプレッドが拡大し、株価は下落を続けた」と繰り返し「CDS」に触れている。なのに「CDSのスプレッド」の具体的な数値はない。グラフもない。これは辛い。


◎助言その5~「衝撃」を描こう!

見出しに「クレディ・スイス“脱落”の衝撃」を選んだのだから、どんな凄い「衝撃」があったかしっかり描くべきだ。なのに「衝撃」自体を描いていない。「投資銀行“冬の時代”にあって、クレディ・スイスがとうとう脱落したと言える。同じスイスのUBSが上半期で26億ドルの税引き前利益を稼ぎ出しているのと比べても厳しい」などと記しているだけだ。

脱落」に驚く関係者のコメントや「脱落」を受けて慌てる同業他社の動向など何か欲しい。


◎助言その6~独自性を出そう!

今回の記事には岡田記者が取材をした痕跡が見当たらない。他社の記事をかき集めれば書けるような内容だ。「株価急落」の背景説明も「ブルームバーグ」の記事に頼っている。

絶対に取材が必要とは言わないが、それができないなら新たな切り口はほしい。今回の記事には、そこも見当たらない。「ブルームバーグ」の記事が出た10日後に岡田記者の記事は読者に届く。だったら、それなりの付加価値を加えないと。

大した取材もせず独自性の乏しい解説を並べて「ここ数年のハイリスクな取引と経営陣の混乱が続くまま、年明けの大荒れの市場に突入し、大リストラを強いられたスイスの名門の難路は続きそうだ」という当り障りのない結論を導く。

それでいいのか。


◎助言その7~「同社」の使い方に注意!

最後に細かい話を1つ。「証券化ビジネスの売却先には日本のみずほフィナンシャルグループの名前も挙がったが、結局、アポロ・グローバル・マネジメントとパシフィック・インベストメント・マネジメントとなった。そして残りの投資銀行部門はかつて同社が~」と書くと「同社=パシフィック・インベストメント・マネジメント」に見える。ここは「かつてクレディ・スイスが」とすべきだ。


※今回取り上げた記事「9000人リストラでも株価急落~クレディ・スイス“脱落”の衝撃


※記事の評価はD(問題あり)。岡田悟記者への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。岡田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

週刊ダイヤモンドの特集「コンビニ地獄」は基本的に評価できるが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_29.html

週刊ダイヤモンドも誤解? ヤフー・ソニーの「おうちダイレクト」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_4.html

こっそり「正しい説明」に転じた週刊ダイヤモンド岡田悟記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_96.html

肝心のJフロントに取材なし? 週刊ダイヤモンド岡田悟記者の怠慢
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post.html

「人件費が粗利を圧迫」? 週刊ダイヤモンド岡田悟記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_25.html


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