2022年8月31日水曜日

週刊エコノミスト:「出生率向上のヒントはドイツに」が苦しい藤波匠氏の記事

週刊エコノミスト9月6日号に藤波匠氏(日本総合研究所上席研究員)が書いた「エコノミストリポート:出生率向上のヒントはドイツに~2030年が少子化対策リミット 日本が迎えるラストチャンス」という記事は興味深い内容だったが、結局は「カネをつぎ込んで少子化対策をやるしかない」的な提言になっているのが惜しい。

宮島連絡船

まずは現状分析のくだりを見ていこう。

【エコノミストの記事】

フランスやフィンランドなど、積極的な少子化対策によって合計特殊出生率(TFR)の押し上げに成功した欧州諸国で、近年、TFRの低下が目立っている。一方で、以前はTFRが低く、日本と同程度であったドイツなど欧州の一部の国で、TFRが上昇傾向を示している。この背景には何があるのか。欧州諸国のTFRの動向などから、日本の少子化対策について考えてみたい。

TFRとは15~49歳の女性の年齢別出生率の合計で、1人の女性がその期間に生む平均の子どもの数を示す。人口維持のためには、TFR2.07以上が必要とされている。図1は、OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中、36カ国の2010年から20年までのTFR変化率をまとめたものだ。10年のTFRが他の国々から乖離(かいり)しているイスラエル(TFR3.03)とTFR下落率が30%を超える韓国は除外している。

図1を見ると、10年にTFRの高かった国ほど高い下落率を示していることが分かる。例えば、子育て支援先進国として名高いフィンランドは、TFR1.87(10年)から1.37(20年)と著しく低下している。政策効果によって一時的にTFRを高めることができたとしても、その状況を持続することが容易ではないことがうかがえる

ドイツやハンガリーなど、10年にTFRが低かった国の一部には、その後上昇傾向がみられた国もあるが、全体としては、低下した国の方が多かった。その結果、イスラエルと韓国を除くOECD36カ国の平均TFRは、10年の1.72から20年には1.57に低下し、しかも多くの国が平均値近傍に収束する傾向がみられる。TFRが平均値±0.1の範囲に入る国の数は、10年は20カ国だったが、20年には26カ国へ増えている。


◎先進国的である限りは…

少子化対策を論じる人の多くはフランスをなど欧州先進国を手本にしたがる。しかし、そこに答えはないことを上記の分析は示唆している。

子育て支援先進国として名高いフィンランドは、TFR1.87(10年)から1.37(20年)と著しく低下している」のに「欧州を見習って先進的な子育て支援をやろう。そうすれば少子化も克服できる」などと訴える方がどうかしている。

政策効果によって一時的にTFRを高めることができたとしても、その状況を持続することが容易ではない」という分析は同意できる。「子育て支援」をするなとは言わないが、少子化対策と絡めるのはやめた方がいい。

結論としては(1)少子化克服を諦める(2)先進国的であることを諦めて少子化対策を進めるーーのどちらかだと感じる。

しかし藤波氏はそういう結論に辿り着かない。そこも見ておく。


【エコノミストの記事】

ドイツをはじめとする欧州諸国の状況を踏まえると、日本の少子化対策に示唆されることは、「少子化対策とは総合政策」との認識が重要なポイントだということだ。ドイツでは、政策面のみならず、経済環境の好転がTFR回復の起爆剤となった。30年までの少子化対策の好機に、社会政策と経済政策の両面において、全力で若い世代を支える発想が必要といえよう。


◎ドイツを見習う?

藤波氏も結局は「欧州を見習え」から脱却できていない。この記事ではドイツに頼っている。

90年代後半に移民容認政策にかじを切ったドイツでは、外国籍の親から生まれる子どもが増えている」「ドイツで12~16年にかけて出生数が増加したのは、少子化対策の効果によるものばかりとは言い難く~」と藤波氏自身が記事の中で認めている。

移民容認政策にかじを切った」効果が出た上に「経済環境の好転がTFR回復の起爆剤」となったドイツでさえ出生率は1.5程度。「人口維持のためには、TFR2.07以上が必要とされている」のに遠く及ばない。なのに欧州の“優等生”ドイツから学ぶべきなのか。

政策効果は時間とともに逓減することが懸念されるため、若い世代に対して、絶えず『よりよい未来を提示』する必要がある」とも藤波氏は言う。その結果として少子化を克服した国がそもそもあるのか。

個人的には、少子化は放置で良いと見ている。日本は人口が多すぎるし先進国的な部分を捨てることへの抵抗も大きいだろう。減るところまで減れば自然と人口は上向くのではないか。減り続けて日本列島から日本人が消えるとしても、人々の自由な選択の結果としてそうなるのであれば受け入れたい。

出産の中心的世代が大きく減ることのない今後10年程度は、本格的な少子化対策を講じるラストチャンスといえよう」と藤波氏は言うが同意できない。明治初期の人口は今の3分の1以下だった。そこから人口を急増させた実績もある。「チャンス」は20年後にも30年後にも100年後にもあるだろう。



※今回取り上げた記事「エコノミストリポート:出生率向上のヒントはドイツに~2030年が少子化対策リミット 日本が迎えるラストチャンス

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220906/se1/00m/020/041000c


※記事の評価はC(平均的)

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