2022年11月2日水曜日

雑な分析が残念な週刊ダイヤモンド「日本で技術革新起こすには政府がリスクを取れ」

週刊ダイヤモンド11月5日号に載った「日本で技術革新起こすには政府がリスクを取れ」という記事は残念な内容だった。筆者は日興リサーチセンター研究顧問・東京大学名誉教授の吉川洋氏、日興リサーチセンター理事長の山口廣秀氏、日興リサーチセンター理事長室前室長の井筒知也氏。勉強が得意な人たちなのだろうが、だからと言って説得力のある提言ができる訳ではないようだ。

錦帯橋

筆者らは「1人当たりのGDPの動きは人口減少とは関係ない。それを決めるのはイノベーションである」と言う。しかし、そう断言できる根拠は示していない。

IMF(国際通貨基金)の統計による1人当たりのGDPの推移を見ると、2000年には『失われた10年』を経た後であるにもかかわらず、日本はルクセンブルクに次いで世界第2位だった。しかし10年後には18位、さらにアベノミクス8年の後の21年には28位まで落ち込んだ。21世紀に入ってから過去20年、日本経済低迷の原因は、イノベーションの停滞に求められなければならない

ということは2000年までは世界トップレベルの「イノベーション」大国だったのに21世紀にはいると突然「イノベーション」を生み出せなくなったはずだ。しかし、そうした話は見当たらない。記事は以下のように続く。

この事実はスイスのIMD(国際経営開発研究所)の国際ランキングでも確認できる。企業の効率性では、1位デンマーク、6位台湾、7位香港、9位シンガポール、12位米国、21位ドイツなどと続くが、日本は、46位ギリシャ、50位ルーマニアの後塵を拝して、なんと51位である。日本企業の国際的評価は今や地に落ちたといっても過言ではない

イノベーション」創出力ランキングが21世紀に入って急低下したのならまだ分かる。しかしなぜか「企業の効率性」ランキング。しかも2000年との比較もない。これでは「日本経済低迷の原因は、イノベーションの停滞に求められなければならない」と言われても納得できない。

今回の記事の柱である「日本で技術革新起こすには政府がリスクを取れ」という主張にも説得力はない。「民間企業などのリスクテーキング能力が委縮している今日、日本では『最後のリスクテーカー』としての政府の役割が大きい。日本経済全体の『アーキテクト』である政府のリーダーシップが求められる」と筆者らは訴える。

2000年までは「イノベーション」が湧き出ていたのに21世紀に入ると突然枯渇したとの認識なら、なぜそうした急激な変化が起きたのかを分析する必要がある。しかし筆者らはそうは考えないようだ。

スタートアップ企業へのベンチャーキャピタル投資額だけ見ると、米国の1%にも満たない規模にとどまっている。中国と比べても5%程度である。『エコスシステム』の重要な一環を担うリスクマネーが、こんな状態ではイノベーションが進むはずもない

筆者らの言う通りだとしたら、2000年の段階では米国を上回る「スタートアップ企業へのベンチャーキャピタル投資額」が日本にあったはずだ。しかし、そうした話も出てこない。日本における「ベンチャーキャピタル」の存在感は元々小さい。それが「イノベーション」を生み出せない原因ならば、20世紀にも「イノベーション」は生まれなかったはずだ。

百歩譲って「スタートアップ企業へのベンチャーキャピタル投資額」を増やせば「イノベーション」も生まれてくるとしよう。だが、その役割を政府が「リスクテーカー」として果たすべきなのか。

海外の成功例などを示していれば多少は検討の余地も生まれる。しかし、これまた記事にそうした話はない。「日本では『最後のリスクテーカー』としての政府の役割が大きい」とは言うものの具体的にどう動くべきかも示していない。

分析が雑な上に主張にも説得力がない。今回の記事に関してはそう評価したい。


※今回取り上げた記事「日本で技術革新起こすには政府がリスクを取れ


※記事の評価はD(問題あり)

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