合理的に物事を考えるのは意外と難しい。日本経済新聞で朝刊1面コラム「春秋」の執筆を任されるほどの人物からば難なくやれそうだが、実際にはそうでもない。20日の「春秋」を読めばよく分かる。全文を見た上で問題点を指摘したい。
秋の大阪城 |
【日経の記事】
欧米では、海外では、としきりに向こうの事情を並べたあげく、どうもこちらは遅れているなあと嘆く――。こういう物言いを、昔は「ではのかみ」と揶揄(やゆ)したものだ。時代劇などに出てくる「出羽守」のもじりである。言葉はすたれたが、いまもお仲間は少なくない。
まかり間違えば、外国のよからぬ風俗にまで共感することになろう。そこでいささか気になるのは薬物である。さきの米大統領選に合わせた住民投票で、ニュージャージー、アリゾナ、サウスダコタ、モンタナの4州は嗜好品としての大麻の合法化を決めた。すでに11の州と首都ワシントンで解禁されており、流れは急だ。
カナダとウルグアイは国全体で合法化、ニュージーランドも国民投票で否決はしたが賛否は拮抗した。こんな情勢を眺めて「あちらでは」とのたまう向きがいるかもしれぬ。解禁の背景には、大麻が社会にまん延したため禁止は現実的でなくなったという実態がある。当局の管理下に置いて「産業化」する窮余の策なのだ。
日本のほうがはるかに健全なのだから、勘違いしてはなるまい。むしろ合法化した方面から「ニッポンでは」とうらやましがられていい。そういえば「出羽守」の同類に「引換券」がある。「それにひきかえ」とやたら比較する論法のことだ。「覚醒剤やコカインは怖い。それにひきかえ大麻は……」。その考えこそ怖い。
◎「大麻がダメ」の根拠は?
「欧米では、海外では」と持ち出して「海外」に合わせるべきだと訴えるのが必ずしも正しくないのはその通りだ。「海外では合法化の流れになっているから日本でも大麻を合法化しろ」との主張は確かに説得力に欠ける。しかし「だから大麻の合法化は避けるべき」との結論にはならない。
筆者が「大麻の合法化はダメ」と考えるのならば、その根拠を示すべきだ。しかし今回の記事では何の根拠も示していない。
例えば、酒やタバコには依存性があり健康にも害がある。なのに日本では合法だ。大麻についても依存性や健康被害などの要素を酒やタバコと比較して、合法化すべきかどうかを論じてほしい。
記事を読む限り、筆者には「大麻=良くないもの、合法化すべきでないもの」との前提があり、それを正当化するために話を作っているように見える。「結論ありき」は合理的に物事を考える上での大きな障壁だ。今回の記事には、その障壁を感じる。
「『覚醒剤やコカインは怖い。それにひきかえ大麻は……』。その考えこそ怖い」--。この「論法」が通用するのならば、色々な物を非合法化の対象にできる。「『覚醒剤やコカインは怖い。それにひきかえ酒は……』。その考えこそ怖い」。だから「酒」も非合法化すべきだとなる。「酒」をゲームやスイーツに置き換えてもいいだろう。
ついでに言うと「欧米では、海外では、としきりに向こうの事情を並べたあげく、どうもこちらは遅れているなあと嘆く」のは日経のお家芸でもある。社説でも「デジタル後進国」からの脱却を訴えていたはずだ。
人の振り見て我が振り直せ--。この言葉を改めて噛み締めてほしい。
※今回取り上げた記事「春秋」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201120&ng=DGKKZO66451420Q0A121C2MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
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