2020年10月7日水曜日

「イタリア改憲の真の狙い」が結局は謎な日経 大石格上級論説委員の「中外時評」

大石格 上級論説委員の書く記事は相変わらず問題が多い。7日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「中外時評~イタリア改憲の真の狙い」という記事では、説明がまともに成立していない。「改憲の真の狙い」に言及したと見られるくだりを見てみよう。

筑後川(大分県日田市 福岡県うきは市)
    ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

もうひとつ指摘しておきたいことがある。イタリアで定数削減が多数の支持を得たのはなぜかについてだ。

今回の憲法改正には前段がある。4年前も国民投票が実施され、そのときは否決されたのだ。上院の権限を大幅に縮小する改憲案だった。

主要国のなかでイタリアは日本と並んで首相交代が多いことで知られる。政治が不安定な最大の理由は、上下両院の選挙の仕組みや権限がほぼ同じで、ねじれ議会が起きやすいからだ。なんとか事態を打開しようと、事実上の一院制を目指したのだ。

このときは与党だった民主党のレンツィ首相が「否決されたら、首相を辞める」と公約した。改憲の是非よりも政権の信任投票の色彩が濃くなり、レンツィ氏の思惑に反する結果で終わった。

それでも、ねじれを起こさせないためにはどうすればよいのかという模索は続いた。国会での発議には至らなかったが、こんどは下院の権限を縮小する改憲案が検討されたりした。最終的には民意のずれを回避するため、18年に上下両院のダブル選挙を実施し、五つ星運動が両院とも第1党を占めた。

今年の改憲は、ねじれ解消に直接つながるわけではないが、何かと百家争鳴になり、ものごとが決まらない政治風土を抑制するという意味では16年国民投票の延長線上にあったわけだ。


◎結局、「多数の支持を得たのはなぜ」?

イタリアで定数削減が多数の支持を得たのはなぜか」と大石上級論説委員は問題提起している。記事を読んで「なぜか」を読み取れただろうか。

まず考えられるのが「ねじれ解消」を多くの国民が望んだからか。しかし「今年の改憲は、ねじれ解消に直接つながるわけではない」と大石上級論説委員自身が書いている。「定数削減」だけならば、間接的にも「ねじれ解消」にはつながらない。

仮に、間接的には「ねじれ解消」につながるとしよう。しかし「上院の権限を大幅に縮小する改憲案」は「4年前」に否決されている。前回は「ねじれ解消に直接つながる」ものだ。今回は「直接つながるわけではない」。なのに「定数削減が多数の支持を得た」のが「ねじれ解消」を多くの国民が望んだからと見るのは無理がある。

最終的には民意のずれを回避するため、18年に上下両院のダブル選挙を実施し、五つ星運動が両院とも第1党を占めた」とも大石上級論説委員は書いている。ならば「ねじれ解消」につながるのは「定数削減」ではなく「ダブル選挙」だ。

結局「イタリアで定数削減が多数の支持を得たのはなぜか」はよく分からない。しかし記事は以下のように続く。


【日経の記事】

ねじれが起きないためのダブル選挙というやり方は、16年にオーストラリアでも行われている

翻って日本はどうか。安倍前首相のもとで自民党が衆参両院選に6連勝したことで、安定期を迎えたが、いつまでも続く保証はない。定数削減と同時に「強すぎる参院」の権限縮小にも取り組まなければ、真の政治の安定は訪れないだろう


◎「ねじれ」を問題視するならば…

ねじれ」を防ぐために「イタリア」と「オーストラリア」が実行したのは「ダブル選挙」だ。「翻って日本はどうか」と言うならば衆参の「ダブル選挙」を制度化するように求めるのが自然な流れだ。しかし「定数削減と同時に『強すぎる参院』の権限縮小にも取り組まなければ、真の政治の安定は訪れないだろう」と結んでしまう。

定数削減」に「ねじれ」を防ぐ効果はない。「『強すぎる参院』の権限縮小」は「ねじれ」の弊害を低減できるだろうが、「ねじれ」そのものは防げない。「ダブル選挙」の有効性を紹介してきたのに、なぜ日本で「ダブル選挙」を制度化を求めないのか。

きちんと考えをまとめ切れていないまま記事を書いたのか。あるいは、きちんとまとめる能力に欠けるのか。やはり大石上級論説委員は書き手として問題ありだ。


※今回取り上げた記事「中外時評~イタリア改憲の真の狙い」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64660110W0A001C2TCR000/


※記事の評価はD(問題あり)。大石格上級論説委員への評価もDを維持する。大石上級論説委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html

「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html

具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html

自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html

米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_18.html

自衛隊の人手不足に関する分析が雑な日経 大石格編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_27.html

「給付金申請しない」宣言の底意が透ける日経 大石格編集委員「風見鶏」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/blog-post_74.html

0 件のコメント:

コメントを投稿