2020年3月2日月曜日

「長々」と続く昔話は行数稼ぎ? 日経 原田亮介論説委員長「核心」

特に訴えたいことはないが、順番が回ってきたので頑張って紙面を埋めてみた--。2日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~疫病が試す政治の強度」という記事を書いた原田亮介論説委員長はそんな気持ちだったのではないか。「1918~19年にパンデミック(感染爆発)を起こしたスペイン・インフルエンザ」について「長々と紹介した」ものの、その後に生きていないのは、このくだりが行数稼ぎだからだろう。
旧福岡県公会堂貴賓館(福岡市)※写真と本文は無関係

記事の流れを中心に全文を見ていこう。まずは最初の段落。

【日経の記事】

新型コロナウイルスの感染が拡大を続けている。震源地の中国は全国人民代表大会を延期し、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の感染対応を批判された日本政府は学校休止にかじを切った。疫病が政治を揺さぶるのは歴史の常だが、微温的だった日本と強権的な中国の対応はあまりに対照的だ



◎「対照的」な日中の対応を描く?

上記のくだりからは「新型コロナウイルス」に関して「微温的だった日本と強権的な中国の対応」の違いをメインテーマに据えたと読み取れる。それはそれでいい。そして「スペイン・インフルエンザ」に話が移っていく。


【日経の記事】

疫病が世界の歴史を変えた事例は1918~19年にパンデミック(感染爆発)を起こしたスペイン・インフルエンザがわかりやすい。諸説あるが当時の世界人口20億人弱のうち5億人が感染、4000万人が死亡したという。日本でも38万人が死亡した。詳細な記録をまとめる「史上最悪のインフルエンザ」(みすず書房刊)から一部を引こう。

まず名称だ。第1次世界大戦で多くの国が情報統制を敷くなか、スペインは中立国で感染拡大を公表したために、不名誉な名前を付けられた。

同書は「実際には18年3月に米国で出現した」という。膠着していた欧州戦線を打開するため、多くの感染者を含む米兵が大西洋を渡り、感染は一挙に欧州で拡大した。

輸送船は「外洋に出る前、すでに医務室のベッドはすべて埋まっていた。病人数は9月30日には700人だったが、航海を終える頃には2000人に膨れ上がっていた」。病のまん延は大戦の終結を早めたとも言われている。

もう一つ特記すべきは、ウィルソン米大統領がパリ講和会議のさなかに感染・発病したことである。大統領の精神的、体力的な衰えが、英仏などが主張する敗戦国ドイツへの懲罰的な賠償請求容認につながったと同書は紹介する。

100年前のことを長々と紹介した。それから感染症研究や公衆衛生学はめざましく進歩した。だが目に見えない新手のウイルスが感染を拡大したとき、まずやるべきは昔とそう変わらない。感染者を隔離し、拡大を防ぐことだ



◎何のために「長々と紹介」?

100年前のことを長々と紹介」するのがダメだとは言わない。それが記事に必須だと納得できれば問題ない。ただ、「まずやるべきは昔とそう変わらない。感染者を隔離し、拡大を防ぐことだ」といっ当たり前の話をするためならば、明らかに長すぎる。そもそも「100年前のことを長々と紹介」した中に「感染者を隔離」することの大切さを直接的に訴える事例も出てこない。

もう一つ特記すべきは、ウィルソン米大統領がパリ講和会議のさなかに感染・発病したことである」とも書いているので、これがその後の展開で生きてくるのかとも思わせる。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

今回、中国は最初に大きな失敗を犯した。2019年12月初めに武漢で患者が発生した後、勇気ある医師が告発したのに当局は隠蔽した。公に人から人への感染を認めたのは今年1月20日。この間、感染者の国境を越える移動を止めなかったためウイルスは世界に広がった。

日本政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のメンバーの尾身茂氏(地域医療機能推進機構理事長)は「原因不明でも感染症が疑われる事例があれば、国際保健規則は速やかに世界保健機関(WHO)に届け出ることを定めている。湖北省の幹部が知らないはずがない」という。

ただその後の対応は強権国家らしい大胆さである。人口1100万人の武漢市だけでなく湖北省も封鎖、団体の海外旅行禁止や工場の操業停止などを次々に打ち出した。マスクなしの外出をドローンで監視し「墨俣の一夜城」のように病院を次々に建てた。交通遮断の動きは浙江省温州市などにも広がり、個人の人権や企業活動の自由より感染拡大を力で押さえ込むのを優先する姿勢を鮮明にしている。

日本の対応はどうだったか。まず武漢在住の邦人帰国のため中国にチャーター便を送ることに力を注ぎ、韓国など他国に先駆けて実現した。

とはいえ習近平国家主席の訪日という政治日程を控え、日本政府には遠慮があったようにもみえる。湖北省と浙江省に滞在した外国人は入国禁止にしているが、中国の他地域からの訪日客受け入れは拒否していない。

クルーズ船への対応には海外を中心に批判が相次いでいる。乗員乗客3700人といえば感染症が広がる1つの街を封鎖するような話だが、そこまでの覚悟があっての横浜港への入港だったかどうか。

後講釈になるが、(1)全員の感染の有無を速やかに判定する検査の供給力(2)着岸後に船内の衛生環境を改善する態勢(3)外国人に正確な情報を提供し、出身国政府に帰国支援を求める努力――。どれもすぐには整わなかったのである。

もともと船は英国船籍で日本政府に国際法上の義務はない。ただ人道的に考えると、今回の対応以外の選択肢も考えにくい。多数の日本人乗客がいる船の着岸を拒否し、窓のない客室で精神的に追い詰められた乗客の下船もさせないというのは、中国ならできたかもしれない。



◎「スペイン・インフルエンザ」との関連は?

メインテーマと思われる「微温的だった日本と強権的な中国の対応」に上記のくだりで触れている。しかし「スペイン・インフルエンザ」の話とは絡めていない。「100年前のことを長々と紹介」したのは何のためなのか、この段階では不明だ。

さらに見ていこう。

【日経の記事】

英調査会社キャピタル・エコノミクスのニール・シアリング氏は「中国の第1四半期の成長率は年率で2桁のマイナスになる」と予想する。習近平体制にとって景気悪化は大きな痛手だ。

それでも早期に感染を終息させ「ウイルスとの戦いの勝利」を宣言できれば、政治基盤が揺らぐことはないだろう。むしろ専制国家の方が人権を重視する民主主義国より感染症には強いという評価が下されるかもしれない。

イベント自粛や小中高への休校要請という厳戒モードに転換した安倍政権はどうか。景気の腰折れを防ぎ、習主席の訪日と東京五輪・パラリンピックを予定通り行う――。パンデミックが迫ってみると、いずれの目標もかなり難しい。五輪は、日本国内が終息しても世界で感染が続けば参加国が制限され競技が成り立たない事態も予想される

感染はいつピークアウトするのか。「史上最悪のインフルエンザ」を訳した西村秀一氏(国立病院機構仙台医療センターのウイルスセンター長)はこう話す。「まだ誰にもわからない」。疫病を完全に制御するのは難しい。政治の強度を試すゆえんである


◎やはり行数稼ぎにしか…

これで記事は終わり。「『史上最悪のインフルエンザ』を訳した西村秀一氏」のコメントを使ってはいるが、「スペイン・インフルエンザ」の話は結局絡んでこない。やはり行数稼ぎのために「100年前のことを長々と紹介した」と見るしかない。

書いている内容も独自性に欠ける。「日本」が「微温的」で「中国」が「強権的」なのは原田論説委員長に教えてもらわなくても、ほとんどの読者が知っているだろう。そこでどんな独自の視点を提供するかが腕の見せ所だが、腕を見せる気があるのかどうかも疑わしい内容だ。

習近平体制にとって景気悪化は大きな痛手だ。それでも早期に感染を終息させ『ウイルスとの戦いの勝利』を宣言できれば、政治基盤が揺らぐことはないだろう」--。この辺りも「それはそうでしょうね」と言うしかない当たり前の予測だ。

日本」に関してはさらに酷い。「安倍政権はどうか」と問いかけて「五輪は、日本国内が終息しても世界で感染が続けば参加国が制限され競技が成り立たない事態も予想される」とまで書いているのに、それがどう政治に影響するのか自らの見方は示していない。何のための論説委員長なのか。

そして「疫病を完全に制御するのは難しい。政治の強度を試すゆえんである」と成り行き注目型の結論で締めてしまう。紙面は埋めたかもしれないが、論説委員長という肩書に値する内容とは言い難い。


※今回取り上げた記事「核心~疫病が試す政治の強度
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200302&ng=DGKKZO56194480Y0A220C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説委員長への評価はDを維持する。原田論説委員長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_77.html

財政再建へ具体論語らぬ日経 原田亮介論説委員長「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_33.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~復活する呪術的経済」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_20.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~メガは哺乳類になれるか」の説明下手
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post.html

中国「中進国の罠」への「処方箋」が苦しい日経 原田亮介論説委員長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_57.html

「中台のハイテク分断に現実味」が苦しい日経 原田亮介論説委員長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_29.html

0 件のコメント:

コメントを投稿