2020年2月5日水曜日

配当利回りと預金金利の比較が罪深い深野康彦ファイナンシャルリサーチ代表

配当利回りと預金金利を比べて株式投資に誘い込む記事は珍しくない。比較してはいけないものを比較しており、参考にしてはダメだ。週刊エコノミスト2月11日号にファイナンシャルリサーチ代表の深野康彦氏が書いた「配当を楽しむ~優待と併せて高利回り狙え 長期保有優遇も賢く利用」という記事もその1つ。
シップスガーデン(福岡市)※写真と本文は無関係です

記事の前半を見ていこう。

【エコノミストの記事】

国内外に経済の不透明要因が山積している中、2020年は、持ち続けることで得られるインカムゲイン狙いに徹した、大負けしない堅実な投資を心がけるべきだと考える。幸いにしてインカムゲイン狙いの投資には追い風が吹いている。企業は株主への利益還元を年々増やす傾向にあり、今期の配当金総額は過去最高を更新すると予測されている。自社株買いもしかりで、「株主還元」に着目した投資は時代にマッチしているとも言えそうだ。

個人投資家にとってわかりやすい株主還元は、配当金と株主優待だろう。超低金利になって久しく、さらなる長期化も予想されているが、東証1部上場銘柄の有配会社平均配当利回りは1・93%(19年12月)もある。長期金利は0%近辺、メガバンクの1年定期預金の金利が0・01%であることを考えれば、かなりの高利回りといえるだろう。一例を挙げると、みずほ銀行の1年定期預金は0・01%だが、親会社であるみずほフィナンシャルグループの配当利回りは4・50%程度と、預金金利の450倍もある

預金は元本保証で株式は元本保証ではないが、仮に配当金が変わらなければ、23年間保有し続けることで配当金で投資元本を回収。24年目以降は定期預金の収益を上回り、かつ保有期間が長くなるほどその差は大きくなることだろう。四半世紀も保有し続ければ、売却益を狙うチャンスもあるだろうから、試算より短い期間で元本回収と高収益をもたらしてくれるのではないか。定期預金の金利が上昇することもありうるだろうが、過去にメガバンクの金利が1・0%を超えていたのは1995年までさかのぼる必要がある。単純に四半世紀保有するとすれば、どちらに投資したほうが賢いのかは言わずもがなであろう


◎本質的に別物なのに…

みずほ銀行の1年定期預金は0・01%だが、親会社であるみずほフィナンシャルグループの配当利回りは4・50%程度と、預金金利の450倍もある」と言われると「なるほど。株を買う方が得だな」と思う投資初心者もいるだろう。

預金は元本保証で株式は元本保証ではない」と深野氏も断っており、これはその通りだ。だが、問題はそこではない。「配当金」を受け取ると、その分は株式の価値が減るのでプラスマイナスはゼロだということだ。「配当金」を大幅に増やせば、配当の支払い後に株価は大幅に下がる(他の要因では株価が動かないと仮定)。

預金金利」は増えれば増えるほど預金者の利益になる。そこが「配当金」との決定的な違いだ。市場心理的な面を無視すれば、配当に着目して投資戦略を考える意味はない。キャピタルゲインと「インカムゲイン」を分けて投資判断するのは非合理的だ。必ずトータルでリターンを見てほしい。

単純に四半世紀保有するとすれば、どちらに投資したほうが賢いのかは言わずもがなであろう」と深野氏は語りかけてくるが「言わずもがな」とは思えない。「配当金が変わらなければ」という前提付きの試算だ。その前提でも「投資元本を回収」するのに「23年間」もかかる。この比較だけでは何とも言えない。

この手の比較をするならば「預金金利」と社債利回りの方が好ましい。例えば、日本を代表する優良企業であるトヨタ自動車の社債利回りが「4・50%程度」ならば信用リスクを勘案しても魅力的だと思えるが…。


※今回取り上げた記事「配当を楽しむ~優待と併せて高利回り狙え 長期保有優遇も賢く利用
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200211/se1/00m/020/051000c


※記事の評価はD(問題あり)。深野康彦氏への評価も暫定でDとする。

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