2020年1月29日水曜日

野菜の栽培装置が「ディスラプション」を起こすと訴える日経の無理筋

ディスラプション」をテーマに連載するのは避けた方がいいと繰り返し指摘してきた。しかし日本経済新聞の朝刊ディスラプション面で連載が終わる気配はない。29日の「Disrupution 断絶の先に 第10部 地球に生き続ける(4)畑は店内 レタスは捨てない」という記事も苦しい内容だった。
博多リバレインモール(福岡市)
     ※写真と本文は無関係です

ディスラプション(創造的破壊)」が感じられるかどうか最初の事例を見ていこう。

【日経の記事】

私たちの健康な暮らしに欠かせない食事。2050年、世界の人口が98億人まで増えたとき、地球は必要な食料を供給できるのだろうか。世界で生産される年40億トンの食べ物のうち3分の1が食卓に届く前に失われている。作りすぎたり腐らせたりしているムダをなくし、いつか到来する「地球の限界」を超えていかなければならない。ディスラプション(創造的破壊)を起こして、課題を解決しようとするスタートアップなどが、新たな食の循環型社会を切り開こうとしている

ドイツ・ベルリンのスーパー、エデカには、来店客に人気の一風変わった売り場がある。緑鮮やかなレタスやイタリアンバジルが並ぶ「畑」だ。

売り場の後ろに控える約2メートル四方の冷蔵ケースの中には、人工の光で照らされた野菜が青々と実る。時折、スタッフがやってきて、食べごろのみずみずしい野菜を選んで、てきぱきと売り場に並べていく。

この野菜の栽培装置は、2013年創業の独スタートアップ、インファームが開発した。遠い他国や地方の畑から、店に届くまでに傷んでしまう野菜をどうしたら少なくできるのか。インファームが見いだした答えは「店の中に畑を持ち込む」ことだった。都市近郊の拠点で苗まで育てておき、後は店内の専用ケースの中で育て「完成品」とする。離れていた畑と店が近づけば、輸送コストや廃棄ロスは減る。燃料から生じる二酸化炭素(CO2)も減らせる。一石二鳥だ

インファームの「畑」は600を超える。スーパーだけでなく、レストランにも広がり始めた。英仏など欧州6カ国に続き、2019年には米国にも進出し、小売り大手クローガーと組んだ。日本でも参入の準備を進めている。


◎小さな改善かもしれないが…

やはり「ディスラプション(創造的破壊)」と呼ぶには事例が弱い。「野菜の栽培装置」が普及して、いずれは世界の畑のほとんどが不要になると言えるのならば「ディスラプション」でいい。しかし、そういう話は出てこない。

一部の作物を「店内の専用ケースの中で育て『完成品』とする」のは「廃棄ロス」を減らす1つの方法だろう。だが、問題を一気に解決できるインパクトはない。それらの積み重ねが世界を変えていく面はあるとしても「ディスラプション」ではない。変化は連続的で緩やかなものになるはずだ。

「小さな積み重ねが世界を変える」などと訴えれば説得力があるのに「ディスラプション(創造的破壊)を起こして、課題を解決しようとするスタートアップなどが、新たな食の循環型社会を切り開こうとしている」と大きく構えるから苦しくなる。この連載の宿命だ。

野菜の栽培装置」に関する説明には他にも問題を感じた。

輸送コストや廃棄ロスは減る」と書いているが、「ドイツ・ベルリンのスーパー、エデカ」でどの程度の効果があったのか触れていない。なぜ肝心のデータを見せないのか。分からないのならば、そこは正直に記してほしい。

遠い他国や地方の畑から、店に届くまでに傷んでしまう野菜をどうしたら少なくできるのか」とも書いているが、傷みやすい「レタス」などを「遠い他国」から持ってくる量は限定的だろう。であれば「野菜の栽培装置」で減らせる「輸送コスト」が大きいとは思えない。

しかも「都市近郊の拠点で苗まで育て」るので「店の中」では完結しない。結局は「輸送コスト」が残ってしまう。「野菜の栽培装置」を買う必要があるし、「店内の専用ケースの中で育て『完成品』とする」過程では電気代もかかりそうだ。

最も近いところから仕入れる方が安く付くケースも多いだろう。そういう面にも記事では触れていない。

燃料から生じる二酸化炭素(CO2)も減らせる。一石二鳥だ」とも言い切っているが、「売り場の後ろに控える約2メートル四方の冷蔵ケースの中には、人工の光で照らされた野菜が青々と実る」との説明から判断すると、かなりの電力消費になりそうだ。そこを考慮せずに「一石二鳥だ」と評価して良いのか。

他の事例にも問題を感じたが、長くなるのでやめておく。最初の事例だけでも、この記事の苦しさは明らかだ。


※今回取り上げた記事「Disrupution 断絶の先に 第10部 地球に生き続ける(4)畑は店内 レタスは捨てない
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200129&ng=DGKKZO54809540U0A120C2TL1000


※記事の評価はD(問題あり)。潟山美穂記者、渋谷江里子記者、白石透冴記者への評価も暫定でDとする。

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