西鉄甘木線の大城駅(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
【日経の社説】
問題は処方箋である。主要国では有効な解決策を示せない既存の政治に見切りをつけ、安易なポピュリズム(大衆迎合主義)になびく国民が増えている。憂慮すべき事態といわざるを得ない。
とりわけ深刻なのが米国だ。20日で就任から3年となる共和党のトランプ大統領は、不公正な貿易や大量の移民流入こそが庶民の生活を圧迫していると訴え続けてきた。そんな指導者に喝采を送り、11月の大統領選での再選を望む支持者が少なからずいる。
民主党の大統領候補選びでは、中道派のジョー・バイデン前副大統領が先頭を走るが、左派のバーニー・サンダース上院議員やエリザベス・ウォーレン上院議員と接戦を演じる。富裕層や大企業に大幅な増税を求め、庶民のための国民皆保険や公立大学無償化の財源に回すという、左派の公約が多くの支持を得ている証拠だ。
共和党は貿易や移民をやり玉に挙げる排外的な右派のポピュリズムに覆われつつある。民主党は強者を敵視し、弱者にばらまく左派のポピュリズムに侵食され始めた。これでは世界を主導する超大国の先行きが思いやられる。
欧州では右派のポピュリズム、中南米では左派のポピュリズムがはびこる。その形は様々だが、格差に苦しむ庶民の不満に起因しているのは米国と同じだろう。
特定のスケープゴート(いけにえ)をたたき続ければ、確かに庶民の留飲は下がるかもしれない。だがグローバル化やデジタル化の現実を直視せず、排外主義やばらまきに頼ることが、根本的な問題の解決になるとは思えない。
トランプ氏の保護貿易や移民制限はヒト、モノ、カネを呼び込む米国の磁力を弱め、中長期的な成長の基盤を損なっている。少子高齢化の進展や生産性の停滞に悩む欧州も、貿易や移民に背を向けて活力を保つことはできない。
サンダース氏やウォーレン氏が唱える国民皆保険なども、巨額の財源を要する非現実的な公約だ。これを富裕層や大企業への大増税で賄えば、経済全体を失速させる恐れがある。欧州ではいったん導入した富裕税を撤回した国が少なくない。資本逃避などの弊害も無視できないからである。
必要なのはもっとバランスのとれた政策だ。グローバル化やデジタル化の恩恵を存分に引き出し、経済全体のパイを拡大するとともに、適切な所得再分配や安全網の拡充、労働・教育制度の改革などを通じて庶民の生活も底上げする。政府が地に足の着いた施策を確実に実現し、包摂的な経済や社会をつくる努力を続けたい。
米経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルは「株主第一主義」を見直し、労働者や地域社会の利益を従来以上に尊重する方針を示した。企業がこれを実行に移し、庶民がポピュリズムに傾くのを抑える必要もあるのではないか。
米経済学者のブランコ・ミラノビッチ氏は最近の論文で、より公平な「民衆の資本主義」への進化が問われると訴えた。チャーチルが説いた資本主義の欠点を克服できるかどうかは、今後も世界の主要課題であり続ける。
◎相変わらず抽象的で…
「必要なのはもっとバランスのとれた政策」と訴えているが、具体的にどうすればいいのかは不明。「グローバル化やデジタル化の恩恵を存分に引き出し、経済全体のパイを拡大するとともに、適切な所得再分配や安全網の拡充、労働・教育制度の改革などを通じて庶民の生活も底上げする」ことに異論はないが、そのためにどんな「政策」を打ち出すべきか社説からは見えてこない。
「グローバル化やデジタル化の恩恵を存分に引き出し、経済全体のパイを拡大する」ことに米国は成功しているように見える。少なくとも日本よりは上だろう。それでも「安易なポピュリズム(大衆迎合主義)になびく国民が増えている」のならば、さらに「経済全体のパイを拡大」しても問題は解決しない気がする。
「適切な所得再分配や安全網の拡充、労働・教育制度の改革などを通じて庶民の生活も底上げする」という話も抽象的だ。「適切な所得再分配や安全網の拡充」とは具体的にどういうものなのか。
「富裕層や大企業に大幅な増税を求め、庶民のための国民皆保険や公立大学無償化の財源に回すという、左派の公約」が「巨額の財源を要する非現実的」なものだと言うならば、「適切な所得再分配や安全網の拡充」のための「政策」とはどんなものなのか日経自身が「処方箋」を示すべきだ。
「政府が地に足の着いた施策を確実に実現し、包摂的な経済や社会をつくる努力を続けたい」といった漠然とした主張を展開するだけならば、紙面を大きく割いて社説を載せる意義はない。
※今回取り上げた社説「格差是正の政策を誤っていないか」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200120&ng=DGKKZO54579670Z10C20A1PE8000
※社説の評価はD(問題あり)
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