2019年5月31日金曜日

東大「ネコ文二」に関する経済学者 松井彰彦氏の解説に異議あり

 経済学者の松井彰彦氏は賢い人なのだろう。しかし、30日の日本経済新聞夕刊1面に載った「あすへの話題~ネコ文二」という記事はツッコミどころが多かった。関わりの深い東京大学への思いが強すぎて、冷静な判断ができなくなったのか。記事の全文を見た上で疑問点を列挙してみたい。
豊後森機関庫駅(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

「業界用語」はその業界の栄枯盛衰を映し出す。東大の学内用語もご多分に漏れない。廃れてしまった用語の一つに「ネコ文二」がある。ネコとは動物の猫のことである。

東京大学は文科一類~三類、理科一類~三類という6コースに分かれて入試を行う。新入生は全員教養学部に所属し、2年次の進学選択制度(旧進学振分(ふりわ)け制度)を通じて、成績と志望に応じて専門の学部学科に進学する。よい成績を取らないと志望する学部・学科に進学できない理科一類(理一)の学生などは一生懸命勉強する。

ところが以前、文科二類(文二)からは単位さえ取れば成績が悪くても経済学部に進学できた。「ネコ文二」はこの状況を描写したものだ。科類等を勉強する順に並べると、文二は猫より劣るという意味である。

それが平成20年の全科類枠の導入を境にすっぱり変わった。全科類枠はどの科類からでも進学できる枠のことで、経済学部の場合、定員340人のうち、2割弱の60人が全科類枠として設定されている。勉強しない下2割の文二生は事実上経済学部に進学できなくなった

上位8割に入ればよいならそれほど難しくない。みんな少し勉強するようになる。しかし、そうすると、上位8割のラインは上がる。だからもう少し勉強する。これを繰り返すことで、みんなかなり勉強するようになったのだ。怠け癖をつける暇もない今の経済学徒は昔よりずっと勉強熱心だ

大学生が勉強しないと言って嘆く識者がいるが、制度を批判して人を批判せず。制度が変われば人は変わる。こうして、文二生はネコを超えたのである。

◇   ◇   ◇

◆疑問その1~「下2割」は「勉強しない」?

まず「勉強しない下2割」という決め付けが引っかかった。制度変更前の「下2割」が「勉強しない」人たちだったと断定して大丈夫なのか。記事では「勉強しない」かどうかの基準も示していない。一生懸命「勉強」したのに「下2割」になる人がいても不思議ではない。「そういう学生は1人もいない」と断定できる根拠を松井氏は持っているのか。


◆疑問その2~「下2割」はそんなに悲惨?

この制度変更で「みんなかなり勉強するようになった」らしいが、そんなに「経済学部」のステータスは高いのか。あるいは「下2割」が行く学部は圧倒的に格下なのか。
震動の滝(大分県九重町)※写真と本文は無関係

東大の事情に詳しくないので「違う」とは言わない。ただ、松井氏も「下2割」がどの学部に行くのか書いていない。個人的には文系学部の中で「経済学部」が凄いというイメージはない。「どの学部も同じ東大で大きな差はない」という印象だ。

自分が東大生になったらと想像すると「どこの学部に割り振られようと同じ東大なんだから、勉強はそこそこに大学生活を楽しもう」と考えそうな気がする。「そんな学生は実際にはいない」と松井氏が考えるのならば、その辺りの事情を東大関係者以外にも分かるように解説してほしかった。

例えば「下2割が行くA学部やB学部だと大手商社や外資系金融機関といった人気企業への就職はまず無理」などと書いてあれば、筋は通る。


◆疑問その3~「怠け癖をつける暇もない」?

2年次の進学選択制度」に手を加えたことで「みんなかなり勉強するようになった」と松井氏は解説している。だとしたら「経済学部に進学」した後は「下2割」に入らないために「勉強する」必要がなくなる。

怠け癖をつける暇もない今の経済学徒は昔よりずっと勉強熱心だ」というのは事実かもしれないが、学部が決まってからも「怠け癖をつける暇もない」理由は謎だ。そこの説明は欲しい。


◆疑問その4~もっと簡単な話では?

個人的には、東大生に「勉強熱心」になってほしいとは思わない。だが、取りあえず「勉強熱心」な方が好ましいとしよう。だったら話は簡単だ。単位の取得を難しくすればいい。「まじめに勉強しないと卒業できない」となれば、東大卒という経歴を手に入れたい学生は必ず「勉強熱心」になるはずだ。

進学選択制度」を使うやり方だと、学部が決まってからやる気をなくすのを防げない。希望と異なる学部に行く「下2割」はその度合いがさらに大きいだろう。

制度が変われば人は変わる」のはその通りだ。しかし「平成20年の全科類枠の導入」は松井氏が言うほど素晴らしいものではない気がする。


※今回取り上げた記事「あすへの話題~ネコ文二
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190530&ng=DGKKZO45157290T20C19A5MM0000


※記事の評価はC(平均的)。松井彰彦氏への評価も暫定でCとする。

2019年5月30日木曜日

「マイナス利回り」の説明に誤り 日経「長期金利、世界で急低下」

マイナス利回りとは、例えば額面100円の国債を101円で買うことを指す」という説明は正しいと言えるだろうか。個人的には違うと思うが、日本経済新聞ではそう解説していた。このケースでは「満期まで保有すると確実に損する」らしい。しかし、損するかどうかは表面利率次第だ。
長崎鼻にある 見えないベンチ(オノ・ヨーコ)
(大分県豊後高田市)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。


【日経への問い合わせ】

30日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「長期金利、世界で急低下 日本も2カ月ぶり水準~マイナス金利国債残高が最高 貿易摩擦で景気悪化懸念」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

マイナス利回りとは、例えば額面100円の国債を101円で買うことを指す。満期まで保有すると確実に損するが、途中で102円で買いたい相手が出てくると見込めば、マイナス利回りでも取引は成立する

この説明を信じれば「額面100円の国債を101円で買う」と「マイナス利回り」になるはずです。しかし、そうとは言えません。利率が絡んでくるからです。表面利率1%、残存期間5年、投資金額101万円の場合で考えてみましょう。

得られる利子収入は5万円ですが、償還時に1万円の損失が発生します。差し引き4万円の利益が得られます。年間では8000円です。利回りは1%に届きませんが、当然にプラスです。「マイナス利回り」にはなりません。「満期まで保有」しても「」は出ません。

記事の説明では表面利率を無視して「利回り」を考えていませんか。「マイナス利回りとは、例えば額面100円の国債を101円で買うことを指す」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、記事で他に気になった点を記しておきます。

今回の記事のテーマは「長期金利、世界で急低下」です。しかし記事を読んでも「世界で急低下」しているかどうか、よく分かりません。

国内の債券市場では29日、長期金利がマイナス0.100%と2カ月ぶりの水準に低下した。金融機関が日銀に預ける当座預金の一部に課されるマイナス0.1%の金利水準と並んだ。米国の長期金利も28日に一時、米政策金利(2.25~2.50%)下限を下回った」といった記述はありますが、どの程度の「低下」なのかには触れていません。

また、いつと比べて「急低下」なのかも不明です。「23日時点の『マイナス利回り国債』の発行残高はこの半年間でほぼ倍増した」と書いているので「急低下」に関しても「この半年間」で見ているのかと思いましたが、それを確認できる記述は見当たりません。

世界で急低下」と打ち出しているのに「低下」の事例として出しているのが日米だけというのも感心しません。「マイナス利回り」の国債に絡めて欧州には言及していますが「長期金利」が「低下」しているとは書いていません。「世界で急低下」と言うのならば、日米欧に加えて新興国の動向も入れたいところです。

今回は日米のみ。しかもいつに比べてどの程度の「低下」かも説明せずに「金利が急低下」と言われても、記事を信じる気にはなれません。記事の作り方の基本ができていないと感じました。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「長期金利、世界で急低下 日本も2カ月ぶり水準~マイナス金利国債残高が最高 貿易摩擦で景気悪化懸念
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190530&ng=DGKKZO45423210Z20C19A5EE8000

※記事の評価はE(大いに問題あり)

日経「話題の株~すかいらーくHD 既存店好調、高値圏に」の無理筋

29日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資面に載った「話題の株~すかいらーくHD 既存店好調、高値圏に 米中懸念で内需株に資金」という記事の内容には無理がある。筆者の見立ては間違っている可能性が非常に高い。
別府海浜砂場(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。

【日経の記事】

28日の東京株式市場で、すかいらーくホールディングスの株価が一時、前日比34円(2%)高の2006円と、年初来高値をつけた。2019年1~3月期の既存店の売上高が順調な伸びを示したことを投資家が好感。米中貿易摩擦の影響を受けにくいとの評価も買い意欲につながっている。

売買高は2倍強に膨らみ、終値は11円(1%)高の1983円。15日の取引終了後に決算を発表して以降、株価は高値圏にある

19年1~3月期の連結決算(国際会計基準)は、純利益が前年同期比3%減の27億円。人件費上昇や株主優待の費用増を織り込んだ19年12月期通期の純利益見通し(110億円)に対する進捗率は約25%で、市場では「堅調な滑り出し」(国内証券)との声が多い。

特に既存店は客単価、客数とも前年同期を上回り、3%近い増収だった。期間限定メニューの販売が伸びたほか、SNS(交流サイト)を使った情報発信も奏功した。北村淳最高財務責任者(CFO)は「効果的な営業施策を展開できている」と手応えを話す。

業績以外に材料視されているのが米中貿易摩擦の影響。ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真代表取締役は「中国依存度が高い外需株から、資金の移し先として安定した収益が見込める内需株が受け皿となっている」とみる。

5月中旬発表の4月の既存店売上高は1.2%増。「この勢いが続けば一段高も期待できる」(いちよし経済研究所の鮫島誠一郎主席研究員)との一方で、予想PER(株価収益率)が35倍台と割安感にはやや乏しいことから、先行きに慎重な見方もあった。


◎時期が離れすぎでは?

記事では「すかいらーくホールディングスの株価が一時、前日比34円(2%)高の2006円と、年初来高値をつけた」理由を「1~3月期の既存店の売上高が順調な伸びを示したこと」に求めている。「1~3月期の既存店の売上高」が明らかになったのが5月の「28日」やその前日ならば分かる。しかし3月の既存店売上高の動向を「すかいらーく」が公表したのは4月8日。それを材料に5月「28日」の株価が動くとは思えない。

「(5月)15日の取引終了後に決算を発表して以降、株価は高値圏にある」とも記事では書いている。「1~3月期の既存店」が「3%近い増収」になったのは4月8日に分かっている。なので5月16日以降の株価上昇に関しても「1~3月期の既存店の売上高が順調な伸びを示したこと」に理由を求めるのは苦しい。

しかも「4月の既存店売上高は1.2%増」と「5月中旬」に発表になっている。「4月」の既存店の数字が出てしばらくしてから、改めて「1~3月」の数字が株価を動かす材料になるのか。株式市場に関するある程度の知識があれば分かるだろう。

記事を書いたのは経験の浅い記者かもしれない。しかし証券部のデスクがチェックしているはずだ。なのにこの出来では経済紙としては辛い。


※今回取り上げた記事「話題の株~すかいらーくHD 既存店好調、高値圏に 米中懸念で内需株に資金
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190529&ng=DGKKZO45404800Z20C19A5ENI000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2019年5月29日水曜日

週刊ダイヤモンドの特集「コンビニ地獄」は基本的に評価できるが…

週刊ダイヤモンド6月1日号の特集「コンビニ地獄~セブン帝国の危機」は基本的にはよくできている。ただ、最後の「Epilogue~つまずいた小売業界の“優等生” コンビニは変われるのか」という記事はツッコミどころが目立った。
小石川後楽園(東京都文京区)
      ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら具体的に指摘してみる。

【ダイヤモンドの記事】

「経営者時代、わたしは社員たちにも、『仮説』を立てて、挑戦することを求めてきました。仮説とは、まさに、跳ぶ発想のなかからうかびあがるものだからです」──。

セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)を事実上創業し、日本のコンビニエンスストアの“生みの親”とも称される鈴木敏文・セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問は、自身の著書『わがセブン秘録』(プレジデント社)で、こう記している。

米国で見つけたコンビニという業態を日本流に“移植”。総合スーパー(GMS)全盛だった1970年代、「小型店は成り立たない」と批判を浴びながらのスタートだった。

その後、店頭でのおにぎりや弁当の販売、24時間営業、銀行業への参入、「金の食パン」に代表される“割高でも付加価値のある”プライベートブランド商品「セブンプレミアム」の開発……。

社会や消費者の変化に敏感に反応し「仮説」を立て、「過去の延長線上ではなく、未来へとジャンプ」(同著)する。この発想で、あらゆる“便利”を具現化することが、多彩な商品・サービスの開発や店舗網拡大へとつながる、SEJ成長の原動力だった。

やがて、百貨店やGMSを傘下に持つ巨大小売りグループを築き上げるまでに至るサクセスストーリーは、コンビニが小売業界の主役に上り詰めた象徴として、さまざまな場面で語られてきた。



◎コンビニが出発点?

この書き方だと「セブン&アイ・ホールディングス」は鈴木敏文氏が「セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)を事実上創業」したところから始まり、その後に「百貨店やGMSを傘下に」収めたように感じる。

言うまでもなく「セブン&アイ」の始まりはスーパーのイトーヨーカ堂だ。鈴木氏はヨーカ堂の創業者ではない。記事のような説明では読者に誤解を与えかねない。

続きを見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

ところが、社会の変化は、鈴木氏が感じていたよりもはるかに急激に進んでいた。

少子化という人口構造の絶対的な制約から、店舗を支える働き手の減少は、大胆な移民政策でもない限り解消する見込みはない。

にもかかわらず、鈴木氏がつくり出した、店舗の人件費の負担を加盟店に押し付け、本部が粗利からロイヤルティーを吸い上げる方式は、ほとんど見直されることがなかった。


◎鈴木氏はFCの生みの親?

鈴木氏がつくり出した、店舗の人件費の負担を加盟店に押し付け、本部が粗利からロイヤルティーを吸い上げる方式」という説明も引っかかる。コンビニがフランチャイズ(FC)の仕組みに基づいているのはその通りだが、鈴木氏はFCの生みの親ではない。

FCでは「店舗の人件費の負担」を「加盟店」が負い、本部が「ロイヤルティーを吸い上げる」のは当然だ。「鈴木氏がつくり出した」仕組みという説明は完全な間違いではないとしても、やはり誤解を生みやすい。

ついでに言うと「少子化という人口構造の絶対的な制約から、店舗を支える働き手の減少は、大胆な移民政策でもない限り解消する見込みはない」との見方には賛成できない。雇用情勢が大幅に悪化すれば「店舗を支える働き手」は「大胆な移民政策」なしで増加に転じる可能性がある。可能性が高いとは言わないが…。

さらに記事を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

「加盟店側の不満は、以前から感じていた。だが、2011年の東日本大震災で食料を供給し、“社会のインフラ”として再評価されたことで、負の側面への対応が遅れてしまった」と、あるSEJ本部の関係者は悔悟する。

16年に鈴木氏がクーデターで実権を失った後も、後継の幹部が「人手不足がわれわれの店にとって問題という認識はない」と記者会見で口走ったように、彼らの現状認識は、加盟店や世間のそれとは明らかに食い違っていた。


◎「鈴木氏がクーデターで実権を失った」?

鈴木氏」は自分の推す人事案が取締役会で否決されたのを受けて、自ら退任を決めている。これを「クーデターで実権を失った」と説明するのも正確さに欠ける。

週刊ダイヤモンドは以前に鈴木氏礼讃記事を何度も書いていた。その中心人物である田島靖久編集委員は今回の取材班に入っていないようだが、鈴木氏の存在を必要以上に大きく捉える癖が編集部に残っているような気がした。


※今回取り上げた記事「Epilogue~つまずいた小売業界の“優等生” コンビニは変われるのか
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/26644


※記事の評価はD(問題あり)。他の記事には高い評価を与えられるので、特集全体への評価はC(平均的)としたい。担当者らの評価は以下の通りとする。岡田記者に関しては、ダイヤモンドがミス放置の方針を転換したと判断し、期待を込めてF(根本的な欠陥あり)評価を見直す。

岡田悟(F→C)
重石岳史(D→C)
鈴木洋子(D→C)
相馬留美(暫定D→暫定C)
大矢博之(D→C)


※岡田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

週刊ダイヤモンドも誤解? ヤフー・ソニーの「おうちダイレクト」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_4.html

こっそり「正しい説明」に転じた週刊ダイヤモンド岡田悟記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_96.html

肝心のJフロントに取材なし? 週刊ダイヤモンド岡田悟記者の怠慢
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post.html

「人件費が粗利を圧迫」? 週刊ダイヤモンド岡田悟記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_25.html


※重石記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「GAFAがデータ独占」と誤解した週刊ダイヤモンド重石岳史記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/gafa.html


※鈴木記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ソニーの例えが下手な週刊ダイヤモンド鈴木洋子記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_19.html

週刊ダイヤモンド鈴木洋子記者のヨイショ記事に注文
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_11.html

どこが「7年越しの決断」? 週刊ダイヤモンド鈴木洋子記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/7.html


※相馬記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

基本的な技術が欠けた週刊ダイヤモンド相馬留美記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_17.html

2019年5月28日火曜日

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」

そもそも東証にはどんな市場があるのですか」との問いに対し「東証には4つの市場がある」と答えるのは正しいだろうか。「大筋で合っている」とも言えるが、厳密に言えば「4つ」ではない。「株式市場」に限っても「5つ」だ。REITなども含めればさらに増える。
長崎鼻(大分県豊後高田市)
      ※写真と本文は無関係です

日本経済新聞の藤田和明編集委員が「4つ」と言い切っていたので以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 藤田和明様

27日の夕刊ニュースぷらす面に載った「ニッキィの大疑問~東証なぜ市場再編を検討? 『1部』が膨張、質向上狙う」という記事についてお尋ねします。記事では「そもそも東証にはどんな市場があるのですか」との問いに対し「東証には4つの市場があり、全体で約3700社が上場しています」と藤田様が答えています。

しかし日本取引所グループのホームページを見ると「東京証券取引所は、市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ及びTOKYO PRO Marketの5つの株式市場を開設しています」との説明が出てきます。「株式市場」に限っても「東証には5つの市場」があるようです。「東証には4つの市場があり」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると、記事に付けた「東証の市場再編後のイメージ」という図が引っかかりました。この図では「現行」も「変更後」も普通の正三角形で表しています。しかし記事では「1部上場であることは大きなブランドで、日本のよりすぐりの企業が集まっているはずです。ところが上場企業数をみる限り、逆三角形になっているのです」と書いています。ならば図も「現行」に関しては「逆三角形」にして合わせた方が良いでしょう。

さらに以下の説明にも注文を付けておきます。

東証が3月に公表した考え方は、新興企業向けの市場が複数ある問題も合わせて見直し、4つある市場を3市場に再編するというものです。グローバルに投資する投資家などを想定した企業、投資対象としてふさわしい実績のある企業、高い成長性を持つ企業に区分けする内容です。時価総額のほか、利益の水準、流動性、ガバナンス(統治)体制などを基準にし、特にグローバル投資家を想定する企業には英文開示の義務付けも検討します

東証が3月に公表した考え方」自体が曖昧な面はあるでしょう。しかし、この説明では株式市場に詳しくない「ニッキィ」がきちんと理解してくれるとは思えません。

例えば「グローバルに投資する投資家などを想定した企業」「投資対象としてふさわしい実績のある企業」「高い成長性を持つ企業」という条件は同時に満たせます。その場合はどうなるのですか。「具体案の検討はこれから」だとしても、取材から得た再編後のイメージを分かりやすく伝えるのが編集委員としての腕の見せ所でしょう。藤田様の個人的な予想でもいいのです。そこに物足りなさを感じました。

市場の色分けがはっきりしてくれば、企業は経営の質を高めようともっと真剣に考えることになるでしょう。本業を磨いて利益を中長期で伸ばし、必要ならM&Aも選択肢でしょう。自社株買いや配当を増やすことも含めて資本を効率的に生かし、市場での評価を高めねばなりません」といった説明は大胆に削れます。

本業を磨いて利益を中長期で伸ばし、必要ならM&Aも選択肢」なのは言わずもがなで、記事に入れる意味はあまりありません。「(東証の市場区分が)実際にはどのような形で見直されるのかな」と最初の段落でも問題提起しているのですから、そこをしっかり見せるべきです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

ちなみに日本取引所グループが3月27日に出した「市場構造の在り方等の検討」というニュースリリースでは「2018年10月時点、一般投資者向けの市場として、市場第一部、市場第二部、マザーズ及びJASDAQの四つの市場を運営しております」と説明している。この書き方ならば「4つ」で問題ないが…。

藤田編集委員も「株式市場に関するプロの書き手」と言えるレベルを目指すのならば、細部までしっかり目配りして記事を書いてほしい。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「ニッキィの大疑問~東証なぜ市場再編を検討? 『1部』が膨張、質向上狙う
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190527&ng=DGKKZO45308220X20C19A5EAC000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価はDを維持する。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

2019年5月27日月曜日

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告

日本経済新聞の西條都夫論説委員には引退を勧告したい。27日の朝刊オピニオン面に載った「核心~トヨタ30兆円の城は盤石か」という記事では、トヨタを「販売台数などの数値目標」がない「数字なし経営」だと捉えて他社と比較している。しかし明らかな誤りだ。
伐株山園地(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係です

論説委員を務めるほどのベテランならば「『販売台数などの数値目標』がないって本当かな。トヨタのような大企業で『数字なし経営』なんてあり得るのかな」との疑問を持ってほしい。西條論説委員に記者としての基礎的な資質があるのならば「実際には『数字あり』だな」とすぐに気付けるはずだ。

基礎的な能力に欠けているのか怠慢なのかは分からない。だが、誤った認識に基づく記事を「核心」といったタイトルまで付けて読者に届けるのは避けてほしい。その最も簡単な方法は西條論説委員の引退だろう。西條氏の名誉のためにも、記事を書かない仕事で活躍してもらうべきだ。

今回の件に関しては以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 論説委員 西條都夫様

27日の朝刊オピニオン面に載った「核心~トヨタ30兆円の城は盤石か」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

過去10年のトヨタの経営には、他の会社にはあって当然のものがなかった。販売台数などの数値目標である。リーマン・ショック後の危機のさなか、09年の登板直後から、豊田社長は前任体制へのアンチテーゼも込めて『数値目標はあえて掲げない』と言い続けた。『数字なしでどうやって組織を引っ張るのか』と最初は違和感を覚えたが、その後の10年で露呈したのは、逆に数字のわなに足を取られたライバルの失態だ

2017年12月18日付のニュースリリースでトヨタは「2030年に電動車の販売550万台以上、EV・FCVは100万台以上を目指す」と打ち出しています。今年5月16日には「新型RAV4の受注台数は、4月10日の発売からおよそ1カ月にあたる5月15日時点で約24,000台、月販目標(3,000台)の8倍」とも発表しています。

月販目標(3,000台)」などとトヨタ自身が説明しているのに「過去10年のトヨタの経営」には「販売台数などの数値目標」がなかったのですか。「過去10年のトヨタの経営には、他の会社にはあって当然のものがなかった。販売台数などの数値目標である」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

西條様は「数字なしでどうやって組織を引っ張るのか」との疑問も持たれたようですが、トヨタは年間の販売・生産計画を公表しています。これを「数値目標」と見なさないとしても「豊田社長」は「数字なし」で「組織を引っ張」っている訳ではありません。

記事には「『数字なし経営』がどんな場面でも通用する普遍的な手法かどうかは留保がつくが、頑固にこだわり続けることで独自の経営スタイルを確立したのは事実である」との記述もあります。少し調べれば、トヨタの経営が「数字なし経営」ではないと分かるはずです。なぜわずかな手間を惜しんだのですか。調べたのに『数字あり』だと気付けなかったのならば、この手の記事を書くのは避けるべきです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「核心~トヨタ30兆円の城は盤石か
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190527&ng=DGKKZO45231660U9A520C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條論説委員については以下の投稿も参照してほしい。

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

2019年5月26日日曜日

「政敵」が首相を動かしてる? 日経 吉野直也記者「風見鶏」の問題点

日本経済新聞の政治コラム「風見鶏」の最大の問題点は、筆者の多くが「訴えたいこと」を持たずに記事を書いてしまうところだ。吉野直也記者もそうした筆者の1人だとこれまでも指摘してきた。26日の朝刊総合3面に載った「指導者を動かす政敵たち」という記事でも、その傾向は変わっていない。
一松邸(大分県杵築市)※写真と本文は無関係です

今回は後半部分から見ていこう。

【日経の記事】

「安倍1強」と言われる日本はどうか。今夏の参院選と併せて衆院選をする衆参同日選の観測が浮かぶのも、政敵の存在と無縁ではない。

安倍晋三首相の政敵の1人は衆院の野党第1党、立憲民主党の枝野幸男代表だ。首相側は野党が内閣不信任決議案を提出すれば、衆院を解散する大義に「当然なる」(菅義偉官房長官)と言い切る。

衆院を解散する場合、首相側が問うのは主に(1)消費税増税による全世代型社会保障の実現(2)憲法改正論議の推進――の2つとされる。

首相は野党党首として臨んだ12年衆院選を含め国政選挙で5連勝中だ。一方で第1次政権時代の07年参院選で惨敗し、退陣に結びついたことへの苦い記憶がある。

衆参同日選構想に通底するのは参院選で票を集めやすくなるとの期待だ。野党が衆参で統一の候補や比例名簿をつくるのは簡単でない。自民党が相対的に優位な情勢だ。

政敵は野党だけではない。自民党では総裁選で2度戦った石破茂氏が政敵とみなされている。首相側には石破氏がポスト安倍の最有力候補になるのを歓迎しない空気がある。

新元号「令和」の発表により、知名度が上昇した菅氏がポスト安倍の有力候補に急浮上したのは、この空気と関係する。石破氏と比べて岸田文雄政調会長らが有利な立場にはないとの認識も背景にある。

与党で3分の2を有する衆院を解散し、参院選との同日選に進むのか、参院選で勝てるとみれば、衆院解散は見送るのか。

世界の指導者の決断を探るうえで政敵たちの動きからも目が離せない


◎「政敵」が動かしてる?

今回の記事のテーマは「指導者を動かす政敵たち」だ。しかし、記事を読んでも「安倍晋三首相の政敵」が首相を動かしているようには見えない。「指導者を動かす政敵」に最も近いのは「立憲民主党の枝野幸男代表」か。
早稲田アリーナ(東京都新宿区)※写真と本文は無関係

ただ「動かす」感じは乏しい。「安倍晋三首相」は衆院解散に消極的だったのに「枝野幸男代表」が「内閣不信任決議案を提出」しようとする中で解散やむなしと心変わりしたのはらば分かる。しかし「枝野幸男代表」は不信任案提出に関しては「白紙」と言っているようだ。

衆参同日選構想に通底するのは参院選で票を集めやすくなるとの期待」であれば「枝野幸男代表」が動いたから「衆参同日選の観測が浮かぶ」とも言い難い。

もう1人の「石破茂氏」に関しては、記事を読む限り首相を動かしている気配さえ感じられない。「首相側には石破氏がポスト安倍の最有力候補になるのを歓迎しない空気がある」などとは書いているが「石破氏」の動きには全く触れていない。

それでいて「世界の指導者の決断を探るうえで政敵たちの動きからも目が離せない」と結論を導いている。この結びで着地させるならば、せめて「政敵たち」が「指導者を動かす」様子をしっかり描いてほしい。

さらに言えば「世界の指導者の決断を探るうえで政敵たちの動きからも目が離せない」のは吉野記者でなくても分かる当たり前の話だ。ベテランの政治記者が長々と政治について語った末の結論がこれでは辛い。

訴えたいことがないのに「風見鶏」の順番が回ってきて、苦し紛れに記事を書いているのだとは思う。それにしても、長く政治の世界を見てきて「世界の指導者の決断を探るうえで政敵たちの動きからも目が離せない」といった言わずもがなの結論しか捻り出せないものなのか。そこが残念だ。

ついでに前半部分にも1つ注文を付けておく。

【日経の記事】

指導者の思考や判断は往々にして政敵たちに影響されやすい。制裁の応酬が激しくなり、世界経済を揺るがす米中貿易戦争もその文脈でとらえられる。

中略)トランプ氏にとって来年の大統領選で戦うかもしれないバイデン氏ら民主党候補は政敵になる。トランプ氏のバイデン氏たたきは自然な流れだが、これは中国には不運な展開だ。

バイデン氏の中国に理解を示したかのような発言により、トランプ氏が中国に融和的な姿勢を取るのが難しくなったからだ。

敵の敵は味方だが、敵の味方は敵になる――。バイデン氏というトランプ氏の政敵要素が加味されたことで、米中貿易戦争の行方は一段と読みにくくなった



◎「読みにくく」なる?

バイデン氏の中国に理解を示したかのような発言により、トランプ氏が中国に融和的な姿勢を取るのが難しくなった」のならば「米中貿易戦争の行方」は読みやすくなったのではないか。

トランプ氏」は「米中貿易戦争」で中国に対して元々が強気だ。「バイデン氏」の「政敵要素」で「トランプ氏が中国に融和的な姿勢を取るのが難しくなった」とすると「トランプ氏の強硬姿勢は崩れない」と読めばいいのではないか。

強弱2つの要素がぶつかるのならば「読みにくくなった」と言うのも分かるが、そうはなっていない。「融和的な姿勢を取る」可能性が減退しているだけだ。


※今回取り上げた記事「風見鶏指導者を動かす政敵たち
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190526&ng=DGKKZO45230940U9A520C1EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。吉野直也記者への評価はDを維持する。吉野記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

トランプ氏の発言を不正確に伝える日経 吉野直也記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_7.html

トランプ大統領「最初の審判」を誤解した日経 吉野直也次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_13.html

日経 吉野直也記者「風見鶏~歌姫がトランプ氏にNO」の残念な中身
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/no.html

2019年5月25日土曜日

「パナソニックの祖業=自転車」が苦しい日経ビジネス中山玲子記者

無理に無理を重ねた記事と言うべきか。日経ビジネス5月27日号の「時事深層 COMPANY~パナソニックがシェア自転車、にじむ『祖業』復活への執念」という記事は強引な作りが目立った。筆者の中山玲子記者に言わせれば「自転車事業」は「パナソニック」の「祖業」であり、同社はその「復活」を狙っているらしい。だが、色々な意味で間違っている。
別府海浜砂場(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

まず「祖業」かどうかを考えていこう。「パナにとって自転車は思い入れの深い事業だ。創業者の松下幸之助氏が10歳で自転車店に奉公し、1923年に自転車用ランプを考案、創業期を支えた」と中山記者は書いている。

まず「自転車用ランプ」の生産・販売が「自転車事業」と言えるのかが疑問だ。百歩譲って「自転車事業」だとしよう。だとしても「パナソニック」の歴史が「自転車用ランプ」から始まっている必要はある。

ところが同社のホームページによると、創業は1918年で「配線器具」から事業が始まったらしい。「1923年に自転車用ランプを考案」する5年も前だ。これで「祖業」というのは苦し過ぎる。

次は「復活」に関して検討しよう。一度撤退して再び参入するのならば「復活」と言える。しかし「子会社で自転車の製造・販売を手掛けるパナソニックサイクルテック(大阪府柏原市)」が既にあるので、この意味での「復活」はあり得ない。

落ち込んでいた業績が上向くといった意味での「復活」はどうか。関連する記述を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

実は電動アシスト付き市場でパナは4割以上のシェアを握るトップメーカーだ。パナソニックサイクルテックの18年度の売上高は314億円。市場拡大を追い風に、15年度から約1割増やした。17年には国内で初めてマウンテンバイクの電動アシストタイプを発売。健康志向の高まりで休日に自転車に乗る40~60代の男性の需要を見込む。スポーツタイプなら価格も高価なモデルで60万円と、同10万~20万円のママチャリタイプより利幅は大きい。パナはその成長性に懸けた。


◎「復活」と言われても…

パナソニックサイクルテック」は「電動アシスト付き市場」では「4割以上のシェアを握るトップメーカー」らしい。そして同社は「18年度の売上高」を「15年度から約1割増やした」という。ならば、そこそこ順調なのではないか。「復活」しなければならない状況とは考えにくい。

ついでに言うと「スポーツタイプなら価格も高価なモデルで60万円と、同10万~20万円のママチャリタイプより利幅は大きい」との説明は引っかかった。中山記者にはどちらの「タイプ」もコストは同じとの前提があるのか。コスト次第では「60万円」の「高価なモデル」の方が「利幅」は小さくなる。実際に「スポーツタイプ」の方が「利幅は大きい」のだとしても、もう少し丁寧に説明してほしい。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~パナソニックがシェア自転車、にじむ『祖業』復活への執念
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00170/


※記事の評価はD(問題あり)。中山玲子記者への評価も暫定でDとする。

2019年5月24日金曜日

「5大都市」から横浜を除外した日経1面「診療所の都市偏在を是正」

24日の日本経済新聞朝刊1面トップの「診療所の都市偏在を是正 増加分の6割集中~厚労省、在宅医療の拠点化も」という記事では、まず「(診療所の)新規開設は5大都市に集中している」とのタイトルが付いた円グラフが気になった。
丸ビルと新丸ビル(東京都千代田区)
      ※写真と本文は無関係です

日経が認定した「5大都市」は「東京23区」「名古屋市」「福岡市」「大阪市」「札幌市」。なぜか「横浜市」が抜けている。東京圏に横浜市を含めて「5大都市圏」とするなら分かるが、そういう分類ではない。「東京23区」に次ぐ人口を抱える「横浜市」を「5大都市」から外すのは無理がある。

横浜市」の「新規開設」が少なかったからだとは思うが、仮にそうならばご都合主義的な括りと言える。

この手の記事でよく見る「都市」と「地方」という分け方も引っかかる。これだとうまく2つに分けられない。今回の記事で言えば「福岡市」や「札幌市」は「都市」であり「地方」には含めないのだろう。だが常識的に考えればどちらも地方都市だ。

都市と地方」という分け方は「都会と田舎」「中央と地方」がごちゃ混ぜになった面倒な感じがあり、できれば使ってほしくない。今回の記事にもその問題はある。記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

厚生労働省は診療所の新設が都市部に集中する状況を是正する。過去5年間で増えた診療所のうち6割強は東京などの5大都市部に集中し、医療を受けられる機会に偏りがある。厚労省は医師が多い地域での開業には在宅医療や休日・夜間の診療などを担うことを求める。条件を厳しくして地方での開業を促すとともに、都市部では高齢化に対応できる医療の拡充をめざす。

◇   ◇   ◇

これを読むと「診療所の新設が都市部に集中する状況を是正」して「地方での開業を促す」のだと理解したくなる。しかし読み進めると話が違ってくる。

【日経の記事】

厚労省は偏在の是正に乗り出す。まず全国の335の医療圏について、医師が多い上位3分の1の医療圏を「多数区域」とする。この地域で診療所を新設する医師には、(1)在宅医療(2)休日・夜間診療といった初期救急(3)学校医など公衆衛生――のうち、都道府県が必要とする機能を担うよう求める。20年度から実施する。


厚労省はこうした機能を担えない診療所が郊外や地方などで開業を選べば、医師の偏在の是正につながるとみる。


◎「多数区域=都市」?

医師が多い上位3分の1の医療圏」が「都市部」で、それ以外の「医療圏」が「地方」ならば辻褄は合う。しかし「医師が多い上位3分の1の医療圏」には福岡県久留米市や茨城県つくば市など多くの「地方」が入ってくる。

医師や医療機関の偏在に関して「都市では足りているが地方は足りない」という理解をしてしまうと実態を見誤る。特に「地方」に関してはそうだ。

記事では「こうした機能を担えない診療所が郊外や地方などで開業を選べば」と書いているが「郊外や地方」の中には「医師が多い上位3分の1の医療圏」がたくさん入ってくるはずだ。「都市と地方」という分け方では状況をうまく説明できない。

「正確さを犠牲にして分かりやすく書いた。医師が多い『地方』には制度変更の恩恵が及ばないことは、よく読めば分かるはずだ」と筆者は言うかもしれない。それを全面的に否定はできないが、個人的には「都市と地方」という対比は避けてほしい。


※今回取り上げた記事「診療所の都市偏在を是正 増加分の6割集中~厚労省、在宅医療の拠点化も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190524&ng=DGKKZO45200770T20C19A5MM8000


※記事の評価はC(平均的)。

2019年5月23日木曜日

「60点」すら与えられない山口周氏「アーティストに学ぶ超一流の仕事術」

山口周氏について多くを知っている訳ではないが、週刊東洋経済5月25日号に載った「アーティストに学ぶ超一流の仕事術 No.11(坂本龍一)努力が報われない人は仕事選びの戦略がない」という記事を読む限りでは、書き手としての能力に疑問符が付く。

勘定場の坂(大分県杵築市)
    ※写真と本文は無関係です
記事を見ながら具体的に問題点を指摘していく。

【東洋経済の記事】

 一生懸命頑張っているのに評価されない、と嘆いている人はどこにでも見られますが、こういう人たちに共通するいくつかの特徴があります。中でも「いつも80点を取っている」という点はその筆頭に挙げられるでしょう。当たり前のことですが、80点の人は100点の人にはかないませんし、100点の人は120点の人にかないません。つまり「いつも80点を取っています」という「義務感の人」は、「ほとんどの仕事は60点でやり過ごしているけど、面白い仕事が来ればむちゃくちゃ頑張って120点を出します」という「好奇心の人」に毎回負けている、ということです。



◎「毎回負けている」?

まず「毎回負けている」とは思えない。「好奇心の人」は10回中9回が「60点」で1回が「120点」だとしよう。「義務感の人」は「いつも80点」なので10回中9回は「好奇心の人」に勝てる。同じ職場に2人がいたら「義務感の人」の方が評価が高くても不思議はない。

いつも80点」の「義務感の人」は「好奇心の人」が大勢いた場合に誰かに負けるという意味で「毎回負けている」と言っているのかもしれないが、1人対大勢の比較に意味があるとは思えない。

常識的に考えれば「いつも80点」の人はかなり高い評価を得られるはずだ。プロ野球で考えてみよう。先発投手の80点は7回2失点辺りか。これを安定して続けられるのであれば、完投や無失点が年間通して一度もなくても先発投手の座は安泰だ。

普段は5回3失点ぐらいだが年に1度か2度は完封するという「好奇心の人」タイプの投手と比べたら「義務感の人」タイプの方が重宝されそうだ。

さらに記事を見ていこう。

【東洋経済の記事】

高い評価を勝ち得て社会のステージをドンドン上っていく人は、「ここぞ」という打席の見極めがうまい。その典型例として挙げたいのが音楽家の坂本龍一さんです。もちろん、坂本さんの音楽的な才能と努力が今日の高い評価の礎を成していることは論をまちません。しかし、ここで改めて指摘しておきたいのが、坂本さんの「仕事選びのうまさ」という点です。

坂本さんが世に出るきっかけとなったのは細野晴臣さん、高橋幸宏さんと結成したテクノバンド「YMO」でした。このバンドが世界的な評価を得たことで、坂本さんにはさまざまな作曲依頼が舞い込むことになりますが、それらの依頼のほとんどを断っています。
 そんな折、大島渚監督から映画『戦場のメリークリスマス』への出演を依頼されます。そう、役者としての「出演」であって「作曲」ではありません。この依頼に対して「作曲もやらせてくれるのなら、出演しましょう」という提案をして引き受けることになります。決定的だったのは、この映画にデヴィッド・ボウイが出演するという点でした。「デヴィッド・ボウイが出演する映画であれば、世界中の音楽・映画関係者が見るだろう。その映画の音楽を作曲すれば、自分の実力を世界中にアピールする最高の機会になる」と考えたそうなんですね。

結局、この映画音楽は世界的に高い評価を獲得し、次の映画音楽の仕事、つまりベルナルド・ベルトルッチの『ラストエンペラー』の映画音楽へとつながっていくことになります。果たせるかな、『ラストエンペラー』の映画音楽はアカデミー作曲賞を獲得することになり、映画音楽作曲家としての坂本さんの名声と信用は頂点に達することになります。ここでもやはり、『ラストタンゴ・イン・パリ』を筆頭に数々の名作を制作してきた名監督、ベルトルッチの新作の音楽を担当すれば間違いなく多くの人に聴いてもらうことができるという計算が働いていたはずです。

引き受けた仕事に全力を出し切るのは美徳かもしれませんが、人間の時間と体力には限りがありますからすべての仕事に全力で取り組むことは現実には不可能です。つまり、そもそも「どの仕事を引き受け、どの仕事を引き受けないか」という仕事選びの戦略に裏打ちされてこそ、その「引き受けた仕事に全力で取り組む」という美徳が成果と評価につながるのです


◎坂本龍一さんは「ほとんどの仕事は60点」?

『ここぞ』という打席の見極めがうまい。その典型例として挙げたいのが音楽家の坂本龍一さんです」と言うのならば「坂本龍一さん」はほとんどの「打席」を「60点でやり過ごしている」必要がある。
粟嶋公園(大分県豊後高田市)※写真と本文は無関係です

しかし記事では「さまざまな作曲依頼が舞い込むことになりますが、それらの依頼のほとんどを断っています」と書いている。これだと「60点でやり過ごしている」仕事が見当たらない。坂本さんが「ほとんどの仕事は60点でやり過ごしているけど、面白い仕事が来ればむちゃくちゃ頑張って120点を出します」という「好奇心の人」ならば、「依頼」をどんどん受けた上で「面白い仕事」だけを「むちゃくちゃ頑張って」他では「60点」を連発しているはずだ。

結局、「好奇心の人」「義務感の人」の話と「坂本龍一さん」の話が噛み合っていない。これでは記事として成立しない。

しかも「引き受けた仕事に全力を出し切るのは美徳かもしれませんが、人間の時間と体力には限りがありますからすべての仕事に全力で取り組むことは現実には不可能です」という説明もおかしい。この説明が成り立つためには「坂本龍一さん」が「引き受けた仕事」の中で「全力を出し切る」ものと、そうでないものを分けていなければならない。しかし、記事にそうした話は出てこない。

一般論として考えても「人間の時間と体力には限りがありますからすべての仕事に全力で取り組むことは現実には不可能です」との説明に同意はできない。それは「仕事」の量次第だろう。再びプロ野球で考えると、抑え投手の投球回数は多くても年間60イニングぐらいだ。勝ちゲームの最後を1イニング抑えるために年間60回の「仕事」があるしよう。この場合「すべての仕事に全力で取り組むことは現実には不可能」だろうか。

贔屓にしているチームの抑えが「すべての仕事(登板)に全力で取り組むことは現実には不可能」などとコメントしてたら「だったら引退しろ」と言いたくなる。本人に確認した訳ではないが、ほとんどの抑え投手は毎回「全力で」相手打者に立ち向かっているはずだ。

記事では「その『引き受けた仕事に全力で取り組む』という美徳が成果と評価につながるのです」とも書いている。これだとやはり「ほとんどの仕事は60点でやり過ごしているけど、面白い仕事が来ればむちゃくちゃ頑張って120点を出します」にはならない。「引き受けた仕事」は常に「120点」を目指せという話になってしまう。

仕事を選びにくいサラリーマンに当てはめると、常に全力で「120点」を目指すしかない。もう「好奇心の人」とか「義務感の人」に分ける意味はなくなっている。

ここまでで山口氏の書き手としての実力は十分に分かった気もするが、さらに続きを見ていく。

【東洋経済の記事】

では、その「仕事選び」はどのような視点で行えばよいのでしょうか? ポイントは「成長」と「評価」の2つです。

まず成長について。これは、その仕事を引き受けるうえで、どれくらい自分が成長できるかという観点です。多くの人は、現在の自分の実力で十分に対応可能な仕事、もっと率直にいえば「ラクにこなせる仕事」をやりたがる傾向がありますが、そんなことを続けていたら成長できるわけがありません。これは「チャンスが来ない」と飲み屋でグチっている人の典型です。チャンスというのは事後的に把握されるものであって、前面に「チャンスですよ」と書かれてやってくるわけではありません。むしろ前面には「難しくてメンドくさい仕事」と書かれていることが多いわけですが、素通りしたのを振り返ってみれば背中に「チャンス」と書かれていた、ということです。


◎「チャンスは事後的に把握されるもの」?

チャンスというのは事後的に把握されるもの」という見方にも賛同できない。「前面に『チャンスですよ』と書かれてやってくる」場合も当然にある。例えば、サッカーW杯のメンバー発表が近づいた段階で日本代表に初召集された選手が、親善試合で先発出場の機会を得たとしよう。この場合「チャンスというのは事後的に把握される」だろうか。少し考えれば山口氏にも分かるはずだ。

週刊東洋経済の編集部は山口氏に自由に記事を書かせ過ぎではないか。任せておけば「いつも80点」を取ってくれるような書き手ではない。今回の記事には「60点」すら与えられない。しっかり補佐するつもりがないのならば、早期の連載打ち切りを検討すべきだ。


※今回取り上げた記事「アーティストに学ぶ超一流の仕事術 No.11(坂本龍一)努力が報われない人は仕事選びの戦略がない
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/20618


※記事の評価はD(問題あり)。山口周氏の評価も暫定でDとする。

2019年5月22日水曜日

60歳前後の経営者は「高度成長期に入社」? 日経ビジネスの回答

日経ビジネスの記事で「早稲田大学の池上重輔教授」が「特に高度成長期に入社した60歳前後の経営者は、まねをしても、そこそこ成長できた過去の経験がある」とコメントしている。この通りに発言したのならば「池上重輔教授」は日本の「高度成長期」がいつ終わったのか理解していないと思える。もちろん、記事の内容に関して責任を負うべきは筆者の長江優子記者ではあるが…。
加部島(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

日経ビジネス編集部には以下の内容で問い合わせを送った。回答と併せて見てほしい。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 長江優子様

5月20日号の「SPECIAL REPORT~気づけば周囲はライバルだらけ 激烈競争に負けないレッドオーシャン回避術」という記事についてお尋ねします。記事には「特に高度成長期に入社した60歳前後の経営者は、まねをしても、そこそこ成長できた過去の経験がある」という「早稲田大学の池上重輔教授」のコメントが出てきます。これを信じれば「60歳前後の経営者」は「高度成長期」に「入社」しているはずです。

日本では「1973年の石油危機で高度成長に終止符を打った」(百科事典マイペディア)と言われています。つまり1973年入社組が「高度成長期に入社した」最後の人たちです。22歳で入社したとすると現在は68歳か69歳で「60歳前後」とは言えません。「高度成長期に入社した70歳前後の経営者」ならば問題はありませんが、そうは書いていません。

高度成長期に入社した60歳前後の経営者」との記述は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、疑問に感じた点を追加で2つ挙げておきます。

(1)そんなに単純な問題ですか?

記事には「今、手掛けている商品やサービスはレッドオーシャンにあるのか否か。あるのであれば、すぐさま撤退した方がいいはずだ」との記述があります。そして「フィットネスジム」に関して長江様は「まさにレッドオーシャンだ」と言い切っています。だとすると、「フィットネスジム」を手掛ける企業は全て「撤退した方がいいはず」です。そんなに単純な問題なのでしょうか。

仮に「撤退した方がいいはず」と他の皆が考えて撤退してくれれば、残った1社は大きな残存者利益が得られそうです。それでも全ての企業にとって「レッドオーシャン」ならば「撤退」が正解なのでしょうか。複雑な問題を単純に捉え過ぎていませんか。


(2)話が違ってきていませんか?

レッドオーシャン」ならば「撤退」という話の後で長江様は「上の図を見ていただきたい。ここに示したのは、縦軸が社会への影響力、横軸は将来性の見通しやすさを表す」と述べ「社会へのインパクトは小さく、将来性も読みやすいのであれば、事業として継続する意義は薄い。すぐさま撤退を検討した方がいい」と別の判断基準を示しています。

レッドオーシャン」ならば「撤退」だったのではありませんか。しかし、「上の図」の基準に従うと「社会への影響力が大きい」「将来性が読みにくい」の両方に当てはまれば「続行」です。「社会への影響力が大きい」上に「将来性が読みにくい」という面を持つ「レッドオーシャン」もあるでしょう。その場合はどうなるのですか。

上の図」の基準に従えばよいという話ならば、「レッドオーシャン」とか「ブルーオーシャン」を持ち出す必要はありません。しかも「上の図」には「市場におけるプレーヤーの数は重要ではない」との注記まであります。「レッドオーシャン」について長江様は「多数のライバルがひしめき、血で血を洗うような競争の激しい市場を意味する」と書いていました。「市場におけるプレーヤーの数は重要ではない」のならば、やはり「レッドオーシャン」かどうかは考えなくていいはずです。しかし、記事のテーマは「レッドオーシャン回避術」です。

この辺りはもう少し話を整理して記事を作った方が良かったのではと感じました。問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご愛読頂き、ありがとうございます。ご質問に回答させて頂きます。

ご指摘の「高度成長期に入社した60歳前後の経営者」ですが、高度成長期をバブル景気に入る前までと広くとらえ、このような表現をしました。

ただ、正確な表現とは言えなかったかもしれません。以後、より正確な表現を心掛けて参りたいと存じます。

レッドオーシャンの記述についても、より分かりやすく丁寧に記述するべきだったと反省し、ご指摘を今後の記事の参考にさせて頂きたく存じます。

以上です。

引き続き、日経ビジネスをご愛読頂きますよう、お願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

長江記者も分かっていると思うが「バブル景気に入る前まで」を「高度成長期」と見なすのは無理がある。上記の問い合わせで指摘したように、長江記者の記事は総じて作りが雑だ。そこは改善してほしい。


※今回取り上げた記事「SPECIAL REPORT~気づけば周囲はライバルだらけ 激烈競争に負けないレッドオーシャン回避術
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00117/00033/


※記事の評価はD(問題あり)。長江優子記者への評価はDを据え置く。長江記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「日本ワインも需要増に追いつかず」が怪しい日経ビジネス
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_26.html

「オリオン買収」に関する日経ビジネス長江優子記者の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_7.html

「サントリー 紅茶飲料に参入」に無理あり 日経ビジネス 長江優子記者
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_12.html

日経ビジネス白井咲貴・長江優子記者に感じた女性活躍への「偏見」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_14.html

2019年5月21日火曜日

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…

17日の日本経済新聞朝刊企業3面に載った「ヒットのクスリ~工場発の汚れないパンツ 究極エコ『捨てない』を形に」という記事で「同社(ライフスタイルアクセント)は他にも絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」と中村直文編集委員が書いた問題をさらに考えてみたい。
グラバー園の旧リンガー住宅(長崎市)
          ※写真と本文は無関係です

この件で問い合わせを送っても日経は相変わらずの無視だが、ライフスタイルアクセントからは回答を得た。まずは問い合わせと回答の内容を紹介したい。

【ライフスタイルアクセントへの問い合わせ】

5月17日付の日本経済新聞朝刊に載った「ヒットのクスリ」という記事に「同社(ライフスタイルアクセント)は他にも絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」との記述があります。これに関する質問です。

(1)本当に「絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」のでしょうか。サイトでは確認できませんでした。

(2)扱っている場合、虚偽の表示であり違法となるのではありませんか。あるいは本当に「絶対破れない」のでしょうか。常識的にはあり得ないと思えます。

(3)記事の筆者である日経の中村直文編集委員からの取材に対して「絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」旨の説明をしたのでしょうか。していないとすれば、なぜあのような記事が出たのでしょうか。仮に取材で「絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」と言っていないのに誤った情報が記事に載ったのならば、訂正を求めるなどの抗議の予定はあるのでしょうか。

質問は以上です。御社には何の落ち度もないのかもしれませんが、気になったので問い合わせを送らせていただきました。回答を頂ければ幸いです。


【ライフスタイルアクセントからの回答】

いつもファクトリエをご愛顧いただきありがとうございます。また、日本経済新聞の記事にて弊社をご覧いただきありがとうございました。

ご質問いただきました件につきまして、下記にてご覧頂ければ幸いです。

(1)本当に「絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」のでしょうか。サイトでは確認できませんでした。

→該当の商品は、グレンクライドの永久交換保証ソックスシリーズとなります。表記として「絶対に破れない」は商品でうたっておりませんので、見つからなかったのかと存じます。


(2)扱っている場合、虚偽の表示であり違法となるのではありませんか。あるいは本当に「絶対破れない」のでしょうか。常識的にはあり得ないと思えます。

→商品名として絶対に破れない、というのではなく、絶対に破れないほど言えるほと破れないというご説明でございます。また1でお答え致しましたように、絶対に破れない、と確定してうたっておりませんので、虚偽の表示には当たらないことともいます。
https://factelier.com/products/detail.php?product_id=12696


(3)「絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」の説明の有無について

→「絶対に破れない」というテーマのもと作られたソックスである旨、ご説明しております。加えて、こちらの永久交換保証が、破れないからこそ工場がサービスをご提供できた、というご説明でございます。

日経新聞様には限られた紙面スペースの中で、工場の想いの伝わる記事にしていただいたと考えており、今後も抗議の予定はございません。

もし、今回の回答で不明点がございましたら、ご連絡いただければ幸いです。

ひとまずご返信とさせていただきます。今後もファクトリエをよろしくお願いいたします。

◇   ◇   ◇

日経からは回答がないので、事実関係はライフスタイルアクセントの説明通りとの前提でこの問題を考えてみたい。
東京駅(東京都千代田区)※写真と本文は無関係です

取材時に「『絶対に破れない』というテーマのもと作られたソックスである」との説明を受けた中村編集委員は記事に「絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」と書いてしまった。相手の言っていることを正しく理解できなかったのか、理解していたのに正確に書けなかったのかのどちらかだ。いずれにしても初歩的なミスと言える。

仮に「絶対に破れない靴下なんですよ」と取材相手がアピールしてきても「本当かな。常識的にはあり得ないけど…」と疑えなければ経済記事の書き手としては辛い。ベテランの域に達してもそうした意識を持てないのならば、今後も改善は見込めないだろう。

さらに問題なのは、「絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」と中村編集委員が書いてきた時に、誰も止められずにそのまま読者に届けてしまったことだ。企業報道部のデスクは何も疑問に思わなかったのか。整理部でも記事審査部でもいい。問題を指摘してあげる人は編集局にいなかったのか。あるいは指摘を生かせなかったのか。

いずれにしても、日経のメディアとしての実力のなさを示す結果となっている。中村編集委員の書き手としての能力に問題があるのは疑いようがない。今後も記事を書かせるのならば、周囲の十分な支援が不可欠だ。井口哲也編集局長を含め編集局の幹部はそこをしっかりと考えてほしい。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~工場発の汚れないパンツ 究極エコ『捨てない』を形に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190517&ng=DGKKZO44688360R10C19A5TJ3000


※中村直文編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

2019年5月20日月曜日

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」

日本経済新聞の大林尚上級論説委員が20日朝刊オピニオン面に「核心~令和財政 大戦時より深刻 改革棚上げ楽観のツケ」という苦しい記事を書いている。記事を見ながら問題点を指摘してみたい。
震動の滝(大分県九重町)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】  

平成バブル経済を視覚に訴える定番にジュリアナ東京の映像がある。お立ち台で羽根つき扇子をふり回すボディーコンシャス姿は、往時を知らぬ世代の間である種の憧れをもって語られることがある。

しかし、このディスコが東京湾岸に開業したのは、バブル頂点から1年半になろうという1991年5月だ。同月の日経平均株価は2万5千円台。89年大納会の最高値より1万3千円下がっていた。余談ながら「お立ち台」が新語・流行語大賞に入ったのは、さらにその2年後。バブルの余韻と言えばもっともらしいが、日本経済はすでに奈落に沈みつつあった。根拠なき楽観である



◎「根拠なき楽観」?

なぜ「根拠なき楽観である」と断定しているのか謎だ。「同月の日経平均株価は2万5千円台。89年大納会の最高値より1万3千円下がっていた」のならば、株式市場に「根拠なき楽観」は感じられない。

さらにその2年後」の93年であれば「バブルが崩壊した」との認識が十分に広がっていた。就職氷河期が始まった頃でもある。大林上級論説委員はあの頃の日本社会の雰囲気を忘れてしまったのか。

「『お立ち台』が新語・流行語大賞に入った」のはその通りだろうが、だからと言って社会が「根拠なき楽観」に包まれていたとは言い難い。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

この頃の首相は経済運営の第一人者をもって任ずる宮沢喜一氏。92年夏、軽井沢にいた宮沢氏は孤立無援を味わっていた。自民党のセミナーで「必要なら公的関与をすることにやぶさかではない」と話したためだ。膨大な不良債権を抱えた大手銀行に公的資金を資本注入する必要性をにおわせた発言だった。

のちに宮沢氏は書き残している。「大蔵省は『変なことを言ってもらっては困る』という態度だ。銀行の頭取は『冗談じゃない。うちはそんな変な経営状態ではない』と思っている。経済界も『銀行にカネを出すなんて』と反発した。経団連の平岩外四会長は『そんなことは考えることもできません』とけんもほろろだった」(2006年4月26日付本紙「私の履歴書」)



◎みんな「軽井沢にいた」?

92年夏、軽井沢にいた宮沢氏は孤立無援を味わっていた」というが、どうも怪しい。「膨大な不良債権を抱えた大手銀行に公的資金を資本注入する必要性をにおわせた発言」をした段階では「孤立無援」かどうかは分からなかったはずだ。
長崎湾(長崎市)※写真と本文は無関係です

それとも「大蔵省」の幹部も「銀行の頭取」も「経団連の平岩外四会長」も「自民党のセミナー」に出席していて「宮沢氏」の意見に反対を表明したのだろうか。そもそも「自民党のセミナー」での発言なのに、党内で「孤立無援」だったと取れる説明が出てこない。これで「軽井沢にいた宮沢氏は孤立無援を味わっていた」と言われても信用する気にはなれない。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

将来に発生が想定される重大な危機をあらかじめ防ぐ難しさを如実に表した、じつに貴重な証言である。

危機予防策の立案・実行はなぜ日の目を見にくいのか。3枚のカベが考えられる。

(1)当事者の意識欠如=予防策によって不利益を被る現在の関係者が一斉に反発する

(2)想像力の乏しさ=予防策はコストを伴う。それが危機発生による将来の損失より小さいという事実に現在のコスト負担者が思い至らな

(3)損な役回り=よしんば予防策を発動して危機封じ込めに成功したとしても、恩恵を受ける将来の人びとには何も起こらないのが当然と映る。苦労して策を講じた先人の功績は、後生に素通りされる

案の定、90年代半ば以降は金融機関の経営破綻が続出した。92年度からの10年間に不良債権処理に費やしたコストは累計90兆円規模に及んだ。

この問題にかぎらず、日本人が体験してきた危機には、根拠なき楽観や予防策への無理解が遠因になったものが少なからずある。その観点もふまえて明治期以降の国家財政を振り返ってみたい。


◎計算はできてる?

予防策はコストを伴う。それが危機発生による将来の損失より小さい」例として「宮沢氏」の話を持ち出したのだろう。しかし、損得を計算できているのかという問題がある。「92年度からの10年間に不良債権処理に費やしたコストは累計90兆円規模に及んだ」と大林上級論説委員は言うが、92年の段階で「公的関与」をした場合にどうなっていたかの試算がない。

例えば、早めに「公的資金」を10兆円入れれば公的な負担はこれだけで済んだが、実際には50兆円に負担が膨らんだといった計算ができているのならば分かる。しかし大林上級論説委員は「コストは累計90兆円規模」と書いているだけだ。

しかも、これは公的な負担の金額ではないだろう。金融機関の「コスト」が膨らんだとしても「公的資金」の負担が少ない方が良いという考えは成り立つ。また92年の段階で「公的資金」を投入していれば危機を未然に防げていたとの保証もない。

この問題は大林上級論説委員が考えるほど単純ではない。そもそも「予防策」に含めてよいのかとの疑問も残る。「膨大な不良債権を抱えた」状態にあったのならば、「予防策」と言うより既に起きてしまった問題への対処ではないのか。

大林上級論説委員は「予防策への無理解」を嘆くが、この問題を大林上級論説委員が正しく「理解」しているとも思えない。


※今回取り上げた記事「核心~令和財政 大戦時より深刻 改革棚上げ楽観のツケ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190520&ng=DGKKZO44941220X10C19A5TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大林氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

2019年5月18日土曜日

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?

絶対破れない靴下」は存在するのだろうか。個人的にはないと思う。あるとしても「1足2000円」では作れないだろう。しかし、日本経済新聞の中村直文編集委員によると「工場ブランド衣料品をネットで販売するライフスタイルアクセント(熊本市)」が「絶対破れない1足2000円の靴下」を売っているらしい。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
       ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 中村直文様

17日の朝刊企業3面に載った「ヒットのクスリ~工場発の汚れないパンツ 究極エコ『捨てない』を形に」という記事についてお尋ねします。記事では「工場ブランド衣料品をネットで販売するライフスタイルアクセント(熊本市)」に関して「同社は他にも絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」と説明しています。

まず「靴下」に関して「絶対破れない」商品の製造は不可能ではありませんか。どんなに繊維の強度を高めても切断は可能だと思えます。記事で紹介した「絶対破れない1足2000円の靴下」は本当に「絶対破れない」のですか。

常識的に考えて「絶対破れない」というのは誤りだと仮定しましょう。その場合「ライフスタイルアクセント」が「絶対破れない」とうたって「靴下」を販売しているのであれば、特定商取引法が禁じる「著しく事実に相違する表示」「実際のものより著しく優良であり、もしくは有利であると人を誤認させるような表示」に当たるはずです。そのような商品をなぜ記事で肯定的に取り上げたのですか。

ちなみに「ライフスタイルアクセント」が運営する「ファクトリエ」のサイトを見ると、税抜き2000円の「永久交換保証ソックス」が出てきます。これに関して「30,000回以上の摩耗テストもクリアしています」といった説明はありますが「絶対破れない」とは打ち出していません。

中村様の言う「絶対破れない1足2000円の靴下」が「永久交換保証ソックス」のことならば、そもそも「ライフスタイルアクセント」も「絶対破れない」とは言っていないのではありませんか。

同社は他にも絶対破れない1足2000円の靴下を扱っている」という説明は色々な意味で間違っているのではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)日経からの回答はなかったが、ライフスタイルアクセントからは回答を得た。それに関しては以下の投稿を参照してほしい。

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/60.html


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~工場発の汚れないパンツ 究極エコ『捨てない』を形に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190517&ng=DGKKZO44688360R10C19A5TJ3000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

2019年5月17日金曜日

日経 友部温・江口良輔記者に問う「回転率×客単価」で売上高が決まる?

外食産業の売上高は『回転率×客単価』で決まる」と言えるだろうか。違う気がするが、日本経済新聞の友部温記者と江口良輔記者はそう信じているようだ。「客数×客単価」ならばまだ分かるのだが…。
浦上教会(長崎市)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 友部温様 江口良輔様

16日の朝刊企業1面に載った「外食に広がる定額制~居酒屋やコーヒー、ラーメンも 集客増も価格設定難題」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「外食産業の売上高は『回転率×客単価』で決まる」との説明です。

記事には「『回転率が1を割り込む店舗すらある』(福田氏)。50席の店舗なら1日の来客数が50人を割り込むという意味だ」との記述があるので、これを基に考えてみます。

この「50席の店舗」の客単価を1000円としましょう。さらに「1日の来客数が50人」と仮定します。なので「回転率」は1です。この場合「回転率×客単価」は「1×1000」で1000円となります。しかし、店の1日の「売上高」はもちろん1000円ではありません。「回転率×客単価」では「売上高」が決められないのです。

また、この店の席数を減らせば「回転率」は高まりますが、だからと言って「売上高」が増える訳でもありません。

一般的に言えば「外食産業の売上高は『客数×客単価』で決まる」はずです。「外食産業の売上高は『回転率×客単価』で決まる」とした記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「外食に広がる定額制~居酒屋やコーヒー、ラーメンも 集客増も価格設定難題
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190516&ng=DGKKZO44854080V10C19A5TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。ただ、当該部分を除くと悪い出来ではなかった。友部温記者への評価は暫定でDとする。江口良輔記者への評価はDで確定とする。

2019年5月16日木曜日

再び「ロボアド」を持ち上げた週刊エコノミスト稲留正英記者の罪

週刊エコノミスト5月21日号の特集「まだ間に合う! 50代からの投資」は功罪で言えば「罪」が上回る。中でも「ロボアド 3年間で利回り18%、手数料引き下げも」という記事は問題が多い。筆者の稲留正英記者は以前にも「ロボアド」を強引に持ち上げる記事を書いていた。今回の記事も全文を見た上で問題点を指摘したい。
カトリック長崎大司教館(長崎市)※写真と本文は無関係

【エコノミストの記事】

定年後に向けて資産形成したいが、何に投資をすべきか迷っているし、投資に時間を割くことも難しい50代には、ロボットアドバイザー(ロボアド)が有力な選択肢の一つとなる

ロボアドは、資産運用の王道である「長期・積み立て・分散」投資をコンピューターのアルゴリズムやAI(人工知能)を使い、個人向けに提供する運用サービスだ。パソコンやスマートフォンで年齢、年収、投資経験、リスク許容度などを入力すると、ロボアドがそれぞれの個人に適した推奨ポートフォリオを提示。口座を開設し、投資一任契約を結べば、運用が始まる。運用対象は、国内外の株式、債券、商品や不動産などに投資するETF(上場投資信託)や投資信託だ。リスクを分散しながら、世界経済の成長を、自らの資産形成に取り込むことが可能となる。

預かり資産最大のウェルスナビでは、株式投資比率が約8割の「リスク許容度5」のポートフォリオの場合、設定来(2016年1月~今年3月)利回りは18・6%。お金のデザインのTHEO(テオ)では、231ある運用パターンの設定来(16年2月~今年2月)の平均的な利回りは17・9%だった。年率ではそれぞれ6%程度の利回りを確保できた計算となる。

従来、ロボアドサービスは、20~40代が長期的な資産形成を目指すために利用するケースが多かった。しかし、人生100年時代となり、雇用延長などで労働収入を得られる期間が伸びた結果、50代以降でも利用する人が増えている。ウェルスナビの柴山和久CEOは、「今の50代は現役期間が長いため、昔の40代のようなリスクを取った運用ができる。株式の比率は資産全体の75~80%くらいでもよい」と語る。

お金のデザインの中村仁社長も、「定年まで5年以上ある場合は、リーマン・ショックのような相場急落があっても挽回できるため、50代を意識する必要はあまりない」と説明する。同社の運用アドバイザーである加藤康之・京都大学経営管理大学院客員教授は、「株式などのグロース(成長)資産の比率は6割が基本形。利用者はグロース志向かインカム(利子・配当)志向かでこの比率を変えればよい」と話す。

ロボアドの欠点は、運用手数料が年率1%とETFや投信を単体で購入して保有するよりも高いことだった。しかし、最近では手数料引き下げの動きが出始めている。THEOでは一定以上の預かり資産があり、かつ長期保有の顧客に対し、運用手数料を年率0・65%まで引き下げる新手数料体系を4月から導入した。

さらに、両社のサービスには、リバランス(資産の再配分)を生かした節税機能がある。これは、利子・配当金を受け取った場合や、リバランスで実現益が生じた場合は、含み損が出ている資産を売却し、実現損を出すことで支払う税金を軽減する。両社によると、節税効果は年率0・4%程度あるという。



◎「有力な選択肢」になる?

ロボアドの欠点は、運用手数料が年率1%とETFや投信を単体で購入して保有するよりも高いこと」と認識しているのならば「ロボットアドバイザー(ロボアド)が有力な選択肢の一つとなる」と考えるのは無理がある。「運用手数料を年率0・65%まで引き下げる新手数料体系を4月から導入した」としても割安感はない。

働いている人は「投資に時間を割くこと」が難しいから「ロボアド」に任せた方が楽だ。そのための1%は高くない--。これが「ロボアド」寄りの人間が考えそうな理屈だ。

しかし、「ロボアド」に辿り着くまでには、それなりに投資について考える必要がある。「ロボアド」に決めても、さらにどの会社のどのプランを選ぶかを検討するはずだ。そこまでやる人が「投資に時間を割くこと」が難しいから、後は高いコストを払ってもお任せを選びたいとなるのか。

「『ロボアド』ならリバランスをやってくれる」と「ロボアド」寄りの人間は反論するかもしれない。しかし、リバランス程度の機能に年1%も払う価値があるのか。投資額1000万円ならば手数料は年10万円に達する。

自分の代わりにリバランスをやってくれることに非常に高い価値を見出せる人を除けば、「ロボアド」の高い手数料に合理性はない。

仮に「コストが高い分、期待リターンも高くなりますよ」となるならば「有力な選択肢の一つとなる」が、そうはならないはずだ。

以前から言っていることだが、知り合いに助言を求められた時に「ロボアド」は絶対に勧めない。「自分で適当にETFを組み合わせた方が圧倒的に有利だ。リバランスなんて考える必要はない。ETFの組み合わせを考えるのが面倒ならば1本だけに絞ってもいい。分散の程度や資産クラスの偏りで多少の問題が生じたとしても、高い手数料を支払うデメリットに比べればかわいいものだ」とでも言うだろう。

リバランス」による「節税効果」のくだりも感心しない。「節税効果は年率0・4%程度ある」と言うが、これは平均的な水準なのだろう。しかし「含み損が出ている資産」がない場合もある。説明が十分とは言い難い。

さらに言えば「節税効果」というプラス部分には言及するのに、保有するETFの信託報酬という間接コストには触れていないのも引っかかる。

高コストだと書いてバランスを取った点は評価するが、それでも「稲留記者はロボアド関連企業の回し者」と認識しておくべきだろう。

定年後に向けて資産形成したいが、何に投資をすべきか迷っているし、投資に時間を割くことも難しい50代」には声を大にして伝えたい。

「稲留記者を信用するな。そして、手数料を取るタイプのロボアドには近付くな」


※今回取り上げた記事「ロボアド 3年間で利回り18%、手数料引き下げも
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190521/se1/00m/020/024000c


※記事の評価はD(問題あり)。稲留正英記者への評価は暫定E(大いに問題あり)から暫定Dに引き上げる。稲留記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。


問題山積 週刊エコノミスト稲留正英記者のロボアド記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_20.html

2019年5月14日火曜日

「名目」で豊かさを見る理由 日経ビジネスの苦しい回答

日経ビジネス4月29日・5月6日合併号に載った「革新者を求めた産業構造の変化とデフレ」という記事に関する問い合わせへの回答が5月13日にようやく届いた。問い合わせを送ったのが4月29日。連休が終わってから数えても1週間を要している。内容は非常に苦しい。筆者の田村賢司編集委員も本当は回答したくなかったのだろう。それでも最終的に逃げなかった点は評価したい。
小石川後楽園(東京都文京区)
       ※写真と本文は無関係です

問い合わせと回答の内容は以下の通り。


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス 編集委員 田村賢司様

4月29日・5月6日合併号の「革新者を求めた産業構造の変化とデフレ」という記事についてお尋ねします。記事の中で田村様は「平成のもう一つの変化はデフレだ。厚生労働省の調べによると、1990年代半ばから名目賃金は2005年前後を除いてじりじり低下を続け、豊かさは失われていった」と記しています。この説明には2つの問題を感じます。

(1)名目賃金は低下してますか?

2月8日付のロイターの記事では「18年の名目賃金をみると、現金給与総額は月額32万3669円で前年を1.4%上回り、5年連続増となった」と報じています。これは「厚生労働省が8日発表した2018年の毎月勤労統計調査(速報)」を基にしたもので、厚労省の資料でも「5年連続増」だと確認できます。

平成」に関して「1990年代半ばから名目賃金は2005年前後を除いてじりじり低下を続け」たとの説明は誤りではありませんか。2014年以降は「低下」していないはずです。記事の説明に問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。


(2)名目賃金で「豊かさ」を判断できますか?

デフレ」で「名目賃金」が「低下」したことを根拠に「豊かさは失われていった」と田村様は判断しています。しかし「名目賃金」を基に「豊かさ」を判断するのは不適切だと思えます。

名目賃金」が5%、物価が10%低下したとしましょう。この場合、「豊かさは失われて」いますか。購買力は向上しています。逆に「名目賃金」が5%、物価が10%上昇した場合はどうでしょう。「名目賃金」の上昇によって「豊かさ」が得られるでしょうか。

豊かさ」がどうなるかは物価との兼ね合いです。つまり「実質賃金」で見る必要があります。「実質賃金」を基準にすれば、「デフレ」でも「豊かさ」は得られます。

名目賃金」では「豊かさ」を判断できないのではありませんか。「判断できる」と田村様が本当に思ったのならば「貨幣錯覚」に陥っているのかもしれません。「貨幣錯覚」とは「人々の経済行動が貨幣で表現された名目額に基づいて行われること」(日本大百科全書)です。

経済記事を書く時には「名目ではなく、物価変動を考慮した実質ベースで考えるべきではないか」と意識した方が良いでしょう。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。



【日経BP社の回答

いつも弊誌をご購読頂き、ありがとうございます。またご意見を頂戴し、お礼を申し上げます。

ご質問につきまして、今回の記事は平成の30年間で成長した企業の要因を考えるものでした。長期的に環境がどのように変化し、その中でどのように動くことで成功したかという視点です。その意味で賃金についても長期での変化を見ました。これでは90年代半ば以降、ほぼ下落しております。1人当たり名目賃金を2015年を100として指数化してみると、1994年半ばに約114でしたが、2019年3月時点では約101となっています。


ただ、ご指摘の通り、2014年末頃からわずかに上昇をしております。さらに細かくその辺りまで触れればより分かり易かったかと思います。ありがとうございます。


また、名目賃金を使ったことにつきましては、ご指摘の通り実質賃金は大変重要なものだと考えています。物価下落が大きければ、賃金が小幅に下落しても購買力は増すということは言えると思います。


ただ、日本は長期的に緩やかなデフレが続いています。デフレは突き詰めれば供給に対して需要が不足している状態かと思います。こうした中では企業は売り上げを伸ばすことは容易ではない(出来ないということではありません)と考えるのが一般的とエコノミストの間では言われます。そのため、名目の変動も重視するわけです。もちろん、実質賃金の変動は重視しますが、長期のデフレが続く状態では、企業行動への影響の視点などから名目も重要視されるというわけです。


とはいえ、前述のように実質賃金は重要な指標です。合わせて記述すればさらに分かり易かったものと思っております。ありがとうございました。



日経ビジネス編集部

◇   ◇   ◇


平成」に関して「1990年代半ばから名目賃金は2005年前後を除いてじりじり低下を続け」と書いてあれば、読者は「2014年末頃からわずかに上昇をして」いるとは思わないはずだ。「2005年前後を除いて」との説明があれば、なおさらだ。こんな話をするまでもなく、今回の回答はしっかり疑問に答えているとは言い難い。

そこをしつこく追及するつもりはない。ただ、編集部として田村賢司編集委員に今後も記事を書かせ続けるのならば、しっかりとした支援体制を築くべきだ。そこは忘れないでほしい。


※記事の評価はD(問題あり)。田村賢司編集委員への評価はDを維持する。田村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_8.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_11.html

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_12.html

日経ビジネス「村上氏、強制調査」田村賢司編集委員の浅さ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_6.html

日経ビジネス田村賢司編集委員「地政学リスク」を誤解?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post.html

日経ビジネス田村賢司主任編集委員 相変わらずの苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_12.html

「購入」と「売却」を間違えた?日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/blog-post_30.html

「日銀の新緩和策」分析に難あり日経ビジネス「時事深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post.html

原油高を歓迎する日経ビジネス田村賢司編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_12.html

「日本防衛に“危機”」が強引な日経ビジネス田村賢司編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_18.html

「名目」で豊かさを見る日経ビジネス田村賢司編集委員の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_3.html

2019年5月13日月曜日

ライドシェア「米2強上場が試金石に」が苦しい日経 小柳建彦編集委員

13日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~ライドシェアは成り立つのか 米2強上場が試金石に」という記事は悪い出来ではない。同じ小柳建彦編集委員が書いた「経営の視点」でも、2018年9月17日付の「37億人のネットに『国境』 大手失策、国家の反撃招く」という記事よりかなり良くなっている。とは言え、気になるところはある。
別府海浜砂場(大分県別府市)
        ※写真と本文は無関係です

記事の終盤で小柳編集委員は以下のように書いている。

【日経の記事】  

利用者が多いほど利便性が増し競争優位になる効果が期待できるため目先の損益より顧客獲得優先――というのが将来価値を見込んで市場が赤字のインターネット企業に高い株価を付ける理屈だ。だが、ライドシェアには当てはまらないという指摘は多い。

コロンビア大経営大学院のレン・シャーマン客員教授はライドシェア業界が参入障壁が低く、行政による参入・料金規制がない限り過当競争で利益が出なくなるタクシー業界と「同じ構造だ」と指摘する。このため「自動運転の実用化まで利益は出ない」(米投資家)との声さえある。一方、参入・料金規制、労働規制が適用されれば競争条件はタクシーと同じ。欧米でドライバーを被雇用者とみなす判決が相次いでおり、現実的なシナリオだ。

利用者、ドライバー、会社、投資家の全員が「ウィンウィン」だとするライドシェアの事業モデルは、そもそも本当に成り立ち得るのか。上場後の米大手2社の業績と株価の動きがメルクマールになる



◎「メルクマールになる」?

まず「このため『自動運転の実用化まで利益は出ない』(米投資家)との声さえある」との説明が引っかかる。「ライドシェア業界が参入障壁が低く、行政による参入・料金規制がない限り過当競争で利益が出なくなる」構造だとしたら、「自動運転の実用化」ができても「利益は出ない」だろう。問題は「参入障壁」の低さのはずだ。

1社だけが「自動運転の実用化」を実現した状態で事業展開できるのならば話は別だが、そうした状況は考えにくい。

利用者、ドライバー、会社、投資家の全員が『ウィンウィン』だとするライドシェアの事業モデルは、そもそも本当に成り立ち得るのか」という問題に関して「上場後の米大手2社の業績と株価の動きがメルクマールになる」と小柳編集委員は解説している。

しかし「メルクマール」にはならない気がする。例えば「米大手2社」の業績が絶好調で株価も急上昇したとしよう。この場合「利用者、ドライバー、会社、投資家の全員が『ウィンウィン』」と言えるだろうか。「会社、投資家」は問題ない。だが「利用者、ドライバー」に関しては「業績と株価の動き」だけでは判断できない。

料金を上げて「利用者」の負担を増やした上で「ドライバー」をこき使い「業績と株価」を上向かせたのかもしれない。なのになぜ「上場後の米大手2社の業績と株価の動きがメルクマールになる」のか。

何を訴えたいかを十分に検討せずに記事を書き始め、結論部分は流れに任せて適当に書いたのではないか。その辺りを改善すれば、さらに完成度が高まるはずだ。

ついでに言うと「メルクマール」という横文字を使う必然性は乏しい。どうしても使うならば訳語は入れてほしい。個人的には「その答えは、上場後の米大手2社の業績と株価が教えてくれるはずだ」と直したい(「教えてくれる」とは思わないが、そこは置いて考えた)。見出しでは「米2強上場が試金石に」となっているので「試金石」を使う手もある。


※今回取り上げた記事「経営の視点~ライドシェアは成り立つのか 米2強上場が試金石に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190513&ng=DGKKZO44688460R10C19A5TJC000


※記事の評価はC(平均的)。小柳建彦編集委員への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。小柳編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「インドの日本人増やすべき」に根拠乏しい日経 小柳建彦編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_32.html

北朝鮮のネット規制は中国より緩い? 日経 小柳建彦編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_17.html

2019年5月12日日曜日

「日本企業の資金調達を巡る環境が急速に改善」と日経は言うが…

12日の日本経済新聞朝刊1面に載った「社債2年7カ月ぶり水準 4月発行、9割増の1.5兆円」という記事では冒頭で「日本企業の資金調達を巡る環境が急速に改善してきた」と言い切っているが、根拠に欠ける。記事の全文を見た上で、この問題を考えてみたい。
別府大学駅(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

日本企業の資金調達を巡る環境が急速に改善してきた。4月の国内での公募社債の発行額は約1兆5500億円と前年同月比で9割増え、2年7カ月ぶりの水準となった。米連邦準備理事会(FRB)の緩和的な姿勢を受けて金利環境が安定し、多くの企業が起債に動いた。設備増強やM&A(合併・買収)など成長投資への企業の意欲の強さを示している。

4月は1千億円以上の起債が相次いだ。ブリヂストンは年限が5年、7年、10年の3本合計で2000億円分を発行。設備投資や自社株買いの原資とする。ソフトバンクグループは個人投資家向け社債5000億円を発行。機関投資家向けも含めて日本企業の国内発行で過去最大となった。

5月以降も高水準の起債が続く見通し。例えば武田薬品工業は「ハイブリッド債」と呼ぶ特殊な社債を最大5000億円発行する予定だ。



◎2つの疑問が…

記事を信じれば「日本企業の資金調達を巡る環境が急速に改善してきた」きっかけは「米連邦準備理事会(FRB)の緩和的な姿勢を受けて金利環境が安定」したことだろう。米国の利上げ局面では「金利環境」が不安定で「日本企業の資金調達を巡る環境」は厳しかったと筆者は見ているようだ。

しかし、国内の「金利環境」は超低金利でずっと「安定」している。米国で資金調達する企業はともかく「日本企業」を全体として見て、それほど「日本企業の資金調達を巡る環境」が厳しかったのかとの疑問が湧く。

加えて、「国内での公募社債の発行額」の増減で「日本企業の資金調達を巡る環境」を見るのが適切なのかとも思う。「前年同月」に「起債」が少なかったのは、資金需要が乏しかったからかもしれない。「起債」するより銀行借り入れの方が有利だったという可能性もある。

記事からは、「起債」が増えた→「日本企業の資金調達を巡る環境」が改善--と単純に捉えている印象を受ける。

実は「日本企業の資金調達を巡る環境が急速に改善してきた」とは筆者も思っていないのではないか。記事を1面に持っていくためにインパクトのある表現を用いただけだと考えると腑に落ちる。


※今回取り上げた記事「社債2年7カ月ぶり水準 4月発行、9割増の1.5兆円
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190512&ng=DGKKZO44695970S9A510C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年5月11日土曜日

45歳も「バブル入社組」と誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」

日本経済新聞の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)の記事は相変わらず問題が多い。11日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~人生100年時代のテンショク」という記事では「45歳以上のバブル入社組」と書いていたが、現在の40代後半を「バブル入社組」と見なすのは無理がある。他にも引っかかる点があったので、以下の内容で問い合わせを送った。
湯けむり展望台(大分県別府市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中山淳史様

11日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~人生100年時代のテンショク」という記事についてお尋ねします。記事には「電機だけではない。人員削減は精密機械や医薬、化学のメーカーでもこの1年、増えている。対象は主に45歳以上のバブル入社組だ。同世代は大企業に約500万人いて、そのうち200万人は役職定年で管理職をはずれた、または管理職になれなかった社員たちだとの推計もある」との記述があります。

気になるのは「45歳以上のバブル入社組」という説明です。「バブル入社組」が入社したのは遅くても1992年までです。22歳で入社したとすると現在は49歳か50歳です。「45歳以上」という括りだと、40代後半が「バブル入社組」から外れて、就職氷河期世代を含んでしまいます。

今年3月15日付で御紙に載った「私見卓見~『就職氷河期世代』を生かせ」 という投稿の中で日本総合研究所副主任研究員の下田裕介氏は「30代後半~40代後半の人」を「バブル崩壊後に新卒の就活に挑まざるを得なかった『就職氷河期世代』」と位置付けています。このように「40代後半の人」は「就職氷河期世代」に属すると見るのが一般的です。

バブル入社組」を「45歳以上」とするのは誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、他にもいくつか指摘しておきます。まず以下のくだりです。

だが、ヒトが無価値や不要なコストであるはずはない。それがわかるのは会社が買われる時だ。買収価格は株主資本にプレミアムを乗せた水準で決まるが、その上乗せ分にはブランド力、人材の優秀さといった『BSには載らない資産』が反映される。ヒトの価値は『本来、大きいが見えにくい』というのが真実の姿だ

上記の説明では「ヒトの価値は『本来、大きいが見えにくい』」かどうか判断できません。仮に中山様の言う通りに「買収価格」が決まるとしても、「その上乗せ分」には「ブランド力」なども入ってくるはずです。だとすれば「会社が買われる時」に大きな「プレミアム」が付いたとしても、それは「人材の優秀さ」以外の要素が寄与しただけかもしれません。

そもそも「プレミアム」が付くかどうかという問題もあります。企業買収では「買収価格」が純資産を下回って「負ののれん」が生じる場合もあります。こうしたケースでは「ヒトの価値」がゼロという可能性も残ります。

次に問題としたいのが以下の説明です。

逆に、熱意ある社員が多かったのは欧米だった。これは当然かもしれない。不満を感じる社員は自然と外に出て行き、他の場所で『満足』を探す。そういう循環が欧米ではできているからだ。では、日本で人材が流動しないのはなぜか。一括採用や終身雇用を温存し、社員の再教育も後手に回った企業の責任は大きい

日本で人材が流動しない」との前提で話が進みますが、その根拠は示していません。日本では以前から大卒の新卒就職者の約3割が3年以内に離職すると言われています。だとすると、かなり「人材が流動」しています。「不満を感じる社員は自然と外に出て行き、他の場所で『満足』を探す」という「循環」は日本にもあります。日経でも「不満を感じる社員」が出ていった例は珍しくないはずです。

「欧米の流動性は日本の比ではない」と言うのならば、その根拠を示すべきです。

日本で人材が流動しないのはなぜか」と問いかけて「一括採用や終身雇用を温存し、社員の再教育も後手に回った企業の責任は大きい」と原因を探っているのも引っかかります。「一括採用」が「人材が流動しない」理由になるのでしょうか。通年採用にすると「人材が流動」するのですか。ならないとは言いませんが、なぜそうなるのか謎です。

さらに言えば、企業としては「人材が流動」するのが好ましいとは言いません。「中山さんの記事を見て、我が社は人材の流動化を推進しました。今や新卒採用者の9割が1年以内に退社します。我が社は人材流動化の優等生です」と言われたら「素晴らしい。日本企業の鑑だ」と思いますか。

他にも気になる点はあるのですが、長くなるので最後に1つ。中山様は記事を以下のように締めています。

人生のピークが後半にずれるライフシフトの時代が訪れるなら世代に関係なく、第2、第3のステージがもっとよくなる人生を試してみてはどうか。個人の幸福や企業の技術革新にかかわる大切な話だと筆者は考えるが、どうだろう

そう考えるのであれば、まずは中山様が実践してはどうですか。「第2、第3のステージがもっとよくなる人生を試してみてはどうか」と呼びかけておきながら、自分は新卒で日経に入ってずっとそのままなのではありませんか。それでは記事に説得力が出てきません。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

問い合わせに書き切れなかった問題点にも触れておきたい。

【日経の記事】

だが、平成の時代にもそうした考え方で外の世界に花を咲かせたバブル世代はいたはずである。探して話を聞いてみた。

一人は富士通を40歳で辞めた富野岳士さん(54)。大学院で学び直し、ボランティアなどを経て現在、IT(情報技術)を使って国際協力に取り組む非政府組織(NGO)の幹部として働く。もう一人はネットワーク技術者として就職した富士ゼロックスを辞めた軒野仁孝さん(60)。出版社やドラッグストアの役員を経て現在、投資ファンドの社長をしている。

「国際協力」「企業再生」という違いはある。だが、2人に共通したのは、就職当初は考えもしなかった世界で「天職を得た」と感じているところだった。

それで思い出したのがiPS細胞の山中伸弥・京都大学教授だ。同氏も大発見にたどりつくまでに臨床整形外科→薬理学→分子生物学→がんの研究→ES細胞の研究と多様な「職歴」を持った。



◎60歳も「バブル世代」?

まず「軒野仁孝さん(60)」が「バブル世代」なのかとの疑問が湧く。普通に大卒で就職していたら80年代前半に働き始めているはずで「バブル入社組」とはならない。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係です

また「平成の時代にもそうした考え方で外の世界に花を咲かせたバブル世代」をわざわざ「探して話を聞いてみた」のに、探し当てた2人のコメントがほぼないのも気になった。「2人に共通したのは、就職当初は考えもしなかった世界で『天職を得た』と感じているところだった」と書いて終わりならば、「探して話を聞いてみた」と切り出す必要があるのか疑問だ。

それで思い出したのがiPS細胞の山中伸弥・京都大学教授だ」というのも解せない。「薬理学→分子生物学→がんの研究→ES細胞の研究」というのは研究対象の変化を示しているだけだ。これを「多様な『職歴』」と見るのならば、終身雇用の下で1つの企業に勤めていても「多様な『職歴』」が得られる。

日経にも担当分野が次々と変わる記者がいるはずだ。そうした記者はずっと日経にいたとしても「多様な『職歴』」があると中山氏は考えるのだろうか。



※今回取り上げた記事「Deep Insight~人生100年時代のテンショク
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190511&ng=DGKKZO44637960Q9A510C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html

2019年5月10日金曜日

「今の学生はずっとゼロ金利」と誤った日経「ゆるみとゆがみ(下)」

今の学生は生まれてからずっとゼロ金利で育ってきた」と言えるだろうか。「日銀はデフレに対応するため、1999年にゼロ金利政策を導入した。2016年にはマイナス金利政策に踏み切った」というのが、その根拠のようだ。だが、この間に「ゼロ金利政策」が解除となった時期があるので「生まれてからずっとゼロ金利」とは言い難い。
藤蔭高校(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 馬場燃様 後藤達也様 福岡幸太郎様 浜美佐様 荒木望様

10日の朝刊経済面に載った「ゆるみとゆがみ~膨らむ副作用(下)マイナス金利 家計は敗者」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

『それって本当に動くんですか?』。京都大学で金融論を教える岩下直行教授は、最近の授業で学生が示す反応に戸惑いを隠せない。マクロ経済学の基本である金利が変動すると説明しても、キョトンとした顔をするのだ。今の学生は生まれてからずっとゼロ金利で育ってきたため無理もない。岩下教授は『金利は古い教科書にある話で、メリットや役割を実感できなくなっている』と苦笑する。日銀はデフレに対応するため、1999年にゼロ金利政策を導入した。2016年にはマイナス金利政策に踏み切ったが、物価は上がらない。かつて経済の体温計とされた長期金利もゼロ%程度に抑えこみ、家計、企業、政府の間にゆがみをもたらしている

本当に「今の学生は生まれてからずっとゼロ金利で育ってきた」のでしょうか。「日銀はデフレに対応するため、1999年にゼロ金利政策を導入した。2016年にはマイナス金利政策に踏み切った」と書いているので、99年以降は「ゼロ金利政策」または「マイナス金利政策」だと皆さんは認識しているのでしょう。

実際には2000年8月に「ゼロ金利政策」を解除しています。01年3月に「ゼロ金利政策」へと戻りますが、06年7月に再び解除へ踏み切っています。「今の学生は生まれてからずっとゼロ金利で育ってきた」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

記事には「金利は古い教科書にある話で、メリットや役割を実感できなくなっている」という「岩下直行教授」のコメントと整合しない記述もあります。

国立大学院に通う25歳の男性は『低金利の恩恵は全くない」と話す。低金利とはいえ学生ローンの固定金利は2%を超え、私大の学部時代を含め1千万円超の授業料などの借り入れの返済に家族も追われる。『Tポイントだけで1週間暮らしたことがある』と嘆く

学生ローンの固定金利は2%を超え」ているのならば、今の学生にも「金利」への意識はあるはずです。少なくとも「国立大学院に通う25歳の男性」は「金利は古い教科書にある話」とは感じていないでしょう。

ついでに言うと「低金利の恩恵は全くない」という「国立大学院に通う25歳の男性」の認識は誤りです。「低金利」だからこそ「学生ローンの固定金利」が「2%」台という低水準に収まっているのです。その「恩恵」はこの「男性」も得ています。それは皆さんも分かっているはずです。なのになぜ「低金利の恩恵は全くない」という誤解に基づくコメントをそのまま使ってしまったのですか。

付け加えると「Tポイントだけで1週間暮らしたことがある」とのコメントも引っかかります。「生活が苦しい」と訴えているのでしょうが、どちらかと言うと「1週間も暮らせる程のTポイントをためていたのか」という驚きが勝ります。例えば「1000円分のTポイントだけで1週間暮らしたことがある」となっていれば、話は変わってきますが…。

最後に記事の書き方について指摘しておきます。語順の問題です。記事には「みずほ総合研究所が16年2月に導入したマイナス金利政策の影響を経済主体別に試算したところ、家計への影響が大きいことがわかった」との記述があります

この書き方だと「みずほ総合研究所が16年2月にマイナス金利政策を導入した」と取れます。「16年2月に導入したマイナス金利政策の影響を、みずほ総合研究所が経済主体別に試算したところ、家計への影響が大きいことがわかった」と直せば問題は解消します。

みずほ総合研究所がマイナス金利政策を導入した」と誤解する読者は稀だとは思います。しかし「記事を作るプロ」と呼べるレベルを目指すのであれば、こうした点にも目配りすべきです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「ゆるみとゆがみ~膨らむ副作用(下)マイナス金利 家計は敗者
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190510&ng=DGKKZO44602980Z00C19A5EE8000


※記事の評価はD(問題あり)。連載の責任者は馬場燃記者だと推定し、馬場記者への評価をDで確定とする。

2019年5月9日木曜日

日経 水野裕司上級論説委員の「中外時評」に欠けているもの

8日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に水野裕司上級論説委員が書いた「中外時評~次はシニアの生産性革命」という記事では、「SCSK」の「シニア正社員」に関する説明に疑問が残った。問題のくだりは以下のようになっている。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

システム開発大手のSCSKが18年7月に設けた「シニア正社員」制度は、実績によって報酬に大きく差をつける。これは定年の60歳を過ぎてから65歳に達するまでの雇用制度で、毎月の基本給に加えて賞与や専門能力に応じた手当などを支給する。

会社への貢献度をもとに4段階で評価し、賞与は最も低いランクではゼロだが、ひとつ上になるごとに年間約100万~150万円加算される。成果をあげることで年500万円近い報酬を上乗せできるわけだ。専門性にもとづく年1回の手当も最大30万~40万円になる

評価者の管理職には、「その人の潜在能力ではなく、パフォーマンスをしっかりみるよう言っている」(人事企画部の和南城由修副部長)。本人があげた収益をもとに、その仕事の価値を見極め、報酬に反映させるよう求める

こうした実力主義の報酬制度は、シニアの雇用に対するイメージを一新する。定年後の再雇用でも、定年延長の場合でも、賃金は60歳前と比べ大幅に下げるというのが流れだったからだ



◎賃金水準を比較しないと…

こうした実力主義の報酬制度は、シニアの雇用に対するイメージを一新する。定年後の再雇用でも、定年延長の場合でも、賃金は60歳前と比べ大幅に下げるというのが流れだったからだ」と書いているので「SCSK」の「シニア正社員『制度』」では「賃金は60歳前と比べ」て大きく下がることはないのだろう。

だが、それを裏付ける数字を記事では示していない。「成果をあげることで年500万円近い報酬を上乗せできる」「専門性にもとづく年1回の手当も最大30万~40万円になる」などと記しているだけだ。これだと50代までの「賃金」との比較ができない。それで「こうした実力主義の報酬制度は、シニアの雇用に対するイメージを一新する」と書くのは感心しない。

シニア正社員『制度』」に関する「SCSK」のニュースリリースを見ても「60歳前と比べ」た数値は出していない。水野上級論説委員が取材の結果、「60歳前と比べ」た水準を把握したのならば、それを読者に示すべきだ。記事の書き方からは「60歳前と比べ」た水準が分からないまま「シニアの雇用に対するイメージを一新する」と持ち上げてしまった可能性が高そうな気がする。

疑問は他にもある。「シニア正社員『制度』」では「本人があげた収益をもとに、その仕事の価値を見極め、報酬に反映させるよう求める」と水野上級論説委員は解説している。全ての「シニア正社員」が営業職ならば分かるが、そうは書いていない。総務や経理の「シニア正社員」もいる場合「本人があげた収益」をどうやって算出するのか謎だ。

記事では「働き手の納得感を得るためにも、若手からシニアまで年齢を問わず、職務や成果をもとに報酬を決める透明性の高い仕組みづくりが求められる」とも書いている。総務部で働く「シニア正社員」は「本人があげた収益」がないので、「賞与は最も低いランク」のゼロとなるのだろうか。それで「働き手の納得感」は得られるか。あるいは総務や経理で働く「シニア正社員」でも「本人があげた収益」を大きくする仕組みがあるのか。

記事を読んでも、結局は分からないままだ。これでは辛い。

記事の続きも見ておこう。

【日経の記事】

なぜ、60歳以降の賃金は抑えられてきたのか。賃金制度の歩みから考えてみよう。

戦後、日本企業は、若手や中堅のときの賃金は低めにし、中高年になれば厚めに払ってバランスをとる年功制をつくりあげた。全額を精算し終える時点が定年だ。企業は賃金の「後払い」により、社員に会社への忠誠を求めた。引き換えに社員が受けた恩恵が長期の雇用保障だ。

右肩上がりの賃金カーブは1990年代初めのバブル崩壊後、修正が進んだ。しかし、いまなお年功色は根強く残っている。60歳以降になると賃金ががくんと減るのはその反動だ。

だが、デジタル化とグローバル化が進み、生産性の向上が必須になったいま、日本的な賃金制度は抜本見直しを迫られている。働き手の納得感を得るためにも、若手からシニアまで年齢を問わず、職務や成果をもとに報酬を決める透明性の高い仕組みづくりが求められる。シニアの雇用拡大はそのきっかけになる


◎「きっかけになる」と言うのなら…

シニアの雇用拡大」が「職務や成果をもとに報酬を決める透明性の高い仕組みづくり」の「きっかけになる」と水野上級論説委員は解説する。どういう流れでそうなるのか明確ではないが、取りあえず受け入れてみよう。ただ、最初に紹介した「SCSK」では「シニアの雇用拡大」が「若手」も含めた「賃金制度」の「抜本見直し」につながった話にはなっていない。

シニアの雇用拡大はそのきっかけになる」と訴えるのならば、それを実証する事例が欲しい。


※今回取り上げた記事「中外時評~次はシニアの生産性革命
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190508&ng=DGKKZO44479700X00C19A5TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。水野裕司上級論説委員への評価もDを据え置く。水野上級論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_28.html

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_22.html

宣伝臭さ丸出し 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_26.html

「脱時間給」擁護の主張が苦しい日経 水野裕司編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_29.html

「生産性向上」どこに? 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_23.html

理屈が合わない日経 水野裕司編集委員の「今こそ学歴不問論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post.html

2019年5月8日水曜日

おばあさん以外は「脇役」? 日経 武類祥子生活情報部長に異議

8日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「新時代の日本へ(6)主役はおばあさん」という記事に大きな問題は見当たらない。論旨もしっかりしている。ただ、その主張には同意できなかった。
大分県別府市 ※写真と本文は無関係です

筆者の武類祥子生活情報部長は以下のように記事を書いている。

【日経の記事】 

まだ見ぬ未来を憂うのは新時代の始まりにはふさわしくないかもしれない。ただ令和のこれからに思いをはせると、私たちが直面するシビアな現実が、いや応なしに浮かんでくる。少子高齢化、そして人口減少が本番を迎える時期と、令和は丸ごと重なるからだ。

2018年、総人口に占める高齢者の割合は28.1%になった。「令和の年表」をめくってみれば、24年の終わりには800万人いる団塊の世代が全員75歳以上になり、高齢者の高齢化が加速度的に進んでいく。

高齢者人口がピークを迎える42年、そして75歳以上人口が最大となる54年に向け、これから数十年の間、私たちは超高齢化の荒波を受け続けることになる。医療や介護の必要なお年寄りが激増し、支えるのに必要なお金も膨張していく。

その中で存在感を増していくのが高齢女性、つまりおばあさんたちだ。

長寿化を反映し、65歳以上の女性は18年、初めて2000万人を超えた。総人口の16%を占め、同世代の男性を500万人近く上回っている。そして今世紀の半ばには、日本人の5人に1人が高齢女性になる。そう、令和の主役はおばあさんなのだ

だが彼女たちが置かれた現状は、現時点では厳しいと言わざるを得ない。現在、要介護認定を受けている高齢者の7割近くが女性だ。健康寿命と平均寿命の差で示される不健康な期間も、男性より3年以上長い。

経済状況も明るくはない。男女の賃金格差は昔よりは縮まってきたものの、今でも男性の7割程度にとどまっている。

この格差を引きずったまま、高齢期を迎える女性は少なくない。65歳以上の就業率は男性の33.2%に比べ、女性は17.4%にとどまり、約16ポイントも低い。夫との離死別で一気に貧困に陥る問題も指摘されている。


◎他は脇役?

まず「令和のこれからに思いをはせる」上で日本人を「主役」とそれ以外に分ける必要があるのかとの疑問は感じた。武類部長の考えでは「令和の主役はおばあさん」で、おじいさん、おじさん、おばさん、若者は脇役なのだろう。

日本全体を考える上で、年齢や性別で区切って主役と脇役に分けることに個人的には抵抗がある。例えば武類部長が働く日本経済新聞社では、20代、30代、40代、50代で男女別に分けると50代男性が最大勢力となるはずだ。だからと言って「日経の主役は50代男性」と打ち出す意味があるのか。年代、男女の区別なく「主役」として頑張ってもらうべきではないのか。

さらに言えば「今世紀の半ばには、日本人の5人に1人が高齢女性になる」から「令和の主役はおばあさん」という考えにも同意できない。どうしても「主役」を決める必要があるならば、「令和」の日本を引っ張ってくれる人たちを選びたい。「人数が多い=主役」という基準は採用したくない。

おじいさん、おばあさん、おじさん、おばさん、若者の5つに分けて、その中から必ず「主役」を選べと言われたら、個人的には「若者」を推したい。

記事の後半部分も見ておこう。

【日経の記事】

だからこそ、おばあさんの活力を引き出すことが、令和の日本を明るくする。そう実感させてくれるのが、超高齢プログラマーとして知られる若宮正子さん(84)だ。

高卒で銀行に就職し、62歳まで働いた。リタイア後、母の介護で孤独になるのを防ぐため、60代でパソコンを始めた

プログラミングを独学で習得し、シニア向けのゲームアプリを作って、米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)から称賛された。国連にも招待され、英語で堂々とスピーチするその姿は、世界を驚嘆させた。

「いくつになっても進化できる」が持論の若宮さんは、82歳で個人事業主に。長年、年金暮らしだったが所得税を納める立場になった。「稼いだ分は、シニアのIT(情報技術)力向上に使います」とほほ笑む。

先進国の多くで平均寿命は80歳を超え、高齢化のトップランナーである日本の行く末を見守っている。

令和の日本を象徴する高齢女性が、与えられた長寿を存分に謳歌する。そんな幸せそうなおばあさんたちの姿を、世界の人々も見たいに違いない。



◎特殊な事例を持ち出しても…

若宮正子さん(84)」は立派な人なのだろう。だが、それを見て「おばあさんの活力を引き出すことが、令和の日本を明るくする」と言われても困る。日本の「おばあさん」の半分以上が「若宮正子さん」を超える潜在的な能力を持っているとしたら、「おばあさんの活力を引き出す」やり方が有効かもしれない。

しかし「プログラミングを独学で習得」できるような「60代」は多くないだろう。仮に「習得」できても、現役世代と伍していけるだけのレベルに達するとは限らない。「『若宮正子さん』にできたのだから、他のおばあさんにもできるはず」と武類部長が考えているのならば、あまりに楽観的だ。

「そうは思っていない」と言うのならば、何のために「若宮正子さん」の事例を持ち出したのかという話になる。

高齢女性が、与えられた長寿を存分に謳歌する」のはもちろん好ましい。だが、それを実現するための方策が、みんなで「若宮正子さん」を目指すものならば、現実的な策とは言い難い。


※今回取り上げた記事「新時代の日本へ(6)主役はおばあさん
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190508&ng=DGKKZO44504230Y9A500C1EA2000


※記事の評価はC(平均的)。武類祥子 生活情報部長への評価はCを維持する。武類部長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「日経 武類祥子次長『女性活躍はウソですか』への疑問」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_79.html