豊後森機関庫駅(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係 |
【日経の記事】
「業界用語」はその業界の栄枯盛衰を映し出す。東大の学内用語もご多分に漏れない。廃れてしまった用語の一つに「ネコ文二」がある。ネコとは動物の猫のことである。
東京大学は文科一類~三類、理科一類~三類という6コースに分かれて入試を行う。新入生は全員教養学部に所属し、2年次の進学選択制度(旧進学振分(ふりわ)け制度)を通じて、成績と志望に応じて専門の学部学科に進学する。よい成績を取らないと志望する学部・学科に進学できない理科一類(理一)の学生などは一生懸命勉強する。
ところが以前、文科二類(文二)からは単位さえ取れば成績が悪くても経済学部に進学できた。「ネコ文二」はこの状況を描写したものだ。科類等を勉強する順に並べると、文二は猫より劣るという意味である。
それが平成20年の全科類枠の導入を境にすっぱり変わった。全科類枠はどの科類からでも進学できる枠のことで、経済学部の場合、定員340人のうち、2割弱の60人が全科類枠として設定されている。勉強しない下2割の文二生は事実上経済学部に進学できなくなった。
上位8割に入ればよいならそれほど難しくない。みんな少し勉強するようになる。しかし、そうすると、上位8割のラインは上がる。だからもう少し勉強する。これを繰り返すことで、みんなかなり勉強するようになったのだ。怠け癖をつける暇もない今の経済学徒は昔よりずっと勉強熱心だ。
大学生が勉強しないと言って嘆く識者がいるが、制度を批判して人を批判せず。制度が変われば人は変わる。こうして、文二生はネコを超えたのである。
◇ ◇ ◇
◆疑問その1~「下2割」は「勉強しない」?
まず「勉強しない下2割」という決め付けが引っかかった。制度変更前の「下2割」が「勉強しない」人たちだったと断定して大丈夫なのか。記事では「勉強しない」かどうかの基準も示していない。一生懸命「勉強」したのに「下2割」になる人がいても不思議ではない。「そういう学生は1人もいない」と断定できる根拠を松井氏は持っているのか。
◆疑問その2~「下2割」はそんなに悲惨?
この制度変更で「みんなかなり勉強するようになった」らしいが、そんなに「経済学部」のステータスは高いのか。あるいは「下2割」が行く学部は圧倒的に格下なのか。
震動の滝(大分県九重町)※写真と本文は無関係 |
東大の事情に詳しくないので「違う」とは言わない。ただ、松井氏も「下2割」がどの学部に行くのか書いていない。個人的には文系学部の中で「経済学部」が凄いというイメージはない。「どの学部も同じ東大で大きな差はない」という印象だ。
自分が東大生になったらと想像すると「どこの学部に割り振られようと同じ東大なんだから、勉強はそこそこに大学生活を楽しもう」と考えそうな気がする。「そんな学生は実際にはいない」と松井氏が考えるのならば、その辺りの事情を東大関係者以外にも分かるように解説してほしかった。
例えば「下2割が行くA学部やB学部だと大手商社や外資系金融機関といった人気企業への就職はまず無理」などと書いてあれば、筋は通る。
◆疑問その3~「怠け癖をつける暇もない」?
「2年次の進学選択制度」に手を加えたことで「みんなかなり勉強するようになった」と松井氏は解説している。だとしたら「経済学部に進学」した後は「下2割」に入らないために「勉強する」必要がなくなる。
「怠け癖をつける暇もない今の経済学徒は昔よりずっと勉強熱心だ」というのは事実かもしれないが、学部が決まってからも「怠け癖をつける暇もない」理由は謎だ。そこの説明は欲しい。
◆疑問その4~もっと簡単な話では?
個人的には、東大生に「勉強熱心」になってほしいとは思わない。だが、取りあえず「勉強熱心」な方が好ましいとしよう。だったら話は簡単だ。単位の取得を難しくすればいい。「まじめに勉強しないと卒業できない」となれば、東大卒という経歴を手に入れたい学生は必ず「勉強熱心」になるはずだ。
「進学選択制度」を使うやり方だと、学部が決まってからやる気をなくすのを防げない。希望と異なる学部に行く「下2割」はその度合いがさらに大きいだろう。
「制度が変われば人は変わる」のはその通りだ。しかし「平成20年の全科類枠の導入」は松井氏が言うほど素晴らしいものではない気がする。
※今回取り上げた記事「あすへの話題~ネコ文二」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190530&ng=DGKKZO45157290T20C19A5MM0000
※記事の評価はC(平均的)。松井彰彦氏への評価も暫定でCとする。
0 件のコメント:
コメントを投稿