2019年4月28日日曜日

MMTの否定に無理あり 日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」

27日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『痛み見ぬふり』世界に拡散」という記事の中で、菅野幹雄氏(肩書は本社コメンテーター)が「現代貨幣理論」(MMT)の有効性を否定している。しかし、まともな主張とは思えない。
玄海エネルギーパーク観賞用温室と玄海原発
    (佐賀県玄海町)※写真と本文は無関係です

野党、民主党の急進左派に近い学者は『現代貨幣理論』(MMT)という仰々しい名前で、中銀マネーを当てにした財政拡張論を主張する」と述べた後で菅野氏は以下のように記している。

【日経の記事】

基軸通貨のドルを後ろ盾にすれば貨幣は自在に発行でき、巨額の財政出動をしても破綻はしない――。冒頭に挙げたMMTは現代版「打ち出の小づち」の構想ともいえ、左派の政策の理念的な支柱になりそうな勢いだ。

国際通貨基金(IMF)の元チーフエコノミストで政府債務の問題に詳しいハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は心配顔だ。「『ただのランチ』はない。すでに高水準の債務があり、未手当ての年金債務や医療費支出もある。誰も気づかない『隠れ資産』があると考えるのは空虚だ」と厳しい。

FRBの短期資金で長期の債務を買い上げる構図では、金利が急上昇した時に返済のコストが大膨張する。インフレに火が付いても金融政策で止められなくなる。そうしたリスクをまさに「見ない化」する発想といえる。

MMTを唱えるステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大教授は日本が「理論を実証してきた」と語る。だがロゴフ氏は「日本こそ高水準の債務と低成長が同居する国ではないか」と、成功例として捉える発想を否定する。



◎「否定」になってる?

MMT」に関して日経は別の記事(4月13日付)で「通貨発行権を持つ国家は債務返済に充てる貨幣を自在に創出できるため、『財政赤字で国は破綻しない』と説く」ものだとしている。「基軸通貨のドルを後ろ盾にすれば貨幣は自在に発行でき、巨額の財政出動をしても破綻はしない」と書いた菅野氏もほぼ同じ理解だと見てよいだろう。

その上で「MMTを唱えるステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大教授は日本が『理論を実証してきた』と語る」のに対し「ロゴフ氏は『日本こそ高水準の債務と低成長が同居する国ではないか』と、成功例として捉える発想を否定する」と解説する。これでは主張が噛み合っていない。

日経の説明を信じれば、「MMT」は「通貨発行権を持つ国家」であれば「財政赤字で国は破綻しない」と訴えているだけだ。「高水準の債務と低成長が同居」しないと主張している訳ではない。

ステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大教授」も「日本が『理論を実証してきた』」と語っているだけで「成功例として」捉えていると言える記述は記事中にない。

確かに日本は「財政赤字」による「破綻」は免れているが、国として「成功」しているかは別問題だ。定義次第で「成功」しているとも失敗しているとも言える。問題は「MMT」の「実証」例と言えるかどうかだ。その疑問に菅野氏は答えていない。

FRBの短期資金で長期の債務を買い上げる構図では、金利が急上昇した時に返済のコストが大膨張する。インフレに火が付いても金融政策で止められなくなる」という解説も問題なしとしない。

まず、唐突にこの話を持ち出しても「MMT」との関連が分かりづらい。4月13日付の記事では「米連邦政府の利払い費は年4000億ドル(約44兆円)近くに膨れあがっており、金利上昇は財政悪化を招きかねない。そのためMMTの提唱者は、中央銀行が長期金利を操作して金利上昇を抑えるべきだとも主張する」と書いている。この絡みで菅野氏は「FRBの短期資金で長期の債務を買い上げる構図」に触れたのだろう。

確かに「FRBの短期資金で長期の債務を買い上げる構図では、金利が急上昇した時に返済のコストが大膨張する」かもしれないが、「インフレに火が付いても金融政策で止められなくなる」と言い切る根拠は示していない。

それに「金利が急上昇した時に返済のコストが大膨張する。インフレに火が付いても金融政策で止められなくなる」と確信しているならば、日銀の異次元緩和には絶対反対の立場になるはずだ。しかし、過去の菅野氏がそういう立場で記事を書きてきたとは思えない。この辺りの疑問も残る。

MMT」は一見トンデモ理論のように思えるが、否定するのは意外と難しい。もちろん「否定するな」とは言わない。だが、菅野氏のような説明ではまともな否定論になっていない。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『痛み見ぬふり』世界に拡散
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190427&ng=DGKKZO44267000W9A420C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。菅野幹雄氏への評価もDを据え置く。菅野氏については以下の投稿も参照してほしい。

「追加緩和ためらうな」?日経 菅野幹雄編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_20.html

「消費増税の再延期」日経 菅野幹雄編集委員の賛否は?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_2.html

日経 菅野幹雄編集委員に欠けていて加藤出氏にあるもの
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_8.html

日経「トランプショック」 菅野幹雄編集委員の分析に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_11.html

英EU離脱は「孤立の選択」? 日経 菅野幹雄氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_30.html

「金融緩和やめられない」はずだが…日経 菅野幹雄氏の矛盾
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_16.html

トランプ大統領に「論理矛盾」があると日経 菅野幹雄氏は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_24.html

日経 菅野幹雄氏「トランプ再選 直視のとき」の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_2.html

0 件のコメント:

コメントを投稿