2019年4月22日月曜日

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員

日本経済新聞の西條都夫論説委員がまた雑な分析を披露している。22日の朝刊オピニオン面に載った「核心~平成の『敗北』なぜ起きた」という記事では「4月末に経済同友会代表幹事を退く小林喜光・三菱ケミカルホールディングス会長」を長々と持ち上げた後で、「平成の『敗北』なぜ起きた」について以下のように記している。
浦山公園の桜(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

そんな直言居士(※注:小林会長のこと)は、幕を閉じようとしている平成年間をずばり「敗北の時代」と呼ぶ。株式時価総額ランキングをみると、平成元年(1989年)には世界の上位20社のうち、NTTを筆頭に14社が日本企業だったが、今はゼロ。トヨタ自動車の41位が最高で、上位層は米国や中国のデジタル企業が占拠する。

マクロの経済指標でみても、89年には世界4位だった日本の1人当たり国内総生産(GDP)は18年には26位まで下落した。私たち日本人はかつて世界に誇った相対的豊かさをゆっくりと、だが確実に失いつつあるのだ。

その責任者は誰で、原因は何か。よく言われるのは人口減とデフレだが、いずれも根本原因とは思えない。人口減がトータルの経済規模に負の影響を与えるのは事実だろうが、それは人間の力では乗り越えがたい宿命論的な制約ではない。例えば人口増加率が1%程度だった中国はつい最近まで2桁の経済成長を実現してきた。人口がたいして伸びない中でも、やり方次第で高成長は可能なのだ。

デフレについても「マイルドなデフレ下で経済が繁栄した例は歴史上ある」と、マクロ経済が専門の立正大学の吉川洋学長は指摘する。代表例が19世紀のビクトリア女王統治下の英国だ。今の日本に似た「ダラダラとしたデフレ」が10年単位で続いたが、この時期に英国の産業や通商は飛躍し、フランスの沖合に浮かぶ島国が7つの海を支配する「大英帝国」に姿を変えた。

デフレや人口減が真犯人でないとすれば、何が停滞を招いたのか。小林会長の答えは極めてシンプル。「生産セクター、つまり企業の活力の衰えだ」という。日本企業がインパクトのある新製品や新サービスを生み出せなくなって、企業と経済の成長が止まり、日本の地盤沈下が進んだのだ。総じて言えば、昭和の時代に急成長した日本企業も徐々に年老いて、リスクを嫌がる保守的な組織になったということかもしれない

それを数字で示すのが、企業セクターのカネ余りだ。内閣府の国民経済計算によると企業(非金融)の17年度の純貯蓄は33兆円弱にのぼり、9年連続で家計を上回る最大の純貯蓄主体になった。これが資本主義のあるべき姿だろうか。高度成長期は家計の貯蓄を銀行経由で企業が借りて、リスクを取って新事業や新設備に投資した。そんな成長サイクルが途絶して久しい。

小林会長自身にはこんな経験がある。他社に事業統合や買収を持ちかけ、交渉はいい線まで行くが、最後の最後で断られる。その際の相手方トップのセリフはいつも同じ。「有力OBの○○さんが反対で、説得できませんでした」――。当該事業の盛衰に今後の人生が左右される若い人の意見ならともかく、役目を終えた人の発言がなぜ重きをなすのか。これも企業活力を阻害する一因と考える。


◎それはそうでしょうが…

何が停滞を招いたのか。小林会長の答えは極めてシンプル。『生産セクター、つまり企業の活力の衰えだ』という」と述べた上で「総じて言えば、昭和の時代に急成長した日本企業も徐々に年老いて、リスクを嫌がる保守的な組織になったということかもしれない」と西條論説委員は教えてくれる。しかし、これではまともな分析になっていない。
流川桜並木(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

圧倒的な強さを誇ったプロ野球チームが下位に低迷するようになったとしよう。その時に解説者がこんな分析をしたらどうか。「何が停滞を招いたのか。それは選手の力の衰えだ。かつて大活躍した選手も年老いて華麗で豪快なプレーができなくなった」--。

「主力選手の力がいずれは衰えていくのは当然でしょ。問題はなぜ世代交代に失敗したかじゃないの? そこを分析しないと…」という不満が出てきそうだ。

西條論説委員の分析にも同じことが言える。「昭和の時代に急成長した日本企業」が衰えても、平成の時代に生まれた企業が牽引すればいい。米国ではそうなっている。なぜ日本は米国のような世代交代ができなかったのか。そこを分析しないと。

株式時価総額ランキング」を基に「企業の活力の衰え」を見るのはダメとは言わないが注意が要る。「平成元年(1989年)」はバブルのピークだ。当時の「ランキング」が異常だったと見る方が自然だ。

日本企業がインパクトのある新製品や新サービスを生み出せなくなって、企業と経済の成長が止まり、日本の地盤沈下が進んだ」と西條論説委員は言うが、ならば当時の「ランキング」上位だったNTT、日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行、三菱銀行、東京電力は「インパクトのある新製品や新サービス」を次々と生み出して日本経済を引っ張っていく存在だったのか。


※今回取り上げた記事「核心~平成の『敗北』なぜ起きた
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190422&ng=DGKKZO43961980Z10C19A4TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

0 件のコメント:

コメントを投稿