2019年4月20日土曜日

「親子上場」否定論に説得力欠く日経「大機小機」

親子上場に否定的な記事は多いが、説得力のある主張に触れた記憶がない。20日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「大機小機~親子上場問題の本質」という記事も例外ではない。まず「認識が間違っている」と思える記事の前半を見ていこう。
流川桜並木(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

金融庁と経済産業省が親子上場を議論の俎上(そじょう)に載せ、社外取締役の役割を強化しようと働きかけている。親子上場は経営の規律を弛緩(しかん)させるとの認識に基づくが、どこまで本質を突いているのか。

最近注目された親子上場の一つはソフトバンクグループによる通信子会社の新規公開だ。日産自動車の事件は、ルノーの支配下にあった事業会社、日産の経営問題でもある。

親子上場が大手を振ってきたのは、経営者や投資家に合理的な意思決定や判断の能力が欠如していたからだろう。企業側として、ある事業に成長性と高い利益率が見込めるのなら、それは宝物である。その事業の権利の一部といえども、外部投資家に売却するのは正しくない

では、ある事業を子会社として分離し、その株式の一部を外部投資家に売ったとして、その背景は何か。当該事業が宝物ではなくなったか、他にもっと有望な宝物が見つかったからだろう。しかし、そう判断したのなら、部分的な売却に対する説明が難しい。完全売却がより望ましい。



◎「売却するのは正しくない」?

筆者の「癸亥」氏は「ある事業に成長性と高い利益率が見込めるのなら、それは宝物である。その事業の権利の一部といえども、外部投資家に売却するのは正しくない」と言い切っている。これは明らかに間違っている。「価格次第では売却が正しい」と考えるべきだ。

企業側」が「成長性と高い利益率が見込める」子会社を有していて、その価値を100億円とみているとしよう。そこに「外部投資家」が1兆円で買いたいと申し入れてきた。ここで「売却するのは正しくない」と言えるのか。「当該事業が宝物ではなくなった」訳でも「他にもっと有望な宝物が見つかった」訳でもない。「癸亥」氏は1兆円で「売却するのは正しくない」と考えるのか。では10兆円ならどうなるのか。答えは明らかではないか。

部分的な売却」も同じだ。100億円の価値がある子会社があって、その株式の10%を1000億円で買ってくれる投資家がいる場合、「外部投資家に売却する」のは間違った判断ではないと考えるのが当然だ。

後半も見ておこう。

【日経の記事】

もっとも、魅力度の低下した事業の一部分を子会社として残すのは親会社にとって保険となりうる。魅力度が高いと考えた新規事業の成果が芳しくなければ、残しておいた子会社の利益を強引に吸い上げればいい。投資家側からすれば、そんな子会社株式とは残りかすか二番手事業でしかない。しかも部分的に保有させられる子会社の経営権を肝心な局面で剥奪されてしまうのなら、リスクが高すぎる

以上、親子上場には、企業側にはメリットが残りうる。投資家側にはデメリットしかないそんな上場制度を許してきたのは、投資家がきわめて従順だったからでもある。

さらにいえば、政府もまた親子上場制度のメリットを享受してきた。国有事業の民営化において、親子上場を利用してきたのは周知の事実である。そもそも、上場した親会社の経営権さえ政府が掌握している。投資家としては、政府の利益が優先されるリスクを強く意識せざるをえない。

親子上場の本質とは、株主総会という最高意思決定の場において、一般投資家が影響力を発揮できないことにある。社外取締役の人数を含めた取締役会の構成ではなく、親子上場そのものを許すかどうかが問われている。



◎「デメリット」しかない?

親子上場が「投資家側にはデメリットしかない」との解説にも同意できない。「ソフトバンクグループによる通信子会社の新規公開」に関して考えてみよう。「通信事業に投資したいが、ソフトバンクグループは他にも色々手を広げているのが難点」と考えている投資家にとって「通信子会社の新規公開」は悪くない話だ。親子上場には、投資対象を限定できるという「メリット」がある。

部分的に保有させられる子会社の経営権を肝心な局面で剥奪されてしまうのなら、リスクが高すぎる」との見方にも異を唱えたい。これに関しては「リスク」に見合って株価が低くなれば解決する問題だ。

癸亥」氏は「投資家がきわめて従順だった」というが、「投資家」は「リスクが高すぎる」投資対象にも文句を言わずにカネを払うほど愚かなのか。そういう投資家がいないとは言わないが、機関投資家を含め全体をそう見なすのは無理がある。

子会社の経営権を肝心な局面で剥奪されてしまう」リスクがないとは言わない。だが、それは株価で調整できる問題だ。親子上場だとの情報公開がないままの「新規公開」を認めているのならば別だが、日本の親子上場にそれはない。だったら後は投資家が「親子上場ディスカウント」をどう判断するかだ。

親子上場」を認めても大した問題はない。色々考えても、この答えしか出てこない。


※今回取り上げた記事「大機小機~親子上場問題の本質
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190420&ng=DGKKZO43946480Z10C19A4EN2000


※記事の評価はD(問題あり)。

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