2018年1月26日金曜日

悪い意味で無邪気な日経 未来学面「考えるクルマ 街へ空へ」

25日の日本経済新聞朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学~第3部 SFを現実に 運転から解放される日 考えるクルマ 街へ空へ」という記事は、悪い意味で無邪気な記事だ。AIや自動運転車が未来を良い方向へ変えてくれるとの楽観的な分析が続く。説得力が十分にあれば「楽観的過ぎるからダメだ」とは言えない。だが、記事の説明には色々と疑問符が付く。中には「21世紀に入り、大衆消費社会は大気汚染をはじめ様々な問題を生んだ」という誤りと思える記述もあった。
福岡県立三池工業高校(大牟田市)※写真と本文は無関係です

記事には「ご意見や情報」を送るためのメールアドレスが載っていたので、そこに意見を送ってみた。

【日経へのメール】

日本経済新聞社 湯沢維久様 古川慶一様

25日朝刊未来学面の「ポスト平成の未来学~第3部 SFを現実に 運転から解放される日 考えるクルマ 街へ空へ」という記事について意見を述べさせていただきます。

まず「2週間前には米ゼネラル・モーターズ(GM)がハンドルやブレーキもない自動運転車を発表した」という説明についてです。GMが発表した自動運転車には「ブレーキ」が付いているのではありませんか。でないと怖くて乗れません。「ブレーキペダルもない」と言いたかったのでしょうが、ペダルをなくしても「ブレーキもない」車になるわけではありません。

次に「GMのお膝元のミシガン州デトロイト」にある「産官学で自動運転技術を磨く開発拠点」についてです。記事では「自動運転で最も難しいのは路面の凍結や降雪時だ」と前置きした上で、「(この施設では)どんな状況でも繰り返し繰り返し、動作を確認できる」との関係者コメントを使っています。

しかし「東京ドーム3個分の敷地」でどうやって「路面の凍結や降雪」といった状況を自在に作り出しているのか説明がありません。常識的に考えるとかなり難しそうです。可能だとしても莫大な費用がかかりそうです(特に夏季は…)。

その日がどんな天候であっても、繰り返し繰り返し動作を確認できる」という意味かとも思いましたが、その場合「路面の凍結や降雪時」の動作確認ができるのは限られた時期だけになってしまいます。

次に「空飛ぶクルマ」についてです。記事では以下のように記しています。

さらには、道路も必要としない『空飛ぶクルマ』の開発も世界で進む。『空飛ぶクルマ』は欧エアバスや米ライドシェア最大手のウーバーテクノロジーズなど様々な企業がしのぎを削る。日本ではトヨタ自動車のグループ15社が運営団体『カーティベーター』(東京・新宿)に資金を拠出。ドローン(小型無人機)を一回り大きくしたような試作機をこのほど完成させた。中村翼代表(33)は『2050年をターゲットに3次元の交通システムを作りたい』と意気込む

この説明だと何を以って「空飛ぶクルマ」と言っているのか、よく分かりません。「ドローンを一回り大きくしたような」乗り物で移動できて、「道路も必要としない」となると、これは「クルマ」なのでしょうか。個人的には「空飛ぶクルマ」だとは思えません。「空飛ぶクルマ」と言うからには「クルマ」として使える乗り物が空を飛ぶ必要があります。

百歩譲って、道路を走らなくても「空飛ぶクルマ」だとしましょう。その場合「空飛ぶクルマ」は既に実用化されています。例えばヘリコプターです。ドローンを大きくした乗り物を「空飛ぶクルマ」と呼ぶのに、ヘリコプターは「空飛ぶクルマ」ではないと考えるべき理由があるでしょうか。

次に「21世紀に入り、大衆消費社会は大気汚染をはじめ様々な問題を生んだ」との説明についてです。これは厳しく言えば誤りです。「日本では1967年8月に『公害対策基本法』、翌1968年6月に『大気汚染防止法』が公布され、自動車の排出ガス中のCOを3%以下にすることが義務づけられた」との記述がトヨタ自動車75年史にあります。湯沢様や古川様は年齢の関係で記憶にないかもしれませんが、日本では20世紀の方が排ガスなどによる大気汚染の問題は深刻でした。21世紀になってこうした「問題」が生まれたわけではありません。


次は以下の記述についてです。

未来のクルマはこうした弊害を取り除いてエコで効率的な社会への転換に一役買うだろう。EVはそもそも排ガスを出さないし、最短距離で目的地に誘導するAI搭載の自動運転車は渋滞解消にも貢献する。自動運転車が普及すれば、体の自由がきかない高齢者も外出しようとする気力が湧くだろうし、子育てに忙しい女性もネットで好きな時間に欲しい物をデリバリーしてもらえ、家事以外にもできることが増えるだろう

まず「最短距離で目的地に誘導するAI搭載の自動運転車は渋滞解消にも貢献する」との説明が理解できませんでした。例えば、東京・横浜間を移動するクルマのドライバーが現状では様々なルートを選んでいるとしましょう。これが「AI搭載の自動運転車」に置き換わると、全てのクルマが「最短距離で目的地に」向かうルートに集中します。故に東京・横浜間を最短距離で行けるルートの渋滞は非常に激しくなりそうです。AIが本当に「最短距離で目的地に誘導する」ならばの話ではありますが…。選択が分散している方が、全体としての渋滞も少なくて済むのではありませんか。
筑後吉井こころホスピタル(福岡県うきは市)
          ※写真と本文は無関係です

私見ですが、自動車の台数自体が現状のままでAI搭載の自動運転車に置き換わっていけば、別の理由で渋滞は今よりひどくなるでしょう。自動運転車に法定速度を超えて走る自由はないはずです。制限速度が40キロであればしっかりと守るでしょう。制限速度40キロや60キロの幹線道路でも、現状では混んでいなければ制限速度をかなり上回って全体が流れているのが普通です。

制限速度をきっちり守る自動運転車がある程度のシェアを占めてくれば、全体の流れは今より遅くなるはずです。それでも湯沢様や古川様は「AI搭載の自動運転車は渋滞解消にも貢献する」と本当に思いますか。個人的には、融通の利かないノロノロ運転のクルマばかりが増えそうで今から心配です。

最後に「子育てに忙しい女性もネットで好きな時間に欲しい物をデリバリーしてもらえ、家事以外にもできることが増えるだろう」との説明にも注文を付けさせてもらいます。

これは自動運転車との関連が薄そうです。例えば、時間を指定してピザや寿司を「デリバリー」してもらうことは今でも可能です。「ネット」がなくてもできます。

さらに言えば、自動運転車でのデリバリーになると、今より不便になるかもしれません。今ならば人が玄関先までピザなどを届けてくれますが、自動運転車には無理な話です。「子育てに忙しい女性」も自動運転車のところまで足を運ぶことになりそうです。

「新しい技術によって問題が解決され明るい未来が訪れる」と考えるのは悪いことではありません。ただ、物事には様々な面があります。少し斜めから見るぐらいの気持ちで記事を作った方がいいかもしれません。誰でも言えそうなことを書くのならば、その記事の筆者は湯沢様や古川様でなくてもいいのです。

意見は以上です。今後の参考にしていただければ幸いです。

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※今回取り上げた記事「ポスト平成の未来学~第3部 SFを現実に 運転から解放される日 考えるクルマ 街へ空へ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180125&ng=DGKKZO26097210U8A120C1TCP000

※記事の評価はD(問題あり)。湯沢維久記者と古川慶一記者への評価も暫定でDとする。

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