豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
米国内の一部からは、北朝鮮に核弾頭の保有を認めるかわりに、それらを何らかの管理下に置く案が出ている。オバマ前政権で大統領補佐官を務めたライス氏や、国家情報長官だったクラッパー氏が唱える案だ。国際機関による査察を受け入れさせることなどを想定しているのだろう。
しかし、この案は問題が多いうえ、とても危険だ。北朝鮮になし崩しの核保有を認めたら、追随しようとする国々が現れ、核武装を禁じた核拡散防止条約(NPT)の体制が崩れかねないからだ。実際に、9月8日に発表された韓国内の世論調査では、核保有への賛成が約6割にのぼった。
北朝鮮の核保有を米国が追認したら、すでにミサイル射程内にある日韓はずっと、彼らの核の脅威にさらされることになる。両国からは「米国から見捨てられた」との声が出るだろう。
「北朝鮮の核武装を許せば、日韓に駐留する米兵やその家族も核の脅威にさらされる。あり得ない案だ」。米政府当局者からも、こんな声が聞かれる。
ならば、北朝鮮への抑止力を強め、核を使わせない道を探るしかない。米国への核攻撃はもちろん、日韓に核ミサイルを撃っても「米国から必ず核で報復される」と分からせることが肝心だ。
◎「核を使わせない道を探るしかない」?
北朝鮮の核保有を容認する案に対して、色々と問題点を述べた後で「『北朝鮮の核武装を許せば、日韓に駐留する米兵やその家族も核の脅威にさらされる。あり得ない案だ』。米政府当局者からも、こんな声が聞かれる」とまとめている。問題はその後だ。
豪雨被害を受けた宝珠山駅(福岡県東峰村) ※写真と本文は無関係です |
「ならば、北朝鮮への抑止力を強め、核を使わせない道を探るしかない」と秋田氏は話を展開しているが、これは北朝鮮の核保有を前提にした話になってしまっている。核保有そのものを容認しないのならば「核を使わせない道」と言うより、「核を持たせない道」を「探るしかない」はずだ。それとも、「米国から必ず核で報復される」と北朝鮮が認識してくれれば「日韓に駐留する米兵やその家族」が「核の脅威にさらされる」ことはなくなるのか。
ついでに、秋田氏の言う「北朝鮮への抑止力を強め、核を使わせない道」の内容をもう少し見ていこう。
【日経の記事】
これは高度な心理戦でもある。米国は金正恩(キム・ジョンウン)委員長につながるルートを確保し、半ば悟らせるように、冷静に警告を伝えなければならない。本気度を知らせるには、核兵器を積めるB2、B52爆撃機をもっと定期的にアジアに派遣し、パトロールに当たるのも一案だ。
もっとも、こうした抑止策の意図を北朝鮮が読み誤り、戦争の危険を高めてしまったら元も子もない。必要なのはボタンの掛けちがいを防ぐための米朝の意思疎通であり、トランプ氏の挑発的なツイッターへの投稿は逆効果だ。
米国が核戦力をどう運用するかは日韓の安全保障に直結する。日米は年1~2回、拡大抑止協議を開き、核戦略を話し合う。そんな対話がさらに大切になる。
◎北朝鮮は分かってない?
個人的には、北朝鮮が「日韓に核ミサイルを撃って」くる可能性は限りなくゼロに近いと思っている。ロシアや中国に比べると核攻撃を仕掛けてくる確率は高いかもしれない。だがそれは、限りなくゼロに近い数値の中での差異だ。もちろん、この見方は間違っているかもしれない。
九州北部豪雨後の「菱野の三連水車」(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です |
なぜこんな話をしたかと言うと、秋田氏の解説には「何か働きかけをしないと北朝鮮が核攻撃を仕掛けてくる」との前提を感じるからだ。「日韓に核ミサイル」を撃ち込めば、大規模な報復を受けることは北朝鮮も分かっていると考える方が自然だ。分かっていないと秋田氏が考えているのならば、その根拠を示してほしかった。
「米国は金正恩(キム・ジョンウン)委員長につながるルートを確保し、半ば悟らせるように、冷静に警告を伝えなければならない」という解説が意味を持つとすれば、「北朝鮮は核攻撃に対して報復があると正しく理解していない」との前提が成り立つ場合だ。その場合、北朝鮮は簡単な損得勘定もできない指導者に導かれていると考えるほかない。そこまで愚かであれば、「半ば悟らせるように、冷静に警告を伝え」ても分かってもらえる可能性はほぼない。
「本気度を知らせる」ために「核兵器を積めるB2、B52爆撃機をもっと定期的にアジアに派遣し、パトロールに当たる」案も同じだ。北朝鮮が恐ろしいほど愚かでない限り、核先制攻撃は我が身を亡ぼす道だと分かっているはずだ。それが分からないほど愚かならば、「B2、B52爆撃機をもっと定期的にアジアに派遣」しても有効なメッセージにはならないだろう。
最後に、記事の結論部分にも注文を付けたい。
【日経の記事】
日本は唯一の核被爆国としても北朝鮮の非核化をあきらめるわけにはいかない。ただ、そこに至る道のりは長く、険しい。いちばん避けなければならないのは、最悪への備えを怠り、山火事が起きてからパニックに陥ることだろう。
◎あきらめないのは「北朝鮮の非核化」だけ?
「日本は唯一の核被爆国としても北朝鮮の非核化をあきらめるわけにはいかない」というくだりが引っかかった。「唯一の核被爆国」を持ち出すのならば、「全世界の非核化」を諦めないでほしい。もちろん米国にも非核化を求めてほしい。「米国の核兵器保有は仕方ないけど、北朝鮮はダメ」と言うのは「唯一の核被爆国」の立場から出てくる主張ではないだろう。
※今回取り上げた記事「Deep Insight~北朝鮮 封じ込めの盲点」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171004&ng=DGKKZO21840360T01C17A0TCR000
※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価もDを据え置く。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。
日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html
「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html
「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html
「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html
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