豪雨被害を受けた福岡県朝倉市 ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
「50%ですか。もうすぐトイレにお連れします」。東京都練馬区の有料老人ホーム「SOMPOケア ラヴィーレ鷺ノ宮」。介護福祉士の白石陽子さんが入居者の96歳女性にささやく。
「50%」はぼうこう内の尿の割合。下腹部につけたセンサー「DFree(ディーフリー)」が排尿を予測する。1日30回もトイレに行き、尿が出ない「不発」も頻繁だった女性。今は10回程度に減った。
◎トイレの回数「減った」ではなく「減らした」?
「ぼうこう内の尿の割合」を測る「センサー」を付けたら、「1日30回もトイレに行き、尿が出ない『不発』も頻繁だった女性」の排尿の回数が「10回程度に減った」という。これは奇妙だ。
「センサー」には尿意を抑える効果はない。「96歳女性」が「トイレに行きたいけれど、センサーは尿の割合20%だと示しているから、今は行く必要がない」と判断できるとも考えにくい。「10回程度に減った」とすれば、「介護福祉士の白石陽子さん」の判断で「減らした」のだろう。
だとすると、別の問題が生じる。「トイレに行きたい」と訴える「96歳女性」に「今は尿がたまっていないから我慢してください」と告げる必要がある。認知症などの問題がある場合、「96歳女性」に合理的な判断は期待しにくい。トイレに行きたいとの要望を3回に2回は却下されれば、「96歳女性」には大きなストレスがかかりそうだ。
そもそも「まだ尿がたまっていないから我慢させる」という手法でよければ、センサーに頼らなくてもトイレの回数は簡単に減らせる。「1日30回」もトイレに行くのだから、起きている間は30分程度の間隔でトイレに行くはずだ。「最低でも1時間は間隔を空ける」などと基準を設定すれば、回数は大幅に減る。
記事には他にも問題がある。続きを見ていこう。
【日経の記事】
ロボット導入が進めば職員の負担は減る。市場規模は20年に約500億円、30年には約2600億円に伸びると国は試算。導入支援の補助金を出してきた。
それでも乗り気な事業者は一部。介護労働安定センター(東京)の調査では8割弱の事業所が未導入だ。
なぜか。一つはお金だ。同じ調査では「予算がない」と6割が答えた。介護業界は中小事業者が9割とされる。「効果が不明なのに投資する余裕はない」(都内の事業者)。冒頭のロベアも導入すれば初期は1台数千万円かかると見込まれ、製品化に至らなかった。
◎「効果が不明」?
記事では「広義の『介護ロボット』」として「DFree」を取り上げ、その「効果」を紹介している。その後で「ロボット導入」が進まない理由として「効果が不明なのに投資する余裕はない」というコメントを使うのは、話の流れに反する。「ロボット導入が進めば職員の負担は減る」と記事でも断言している。「都内の事業者」が「効果」を分かっていないのであれば、なぜそうなるのか描くべきだ。
九州北部豪雨で被害を受けた「三連水車の里あさくら」 ※写真と本文は無関係です |
ついでに言うと「乗り気な事業者は一部」だとしても、少な過ぎるとも思えない。「8割弱の事業所が未導入だ」ということは、裏返せば2割強が導入済みだ。
記事では「残念ながら夢のロボットは介護現場にはいない。現時点での最先端は、歩行器やセンサーなど移動、見守りといった機能別に高齢者を支える広義の『介護ロボット』だ」とも書いている。つまり、「物足りないロボット」しかいない段階でも2割以上の事業所は導入している。さらに「市場規模は20年に約500億円、30年には約2600億円に伸びると国は試算」しているらしい。これが正しければ、市場規模は10年で5倍以上になる。
記事の結びで取材班は「普及が遅れた先に待つのは、高齢者を支えるヒトはおろか、ロボットすらいない未来かもしれない」と嘆くが、「ロボットすらいない未来」は訪れそうもない。
※今回取り上げた記事「砂上の安心網未来との摩擦(2) 介護ロボ普及に障壁 変わらぬ予算・人員基準」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171013&ng=DGKKZO22178290S7A011C1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。
最後まで苦しい日経「砂上の安心網~未来との摩擦(3)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_14.html
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