2017年7月26日水曜日

「年功序列」と関係ある? 日経「脱時間給で綱引き」への疑問

25日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「『脱時間給』で綱引き 政労使、調整急ぐ 生産性向上に期待/長時間労働に懸念」という記事について、追加で問題点を指摘したい。まずは、最初の段落を見ていく。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

脱時間給制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の実現機運が高まってきた。連合が内部の調整に手間取っているが、政府は月内の政労使合意を模索している。働いた時間でなく成果で働き手を評価する仕組みなだけに、生産性向上や年功序列による不公平感の解消といった効果が期待される。長時間労働によって健康を損なう人が増えるという反対論とどう折り合いを付けるかが焦点になる。



◎「年功序列」とどう関係?

引っかかるのは「働いた時間でなく成果で働き手を評価する仕組みなだけに、生産性向上や年功序列による不公平感の解消といった効果が期待される」というくだりだ。「脱時間給制度」を導入すると「年功序列による不公平感の解消」が期待できるだろうか。

脱時間給制度」によって、従業員に残業代を支払わず働かせることはできる。だが、給与を決める際に「年功」を重視するかどうかとは別問題だ。かなり強引に経路を考えない限り、「脱時間給制度」と「年功序列による不公平感の解消」は結び付かないはずだ。

記事を最後まで読んでも、「年功序列による不公平感の解消」がなぜ期待できるのか説明はない。「働く人にとっても良い制度だ」と訴えたいのは分かるが、根拠が乏しすぎる。

ついでに文の拙さにも触れておこう。「生産性向上や年功序列による不公平感の解消といった効果」と書くと、「生産性向上や年功序列」によって「不公平感」が解消するとも解釈できる。と言うか、そう読む方が自然だ。

また「年功序列による不公平感の解消」と言われると、「年功序列」によって「不公平感」が「解消」するようにも感じる。「原油安による株価上昇の抑制」と書くと「原油安」が株価の上昇要因なのか下落要因なのか判断が難しくなるのと似ている。

改善例を示してみる。


【改善例】

働いた時間でなく成果で働き手を評価する仕組みだけに、生産性を向上させたり、年功序列による不公平感を解消したりする効果も期待できる。

◇   ◇   ◇

これで、指摘した問題点は解消しているはずだ。

次に「脱時間給制度」が「生産性向上」につながるかどうかを検討したい。以下は記事の最終段落だ。
豪雨で橋梁が流された久大本線(大分県日田市)
       ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

日本の労働生産性は先進国の中でも低い水準にあり、規制緩和を通じた底上げが重要課題になっている。5月に就任したフランスのマクロン大統領は労働市場の規制緩和を公約に掲げた。残業時間の上限規制などの「働き方改革」だけでは生産性向上の視点が乏しいという指摘も根強いだけに、脱時間給制度の成否がカギを握りそうだ。


◎「労働生産性」が高まるとしたら…

記事には「日本の生産性はOECD加盟国のうち22位に低迷」というグラフが付いている。ここで用いているのは「2015年の1人当たり労働生産性」だ。つまり記事で言う「労働生産性」とは「時間当たりの労働生産性」ではなく「1人当たり労働生産性」のことだ。

脱時間給制度」を導入しても労働時間は増えないし、効率的な働き方が広がってむしろ減るとの前提で考えてみよう。制度導入は「生産性向上」につながるだろうか。

これまでAさんが年間の労働時間100で成果100を生み出していたとしよう。「脱時間給制度」の導入によって労働時間80で成果100を達成できるようになっても、「1人当たり」の生産性に変化はない。労働時間100のままで成果が110になるのならば「生産性向上」は実現するが、「脱時間給制度」の導入だけでそんな夢のような話が実現するとは考えにくい。

脱時間給制度」が「1人当たり労働生産性」を高めるとしたら、この制度が労働時間を増やす効果がある場合だ。Aさんの労働時間を200にして成果も200に増やせば「1人当たり労働生産性」は2倍になる。

今回の記事では「生産性向上に期待」と見出しでも打ち出している。だとしたら、「脱時間給制度」とは、残業代がなくなり労働時間が増える制度だと思える。日経は「脱時間給制度」の導入で「生産性向上が期待される」と主張するのならば、なぜそういう「期待」が持てるのかきちんと説明すべきだ。「労働時間が増えない」との前提で話を進める場合、かなり無理が出てくるだろう。


※今回取り上げた記事「『脱時間給』で綱引き 政労使、調整急ぐ 生産性向上に期待/長時間労働に懸念
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170725&ng=DGKKZO19200150U7A720C1EE8000


※記事の評価はD(問題あり)。今回の記事に関しては、以下の投稿も参照してほしい。

「脱時間給」必要性の説明に無理あり 日経 山口聡記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_25.html

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