2017年7月30日日曜日

「脱時間給」で八代尚宏教授が愚か者に見える日経の記事

脱時間給」で日本経済新聞が頼りにしているのが「労働経済学が専門で、政府で規制改革推進会議委員を務める八代尚宏・昭和女子大学特命教授」。30日朝刊総合3面にも「休日確保義務は有効 八代尚宏・昭和女子大学特命教授に聞く」というインタビュー記事が出ている。
豪雨被害を受けたJR久大本線(大分県日田市)
          ※写真と本文は無関係です

ただ、八代教授の説明は辻褄が合っていない。記事が発言を正しく伝えているのならば、日経としては八代教授を使わない方がいい。「脱時間給」制度の必要性を認識してもらう妨げとなるだけだ。

問題のくだりを見ていこう。

【日経の記事】

――過重労働を助長するとの懸念がでています。

「労働時間短縮には残業時間に上限を設けるというやり方がある。だが、脱時間給の対象になる人たちは家に帰ってもアイデアを練り、仕事のための資料を点検する。こういった時間を労働とみるかどうかの境目は曖昧だ。残業上限を適用しても実効性が弱い

――連合が求めていた修正案をどう評価しますか。

「かなり筋が良い提案だった。現行案は365日働かせられる。労働の境目が曖昧だから連合案の『年104日以上』という休日確保の義務付けで過重労働を防げる。政府は連合の修正案を取り入れるべきだ」


◎休日にはアイデアを練らない?

脱時間給の対象になる人たちは家に帰ってもアイデアを練り、仕事のための資料を点検する」から「残業上限を適用しても実効性が弱い」という八代教授の主張を取りあえず受け入れてみよう。その場合、「『年104日以上』という休日確保の義務付けで過重労働を防げる」だろうか。
豪雨被害を受けた福岡県朝倉市
      ※写真と本文は無関係です

家に帰ってもアイデアを練り、仕事のための資料を点検する」人がいるとは思う。ただ、そういう人は休日も同様だと考える方が自然だ。「仕事がある日は帰ってからもアイデアを練るが休日には練らない」との前提は、あまりに不自然だ。

家に帰ってもアイデアを練り、仕事のための資料を点検する」から「残業上限を適用しても実効性が弱い」のならば、「過重労働」を防ぐ手立ては基本的にない。家の中で仕事のアイデアを考えている人を強制的に休ませる手段などない。それは休日でも同じだ。

八代教授は「残業上限の適用には反対だが、休日確保の義務付けは容認」という主張に合わせるために、ご都合主義的な主張を展開しているのだろう。だが、整合性の問題が大きすぎる。

今回のインタビュー記事だけ読むと、八代教授が愚か者に見える。仮にそうだとしても、せっかく取材に応じてくれているのだから、そこは日経の記者がカバーしてあげてほしい。「辻褄が合わなくないですか」などと取材時に質問すれば、八代教授もさすがにそれなりの弁明を加えてくれるのではないか。

ついでに言うと、インタビュー記事とセットになっている「働き方改革の道筋~『脱時間給』停滞を懸念 連合の容認撤回で 経済界、政権の本気度探る 」という記事は好感が持てた。

【日経の記事】

政府不信は根深い。昨秋始まった働き方改革実現会議も、経済界の思惑通り運ばなかったとの思いがある。検討が進むのは残業上限や同一労働同一賃金など労働者に優しい政策ばかり経済界が求めた脱時間給などの議論は不完全燃焼に終わった。あるメーカー幹部は「せめて脱時間給ぐらい入れてくれないと、改革にならない」とぼやく。



◎正直さに好感

上記の書き方からは「脱時間給は労働者に優しくない政策」だと明確に読み取れる。「脱時間給」で日経の記事に問題が多いのは、「労働者に優しくない政策」を「労働者に優しい政策」のように見せようとするからだ。今回の記事にはそれがない。

日経が「脱時間給」の導入を求めるのはいい。メディアの性格からして、その方が自然だ。だが、ムチをアメに見せかけるような姑息な真似は止めてほしい。


※今回取り上げた記事

休日確保義務は有効 八代尚宏・昭和女子大学特命教授に聞く
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170730&ng=DGKKZO19429400Z20C17A7EA3000

働き方改革の道筋~『脱時間給』停滞を懸念 連合の容認撤回で 経済界、政権の本気度探る 」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170730&ng=DGKKZO19429340Z20C17A7EA3000


※記事の評価はいずれもC(平均的)。

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